本当の世界
ビルが立ち上り、人の行き交いが多い場所に僕は居た。
正確に言えば飲食店が立ち並ぶ路地裏のゴミ箱の横に居た。
飲食店から出た廃棄の食べ物を漁るためだ。
時折人が通り僕と目が会い、軽蔑した眼で足早に去っていく。
どんなにみっともなくても人は飢えを凌ぐためには、食べないといけないのである。
「これも最後の晩餐か…。」
高校受験が終わり高校入学を控えた3月下旬、僕は玄関を飛び出した先は何故か異世界だった。
そして苦難の末僕は魔王を倒し、一週間後に元いた現実世界に帰ってきた。
帰ってきたのだ…。
だが最初に向かった僕のあるはずの家はない。
ないどころかもはやこの世界そのものが、僕の全く知らない別物になっていた。
慌てて市役所を訪ね僕や僕の両親、また友人を担当の人に調べて貰うと全員…亡くなっていた。
1000年前に…。
それからは実に簡単だった。
その場で今までの経緯を担当の人に話すと、おかしい人扱いを受けましてや不法滞在者として、警察に通報されたのだ。
それからは世間から身を隠すように、なろうとしてなった言わんばかりのホームレス生活が始まった。
そうして伸び切った髪に伸び切った髭、ボロボロの雑巾の用な服を纏っており、僕が17歳だと誰が信じるだろうか?
あれほどの心待ち侘び帰りを望んだ現実世界では、僕は死んだことになっており、帰る場所も知る人も居ない。
唯一の繋がりと言えば、帰り際にリムルとカウラが土産としてくれた、首からぶら下がった真っ赤な賢者の石のかけらである。
今の僕の見た目や格好からあまりにも不釣り合いな品物であった。
僕は静かに勝手に忍び込んだ高層ビルの非常階段を、ゆっくりと昇っていく。
そう。今日は僕がこの世界に戻ってきた丁度1年と一週間後である。
僕はこの世界の住人ではない、だからこそ死の覚悟を決めたのだ。
一歩、一歩階段を踏みしめながら、この世界に来たときの事を考える。
あの異世界で出来た最強の勇者の力も、ここでは全く使えずに居た。
つまりこの世界も向こうの世界も僕にとってただの異世界だったのだ。
屋上に出ると風の音が騒々しくざわつく。
ネオンの光が送り火の用に、僕の魂の終わりを告げるように灯していた。
「父さん、母さんこんな形で死ぬ僕を許してほしい。リムル、カウラ約束守れなくてごめんな。」
僕は高層ビルの屋上から身を投げ、静かに目を瞑り自分の一生の終わりを願った。
その瞬間僕の頭の中で、声が聞こえるような気がした。
「どうか****さい…。お願**ま*。*****様お助け**さい…」
風の音がうるさすぎて、うまく聞き取れない。
だが消え入るような小さな少女の声が、ただ何かに祈っている用だった。
何か首元でとても眩しい光が、瞼をチラつかせていた。
僕は瞑っていた瞼を開き首元を確認すると、賢者の石の欠片が眩く光を放っていた。
その光を確認すると共に、僕の頭とアスファルトの差が1ミリもない事を確認できた。