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宿代は必ず返します!

 数日後、体力が回復したミロは宿屋を後にした。そして、その横に佇む少女が一人。


「色々とありがとうございますヴィオラさん。おかげで大変助かりました。あ、あの……宿代は必ず返しますんで」


 すまなそうに頭を下げるミロ。

 ヴィオラはぶんぶんと首を横に振る。

 実は、ヴィオラの宿代を払ったミロは一文無しだった。そんな彼の宿代を今度はヴィオラが払っていたのだ。


「い、いえ! わ、私も宿代を出してもらいましたしっ! お、おあいこですからっ! 気にしてませんから!」


 ガチガチに緊張しながら、ヴィオラは直立で答える。

 ミロは首を横に振った。


「いえ、女性にお金を出させるなんて男としてあるまじき行為です! 宿代は、絶対に返しますから!」


 真剣な眼差しで見つめてくるミロ。

 どうやらミロは、女性に負担をかけさせるのを極端に嫌う性格のようだ。

 今時珍しい人だなぁ……。

 そんなミロに、ヴィオラは思わずポーっとする。


 昨今、女性におごってもらうことなど当たり前の世の中である。特に大金を持っているヴィオラは、色んな輩にたかられそうになったことが何度もある。そんな中、ミロは自分の装備を売ってまで宿代を出してくれ、さらに自分の宿代は必ず返すと言う。そんな性格のミロに、ヴィオラはますます好意を持っていた。


「しばらくの間、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いしますね!」


 そう言ってミロはヴィオラの手を取り、ギュッと握手をした。その瞬間。


――ポピーッ!


 両耳から水蒸気を出し、ヴィオラは顔を真っ赤にさせた。

 フラッと思わず意識が飛びそうになるヴィオラ。そこをグッとこらえ、なんとか意識を保つ。

 ……駄目だ。ミロくんに見つめられると、立つことはおろかまともに顔すら見ることができない……。こんなんじゃこれから先、彼と一緒に行動することなんて出来ないわ……。

 ヴィオラの頭の中に、先ほど宿でやりとした光景が浮かぶ。


「あのよろしかったら、一緒にパーティを組んでもらえませんか?」


 突然のミロからの申し出に、ヴィオラは意識が飛んだ。


「ヴィオラさん! ヴィオラさん! しっかりして下さいヴィオラさん!」

「ハッ?!」


 ヴィオラの肩を掴み、ミロが一生懸命揺すっている。

 ミロくんが! 私の肩に触れている! ミロくんが!

 再び意識がぶっ飛ぶヴィオラ。


「ヴィオラさん! ヴィオラさん! しっかりして下さいヴィオラさん!」

「ハッ?!」


 そんなやりとりを5回くらい続けて、やっと二人は本題に入れた。

 ヴィオラに立て替えてもらった宿代を返すため、真面目なミロは暫くの間一緒にパーティを組まないかと提案してきた。それは、彼と一緒に行動したいと思っていたヴィオラにとって渡りに船、願ってもない話だった。

 ヴィオラは二つ返事で了承した。

 だが、彼女の様子を見る限り、どうやらこの話はそう簡単な内容ではないらしい。先行きが不安である。


「と、ところで! ミロさんのこれからの予定は?!」


 視線を泳がしながらヴィオラはミロに尋ねる。

 ミロはふむと考え込んだ。


「そうですね、まずはやっぱり武器を買うためにお金を稼ごうかなと」

「それでしたら、私がいくらでも出し……」

「駄目です! 女の子にお金なんて絶対に出させません!」


 すごい剣幕のミロに、ヴィオラはタジタジになる。

 実は、武器や防具を必要としないヴィオラは、今まで冒険で稼いできたお金をほぼ全て貯金していた。その額、50兆マニー。レベルも桁外れな彼女は、貯金総額も桁外れだった。

 やろうと思えば、この村ごと買い上げられるヴィオラにとって、ミロの装備一式を揃えることなんて朝飯前だった。だが、女性に負担をかけさせるのを嫌うミロは絶対に受け取ったりはしないだろう。

 ヴィオラはミロから少し離れて、懐から巾着袋を取り出した。


  魔道具No.2

  名称【 電着袋 】

  効果【 声を吹き込むことで、離れた相手と話すことが出来る 】


「あーあー、こちらヴィオラ。聞こえますか、どうぞ」


 電着袋に向かって声を吹き込むヴィオラ。しばらくすると、電着袋から男の声が聞こえてきた。


「あーあー、こちらガストン。聞こえますよ、どうぞ」

「さっき依頼した作戦を決行します。準備よろしくです、どうぞ」

「了解しました、どうぞ」


 やりとりを終えて、ヴィオラはニヤリとやらしい笑みを浮かべる。

 そして、スキップしながらミロに駆け寄った。


「ミ、ミロく~ん。じ、実はね、ここにサビレ村商店街の福引券があるんだけど……」


 そう言って、ズラッと福引券を取り出すヴィオラ。


「うわ、凄い持ってますね。それだけあれば、きっと当たりますよ!」


 ニッコリと微笑むミロ。その眩しい笑顔に、ヴィオラはクラクラする。

 ああ……ミロくんってば、マジ天使。


「も、もしよかったら、福引券を半分あげるから一緒にやってみてくれないかな……?」

「え? 僕がですか?」

「う、うん。ホラ、ビギナーズラックってあるでしょ。私ってばクジ運なくて、今まで当たったことないの。ミロくんは、ここの福引きって初めてでしょ。きっとそう言う人の方が当たるような気がするんだぁ……」

「なるほど……うん、わかりました。一緒に行きましょうか」


 その答えに、ヴィオラの表情がパアっと明るくなる。作戦の第一段階成功だ。

 待っててねミロくん。私があなたに最高の装備をプレゼントするから! 

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