優しさ
昨日とは立場が変わって、今度はヴィオラがミロを担ぎながらサビレ村へと戻ってきた。
「ミロくん、しっかりしてミロくん!」
背中のミロに声をかけるヴィオラ。だが、気絶しているミロからは返事は無い。
心配で仕方ないヴィオラは、駆け足で村を駆け抜けていく。
そんなヴィオラを見て、サビレ村の住人は驚いていた。
最強の冒険者であるヴィオラ。その事実は有名で、この村の住人誰しもが知っていることだ。そして、強すぎるが故に彼女が誰ともパーティを組まないことも。そんな彼女が、年端もいかない少年を担いでいるのだ。驚かない訳がない。
「おいおい大丈夫か?!」
そんな中、ひげもじゃのガタイの良い男が話しかけてきた。この村でよろず屋を営んでいる男、ガストンである。
基本、武器や防具を必要としないヴィオラだが、戦闘時以外にも使える様々な効果を持つ魔道具だけは別だ。そして、ガストンの店では、武器や防具の他に魔法具も取り扱っている。ちなみに、彼女の持っていた魔道具【見えるんです】も彼の店で購入したものだった。
先を急いでいるヴィオラは、軽い会釈をしてその場を去ろうとした。
「こいつぁ、さっきうちの店に来たボウズじゃねぇか。もしかして魔物にやられちまったのか? だからあれほど装備はちゃんとしろよって言ったのに……」
ガストンの言葉にヴィオラは足を止める。
「ど、どう言うこと?」
「どう言うこともなにも、こいつさ、今日の朝早くうちの店に木刀と革鎧を売りに来たんだよ。で、何も買わずに帰ろうとするからさ、俺っち忠告したんだよ、ちゃんと装備を整えないと危ねぇぞって。ったく、言わんこっちゃねぇ」
ガストンの話に、ヴィオラは愕然としていた。そして全てを理解した。
そう、ミロは見ず知らずの自分の宿代を払うため、持っていた武器と鎧を売っていたのだ。しかもそれを恩に着せる訳でもなく、彼は黙って去ろうとしていた。
事実を知ったヴィオラの瞳から、ポロリと涙が溢れる。
そのあまりの強さから、ヴィオラは今まで誰にも頼らずに生きてきた。近づいてくる人間といえば自分の力を利用しようとする輩ばかり。だが、ミロは違った。彼は見ず知らずの自分のため、なけなしの自分の装備品を売って宿代にしてくれたのだ。なんと言う自愛あふれる行動なのか。
生まれて初めて人の優しさに触れ、ヴィオラは大きな感動を覚えていた。
私も……。
ヴィオラはその場を駆け出す。
私も、ミロくんに何かしてあげたい!
魔王を倒し、目標を見失っていたヴィオラ。だが彼女の中に、また新たな目標が芽生えようとしていた。