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彼岸花が咲く頃  作者: 花染
神子と騎士
3/8

2

 俺とトパーズ、ソフィアは、仲が良かった親友だった。どんな時も何処でも何時もいっしょに居た。バカげたこともふざけたことも何でもやっていた。


 ソフィアが居たら自然と人助けも出来た。トパーズが居たら自然と友達を守る事が出来た。




 だけど、けれど、戦争によりそれが全てを奪った。





「じゃあこの人は、誰なんだよ!そっくりさんって…!ボクがあげた髪飾りだってあるんだ」


 ソフィアは、この忘却の海に落ちて死んだ。俺たちの目の前で、希望と夢を見ながらソフィアは、死んだ。


 だからそいつは、ソフィアじゃない。


「ほら、ザックがあげたピアスだって」


 トパーズは、ソフィアのそっくりな人を抱き寄せて俺を見る。生きている筈が無い。


「ソフィアが死んでるって解ってる。でも、こんなにも似ている人が居たらそれが嘘だと思うだろ?」

「トパーズ…」


 トパーズとソフィアは、愛し合っていた。そんな二人を見るのが好きだった。だから、守りたかった。でも、俺は、守れなかった。


「…う…うぅぅ~…」

「大丈夫か?」


 目が覚め 俺とトパーズを見て首を傾げた。


「名前、何?何て言うの?」

「名前?」


 起きてからの質問がこれ?そう思うが、俺もそれが聞きたかった。


「…私の名前は…ソフィア」

「……ソフィア」


 ソフィア。そんな事ってあり得るわけ無い。いやたまたま同じ名前だ。


「アークルの声を聞くものです」

「アークルの声を?おとぎ話に出てくる“神子”みたいだな」


 おとぎ話。龍王の欠片に出てくるやつ。光の柱。湖。神アークル。教会。神子。これが偶然とは、思えない。


「忘却の海に落ち神に選ばれしき者は、神子となり再び帰ってくるだろう」


 お父さんが何時も言っていた言葉だ。嘘ではなかった。冗談では無かったんだ。


「あれは、おとぎ話じゃあなかったん?俺たちがソフィアを神子にしたってわけなん?」


 ソフィアは、にっこり微笑みながら俺たちを見る。その笑顔は、寂しげで、瞳は、深い海のように蒼く輝いていた。俺たちが知っているあのソフィアだ。


「大丈夫です。希望は、何時も心の中にあります。希望を見失い限り私がもう、あの頃の私じゃあなくなっても私は、ここにいます。だから、自分を攻めないでください。ザック、トパーズ」

「ソフィア…」


 そうだ。これも知っている。この言葉で俺たちは、何でも出来ると思っていた。


 目が熱い。堪えていた涙が耐えきれなくなり頬から流れ落ちていくのが解った。トパーズも同じように涙を流し泣いていた。


 あの頃と同じように俺たちは、泣いていた。でも今度は、違う。悲しみの涙ではなく再会できた喜びの涙だ。


「悲しまないで下さい」

「悲しくないだ。君に出会えて嬉しいのに涙が出るんだよ。ソフィア」

「私に出会えて?」


 首を傾げ俺たちを見て、出入り口の扉を見る。


「誰か来ます」


 誰か来るって、誰だろ?いや、こんなこと考えている暇はない。此処には、死んだ筈のソフィアがいる。神子が現れたと言うことになると此処に元々居たやつらが、ソフィアを捕らえるだろう。


 そんなのは、嫌だ。


「トパーズ、ソフィア、此処から逃げるんじゃ」

「逃げろって、何処に逃げるんだよ!?何もない所に…」

「この湖に逃げるんじゃ」


 二人は、人魚だ。それにもう、神子は、ソフィアだ。この中に入ってもソフィアもトパーズも帰ってこない事はない。


「そうですね。此処なら安全です。トパーズ」

「ザックは、どうするんだ?」

「俺は、大丈夫じゃけん。もし、何があっても俺は、強いけんな」


 そう言って微笑みかければ、二人が心配することはない。トパーズは、目をそらして、渋々ソフィアと一緒に湖へと入っていった。


 俺が二人を守る。何を引き換えてもどんなことがあっても守り続ける。単なる俺が一人になるのが嫌だからと言う理由でも良い。親友が目の前で死ぬのは、二度と無いようにしたいだけかもしれない。


 二人を守る事が俺の存在理由ならなんだって出来るんだ。


「お前が神子なのか?」

「いや、違う。アイツは、あの有名な盗賊団の首相“月読みのザック”だ」


 男の人間が三人。奥にも更に五人いると言うことは、合計八人と言う事だ。武器を向けられたら戦うしかない。


 勝つためには殺すしかない。けど俺は、それができるのだろうか?


「よー知っとるな。と言うか神子って何じゃ?」

「お前には、関係ない。此処にお前以外に誰かいなかったか?」

「おらん」


 男たちは、中に入って辺りを歩き回り俺を睨む。明らかにわざとだ。ソフィアを探していると言うことは、解っている。俺は、座り込みため息をはく


「にしても此所から見える月は、何時見ても綺麗じゃな」

「は?」


 今日は、満月だ。そして、不吉な色の赤色。


「どうして俺が、月読みのザックって言われているか知っているか?」

「まさか…お前…!」


 暗いのが怖い訳ではない。夜が嫌いなわけではない。単なる月を見ると俺が俺じゃなくなりそうで怖いだ。


「特別サービスじゃけん。よーく見るんじゃ」


 このあとの記憶は、よく覚えていない。


 ただ周りが血だかけになって体と頭が離れ離れになっているのがいくつかあり目もくりぬかれているやつも居た。


 これは、全部俺が一人で殺った事だと解る。


「じゃけん。月は、嫌いなんじゃ」


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