はじめてのクリスマス
付き合い初めて、始めてのイベントが、クリスマス。
一体、何をあげたらいいのか…。
「心が籠ってれば、何でもいいんじゃない?」
親友の朋子が言う。
「だから、それが難しいんだって…」
「そんなんだから、決まらないんだよ」
そんな事、言われても…。
付き合い出したのもつい最近で、手編みなんか作ってる余裕もない。
だから、彼に似合いそうな物…、身に付けてもらえそうな物を探してるんだけど、これといって何も浮かばない。
マフラーとかは、来年、手作りしたいし…。
うーん。
「ほら、早くしなよ。私だって用事あるんだからね」
朋子が、急かしてくる。
「うん」
私は、もう一度、店の中をグルグル廻る。
あっ、これいいかも…。
私は、黒の手袋を手にした。
これにしよ。
私はその手袋を持ってレジに並ぶ。
「プレゼント用ですか?」
「はい」
「では、リボンはこちらから選べれますが、どう致しましょう?」
って、店員さんに言われて。
「この緑色でお願いします」
「わかりました。お包み致しますので、少々お待ちください」
「やっと決まったね。悩みすぎだよ、梓」
朋子が、横に並んで言う。
「だって、初めてだったから、どうしても考えちゃって…」
「その気持ちわかるけどさぁ、梓の場合は本当に考えすぎだって」
朋子が、呆れ顔で言う。
「お待たせいたしました」
店員さんに袋を渡される。
「ありがとうございます」
私は、その店員さんにお礼を言った。
「じゃあね」
「うん。付き合ってくれてありがとね」
私たちは、店の前で別れた。
気に入ってくれるかなぁ。
何て思いながら、家に帰った。
翌日。
私は、日直で日誌を職員室に戻した帰りだった。
本当に偶然だった。
彼のクラスを通り過ぎようとした時。
「お前、よく田口なんかと付き合ってるよな」
って…。
私?
自分の事が話題に上がってたから、つい足を止めてしまった。
「あいつが可哀想で、付き合ってるだけだって…」
エッ…。
何?
「そうなん?」
「そうだって、あいつ男と付き合った事無いって顔してるじゃん。だから、お情けで、付き合ってるだけだって…」
って…。
そんな風に思ってたんだ…。
哀れんで、付き合ってくれてたんだ。
なんだ…。
じゃあ、あんなに悩む必要なかったじゃん。
聞かなきゃよかった。
私は、その場から走って自分の教室に戻った。
何時もなら、彼と一緒に帰るんだけど、あんな事聞いた後だと、一緒に居たくない。
私は、さっさと自分の鞄を掴んで教室を出る。
そこに彼とバッタリと鉢合わせる。
「梓、帰ろ」
って、彼、流崎紫音が笑顔で言う。
彼は、学校一のプレイボーイだ。
何で、私なんかを口説いてきたのか。
ずっと疑問だった。
やっと、わかった。
「……」
私が、答えずにいると。
「どうしたの?梓」
って、心配そうに聞いてきた。
「ごめん。一人で帰るから…」
私は、そう言って、彼の前から逃げるように走った。
「梓…」
彼の声が、背後で響いていた。
彼が、何にも取り柄の無い私を好きになるなんて、不思議だったんだよね。
まさか、からかうためだけ…情けの為だけに付き合ってくれてたなんて、思ってもいなかった…。
私は、それからというもの彼を避け始めた。
「梓。最近、元気無いけど、どうしたの?」
朋子が、心配そうに聞いてきた。
「うん。何でもないよ」
私は、笑顔で対応する。
「ならいいけど、何かあったら言ってよね」
「うん。そうだ、朋子。バイト探してるんだけど、紹介してくれない?」
「どうしたの急に?」
「もうすぐ冬休みだし、やる事無いから、バイトでも仕様かなって…」
「じゃあ、今日からでも働く?」
朋子が、思ってもいなかった提案を告げる。
「えっ、できるの?」
私が驚いて聞くと。
「うん。私が働いてる店、人手が足りなくて、募集してたよ」
と、ニコニコ顔で言う朋子。
「本当。じゃあ、今日から行こうかな」
「彼は、いいの?」
「いいの、いいの。朋子、早く行こ」
私は、朋子の腕を引っ張って学校を出た。
朋子のバイト先は、ファミレス。
早速面接してもらって、即決で働く事になった。
「梓、よかったね」
朋子が、言ってきた。
「うん。朋子、ありがとう」
私は、制服に着替えて、朋子とフロアーに出る。
店長が、今日は朋子について教えてもらってと言ったので、朋子に接客のアドバイスをしてもらいながら話してる。
「いらっしゃいませ」
営業スマイルもお手のものの朋子。
私も、笑顔を作るが、引き吊ってるのがわかる。
「ほら、もっと楽しそうに」
って、朋子に言われて、もう一度笑顔を作る。
「そうそう、その感じ」
朋子に言われて、これでいいのかと思いながら、ニコニコする。
「後は、順次対応していけばいいから」
って、朋子が言う。
「わかった」
そう言って、フロアーに出たのだった。
冬休みに入って、バイトを欠かさずに出た。
彼とは、自然消滅みたいに会わなくなった。
机の上に置いてあるプレゼントを見た。
これ、要らないよなぁ…。
私は、鞄にプレゼントを突っ込む。
バイト先に行く前に近くの公園に寄る。
そこに設置されてるゴミ箱に鞄に突っ込んだプレゼントを捨てた。
彼の事を忘れる事が出来た矢先だった。
「梓…」
突然、紫音くんが私の前に現れた。
「……」
私は、紫音くんの横を通り抜ける。
紫音くんが、私の腕を掴んだ。
「離してください」
私は、そう言って無理に腕を引っ張る。
「梓…。俺達、もうダメなのか?」
紫音くんが、悲しそうに言い出した。
「ごめん。私、急いでるから…」
私は、紫音くんから逃げ出したくて、走り出した。
「梓!」
紫音くんが追ってきた。
何で、追ってくるのよ。
「梓!」
もう一度腕を捕まれた。
「なぁ、梓。俺、何かした?何で、俺を避けてるんだ?」
なっ…。
そんな事、今更なんで聞くの…。
自分が、よく知ってるじゃんか。
「自分の胸に手を当てて、よく考えたらいいじゃん」
私はそう言って歩きだした。
「わかんねぇよ、梓。俺が何かしたのなら、謝るからだから、教えてください」
紫音くんが、切な気な声で聞いてきた。
「私、聞いちゃったんだ」
「何を?」
「紫音くんが、私と付き合ってる理由が、お情けだって」
自分で言って、胸が痛い。
「なっ…」
「そんな話を聞いて、私が傷つかないと思ったの?どんなに悲しかったか…。だから、紫音くんとは会わないようにしてた。自分が惨めになるだけだから…。だから、もう、終わりにしよ」
私は、そう言いながら、涙を溢さないように堪えてた。
彼の顔が、青くなってる。
「…梓、ごめん。俺…。俺は、あいつ等にからかわれるのが嫌でそう言っただけで、本当は、梓の事物凄く大事で、梓が俺を避け始めた頃から不安で、梓が傍に…、姿を見てないだけで、自分が自分じゃないようで…。俺は、梓が好きなんだ。だから、もう一度、俺と付き合ってください」
紫音くんが、私に頭を下げてきた。
「本当に信じていいの?もう、裏切ったりしない?」
「信じて、俺の事。絶対に裏切らないから…」
紫音くんが、真顔で言う。
「わかった、信じる…。でも、今度こんなことしたら、本当に別れるからね」
「あぁ…」
私は、溢れてきた涙を指で払う。
そんな私を紫音くんが抱き締めてきた。
「泣き顔も可愛いよ」
って、耳元で囁く紫音くん。
私は、顔を上げる。
「これ、ありがとな」
って、紫音くんが私が捨てたはずのプレゼントを持っていた。
「それ…」
「うん。梓が、捨てるところ見てた」
紫音くんが、恥ずかしそうに言う。
「俺のだろ?」
紫音くんに聞かれて、頷く。
「俺からは、これな」
紫音くんが、小さな箱を取り出す。
「開けていい?」
私が聞くと、紫音くんが頷く。
開けると、中に入ってたのは、華奢なブレスレットだった。
「つけてあげるよ」
紫音くんが、それを手にとって、私の手首につけてくれた。
「ありがと。メリークリスマス」
私は、そう言って、紫音くんの頬に口付けた。
「メリークリスマス」
紫音くんが、顔を赤らめながら、そう言った。
照れてる、紫音くんも可愛いなと思った。