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急かす様なキノコに引っ張られて、いつの間にか自宅の前まで来ていた。少し急ぎ過ぎたのか、キノコのゆっくりと隠すように深呼吸をしている。吐く息は白く、頬は夕日のせいもあってか、赤みがかって見えた。綺麗だとは流石に恥ずかしくて言えそうもない。
「胞子みたいだな」
「は?」
ぐっと顔を寄せてキノコは睨みつけてきた。顔を近づけるためにかなり露骨に背伸びをしていることには触れないであげよう。自然と緩んでしまっている僕の顔を見ると、キノコは慌てて元の位置に戻り下を向いて小さくなった。
「ねぇ」
「何?」
地面を向いたままのキノコは口の中でモゴモゴながら言葉を探している。顔色がはっきりと掴めないので何を言おうとしているのかあまりよい予想が浮かばない。まぁ仕方ないからキノコの準備を待つことにする。
「今日さ、私の家に来ない?」
最近というか高校に入ってからは一度もキノコこと木野さん宅にはあがっていない。もちろん他の女の子の家にお呼ばれするほどの男でもないし、度胸もない。まぁキノコの場合は問題はないわけだが、キノコのお父さんに、僕はあまり好かれていないというか敵意を感じる時がある。男の視線は自分が思っている以上に、目立つものだと僕はキノコのお父さんつまりキノコパパから実体験で教えてもらっている。もちろん無言の圧力を通してだけど。
「お父さん元気?」
「え、何? お父さんなら今年から単身赴任だけど?」
「そっか、いや何でもないよ」
直接聞きすぎたせいで何か申し訳ないけど、キノコパパがいないのなら久しぶり行くものもありかも。
「わかった。行こう」
「うん」
くるりと軽く跳ねる様に後ろを向いたキノコが一瞬笑ったのを見て、僕は少し胸騒ぎがした。