prologue
「……はぁっ!!」
真ん丸とした綺麗な満月が漆黒の空に浮かび上がっている夜。
一人の少年が一目の知れないところで化け物と戦っていた。
彼の名前は【御影光輝】。
そしてここは、人の気配がまったくしない工事現場――。
工事も途中で中止されているからだろうか一向に工事が進む気配もなく、作業途中なまま放置されているといった感じだ。
「くそっ、何なんだよ。こいつら」
今まで紅帝学園の手先として出現していた“天使”とはまた違ったモンスターの登場。
その天使だなんていわれているモンスターとは別のやつの登場のため、少年達【魔法使い】は次々と借り出されていた。
いまや未知数の敵と戦うためだけに遥か遠征へと向かっているということもある。
「……なんで攻撃が一切、きかねぇんだ!!」
光輝の背中からは天使のような両翼が生えており、手には光輝く剣のようなものがあった。
それを持ってモンスターと戦っているのだが、光輝の攻撃を喰らっても喰らってもモンスターが怯む仕草をしない。一撃たりとも喰らっている様子ではなかった。
「手ごたえはあるってのに、なんで倒れないんだ」
(こいつらは紅帝学園の手先のやつらと決定的に何かが違う……)
紅帝学園の試作していた天使のやつらは光輝にとって簡単に倒せる雑魚だった。そしてそれの完成版もあまり強くはなかった。
だが、光輝の目の前にいるモンスターはそんな次元を遥かに超えた異常生物。こちらから攻撃を一撃も与えられないくせに、敵からの攻撃は破壊力が抜群という。
(あー、くそ。さっきもらった一撃が意外とキツイ)
敵の攻撃を直に喰らった腹を押さえながら敵に立ち向かい続ける。
本当なら立ち上がれないような痛みを受けたのだが、敵へ背を向けることなく剣を持ち、敵へと向ける。
(……俺はあいつらを守り抜かないといけねぇんだ。こんなやつに負けてる場合じゃねぇ)
「さぁ、てめえらは全員殺しておくぜ」
たとえこれで自分が死ぬとしても、目の前にいる。このモンスターだけは倒しておくという気迫が今の光輝からは感じられた。
まるで最後に生き残った戦士が、自ら死地へと向かうかのような儚さが彼にはあった。
こうして、また一人の少年が“世界から消える”こととなった。
この世界での彼のお話はここで一旦、終了となる。
◇
『……ねぇ、なんで光輝は守るためにそんなに頑張れるの?』
いつか親友に言われた台詞――。
なぜ、光輝がこんなにも仲間を守るために戦っているのか。原点となる部分の話はもうすでに忘れてしまっている。
もはや理由すらもわかっていないだろう。
――ただ、慣れ親しんだ思いから仲間を守らないといけないという使命感が、彼を動かしていたのだろう。
今回のように無茶をするのは、それが原因といってもいい。
「……そんなの決まってるだろ。みんなの笑顔のためだ」
過去の俺は質問してきたやつにそう返事をしたはずだ。
だけど、そんなヒーローじみた考え方はとっくの昔にやめている。誰もが英雄には憧れていたはずだ。あくまでも子供のときだけだが。
「なら、こっちのみんなを守ってくれないかしら」
聞きなれない声が聞こえ、光輝は目を見開く。
その光輝の前にいたのは人ではなく、使い魔的な動物でもない……。
「光球……?」
「あ、そういえばそうね。今はこっちの姿しか現せないのよ。人間の姿のほうが気に入っているのだけどね――」
「……まぁ、それはどうでもいいや。なんで、オレに守ってくれなんて言ったんだ?」
「あなたは自分が死んだってわかってるかしら?」
光球が言った言葉は、人間にとっては終着点と思われる“死”という意味。
つまり光輝は死んだ。得体の知れない化け物と戦い戦死した。
「ああ、なんとなく直感でわかるさ」
「……そう」
「だから何だってんだ」
「あなたは敵を巻き添えにして死んだ。それもたくさんの敵を道連れに」
(あの攻撃で敵は死んでくれたのか。ってことは、あいつらは安全ってことだな)
さっきまで気がかりだった仲間の安全が保障されたんだ。光輝にとってこんなに嬉しいことはないだろう。
「そして今、自分の死よりも仲間の安全を優先的に考えてる時点でそうよ」
「……まぁ、それでいいとしよう。で、オレはどこに飛ばされるってわけだ? 天国か、それとも地獄か?」
「そんなところにあなたを送ったりしないわ。……あなたにはやって欲しい仕事があるの」
「やって欲しい仕事だと……?」
怪訝な表情へとなっていく光輝。
心の中を読まれていたことによって、目の前に存在している光球に対する警戒心が大きかった。
「ええ、あなたには私の世界を守って欲しいの」
光輝が頼まれたこと――それは、光球が支配している世界を守ること。いわば守護者みたいな存在になってくれとのこと。
これが光輝の新たな物語へのキッカケだった。