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短編集 掌篇  作者: かわ
掌篇
9/26

41-43

便宜上、はじめに数字を振っていますがそれぞれ独立しています。

41


 細い指でそこをたどられると、くすぐったくてつい笑ってしまう。

 くすくすと漏らす声の合間に、不公平だというつぶやきが落ちる。

「何が?」

「食べないわけじゃないのに、なんでこんな細いのかなって。こっちは食べなくても身になるのに、ずるい」

 えい、とばかりにアバラを撫でていた指が、肉の薄いそこをつねる。

 痛いよ、と言うと、もっと肉をつければ痛くないよと返ってくる。

 そんなことを言われても、体質なのだからしようがない。それに、己でもこんな体ではいざという時に困るだろうといつだって思っている。


 もし、君が私の前から消えたら、私は満足に探し歩くこともできないかもしれない。

 もし、何事かあって君に危険がせまっても、薄い体では盾にもなれないかもしれない。

 もし、食料のない無人島へ立ったとして、死した私を君の中に生かしてもらう事も出来ない。


 気づくと君は、私から少し離れた海際に立って、そのなだらかな線を惜しげなくさらしていた。

 もし、私が君のようだったら、君の指が私に触れることもなかったかもしれない。

 だとしたら、私はこの体を持っていたことこそ幸運だったろう。

 夏はまだ遠い低い太陽の下で、私たちはしばし無言で赤々しい太陽の最期を見届けた。





                    (2009/03/30)

*****



42


 手を頭上に透かしてみれば、目を引くのは真っ赤な血潮ではなく、細く絞られた楕円の腕に一筋通った白い皮膚だ。

 嘘のように白いそこはもう黒い体液を零すことはないけれど、衝動的にかきむしったせいでぽつぽつと内出血の跡が水玉のような模様を作っている。七分の袖に隠れた肌にはもっとあからさまな赤紫が浮いていることだろう。

 ワカゲノイタリで引いた白線はまるであの時紅に覆われる前に見た皮膚の内側に似ている。けれどそれは似ているだけ。今目にしているのは似て非なる、そう、新しく生まれ変わった肌だ。

 他よりも新しいそこは初々しく、他より顕著に刺激を受けたことを主張する。私はそれが見たくて時折こうやって、新しい私をいじめてみるのだ。

 ああ、もしかしたらあれもそう言うことだったのかもしれない。

 肯定することは今でもできないけれど、あれはあの人にとっても抑えがたい衝動だったのかもしれない。同じモノなのにたから浮き出ているように見えたのが、かつての私だったのだ。

 私はただ、目をむけた先に居てしまっただけの存在。

 白く残った一線にもう片方の手指で触れ手そっと撫でる。

 ごめんね。

 何も悪くはなかったのに、ひどいことをしたね。

 腕と一緒に心を切り付けたその後しばらく、私は傷と同じく私自身も人目に触れないところへ隠した。けれど今は、堂々とではなくても人ごみの一員として我が身を曝す。

 もう二度と、嫌だと思った心はもうここにはない。それは古い皮膚と一緒に捨ててしまった。

 今はただ、非なくして傷つけてしまった傷を労わりながら歩く。

 どんなに苦しくとも、傷は癒えるということを私は、私とその他の一人から学び取ったのだから。





                    (2009/07/02)

*****


43


「なあ、丸と好きとムシ、どれがいい?」

「あ?何それ」

「ど・れ・が・い・い・?」

「…じゃあ昆虫で」


 そう言った途端、奴は世にも哀れな物を見るような同情しきった眼差しを向けてきた。


「…なんだよ」

「安芸がそんな奴だったなんて僕、思わなかった…!」

「なんだよそれ?俺は訊かれたからこた」

「虫さんを食べるなんて、安芸なんてどっか行っちゃえーっ」

「誰が食うかそんなもんっ!!」


 よくよく訊くと、どの焼きが好きかの質問だったらしい。

 って、わかる訳ないだろこの虫博士め!!





                    (2008/03/29)

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