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短編集 掌篇  作者: かわ
掌篇
4/26

16-20

便宜上、はじめに数字を振っていますがそれぞれ独立しています。

16


 この、目の前に広がる広大な青空へ踏み出したらどうなるだろう。

 そんなの簡単だ。足場がなくなって落っこちて終了。なんのドラマもそこにはありもしない。

 そんなどうでもいい事を思いながらフェンスに寄りかかると、斜め後ろにいた悪友に気味悪がられた。曰く、はっきりしないから睨むかにやけるかどちらかにしろ、だそうだ。そんなのは俺の勝手だと思うんだけど、まあそれはほら、一つ大人になって飲み込んでおこうじゃないか。

 もう一度前を向いて、遮るもののない大空を眼球に映す。

 実は眼に映る実像は全てひっくり返っていて、脳で認識する頃には虚像に摩り替わっているらしい景色だろうが、こうして一面青に染められているんなら、これが虚像だろうが実像だろうが関係ない。そんな小さな理屈なんかも、吸い込まれそうな空の彼方へ本当に吸い込まれてしまえばいい。

 厭世的な俺も、常識的過ぎる悪友の理性も、何もかも吸い込まれてしまえばいい。

 世の中ごちゃごちゃしすぎて本当のことがわからなさ過ぎるんだ。

 だから、このシンプルな空がこんなに遠く思えてしまうんだ。





                    (2008/05/31)

*****



17


 さあ、泣け。

 お前にはその資格がある。


 泣いて喚いて己の無力を思い知るがいい。


 無力な己を自覚し、そして打ち砕く方法を見つけたなら、

 今度は理性を操って本能を捩じ伏せろ。


 その有意義さをよくよく噛みしめ理解できたのなら、今度はお前がこういう番だ。


 ××××。


 それはお前の中で精製され、けれど確かに受け継がれてきたゲーム。



(あえてタイトルをつけるなら伝言ゲームが妥当でしょうか)





                    (2008/06/01)

*****



18


 世界には六十億を越す人間がいる。

 馴染みのない桁は実感を伴わないけれど、例えば。

 夕方の最寄り駅を利用する、恐らく帰路を辿る人の数を指折れば少しは身近な人口になる。

 十分で数人、一時間でも十数人かも知れない。でも一日だと、たくさん。

 そのたくさんの中の一人だけの私。

 たった一人。

 唯一の私。

 ちっぽけで矮小で、無力な存在だけれども。

 換えのきかない、貴重な私。

 そんなワタシタチが集まったのが世界だと思えば、

 なんだか愛着だって、湧いてくるってものじゃない。





                    (2008/06/05)

*****



19


泣いた。

不意に泣きたくなって、わんわんと大声を上げて。

人目も何も気にせず。

思い切り。


泣いて泣いて。それでも涙は止まらなくて。

どうして泣くのかなんてわからない。

理由はあるのかもしれないし、ないのかもしれない。

いや、多分理由はあるんだ。確かに差せる一つがないだけで、無数の微粒が。

それがなんだかわからなくても、涙は正常に流れ出していく。

巻き込んで流れ出して、内から出ていく。

それが悲しくて泣くのかもしれないし、一つ一つを無意識に感じて泣いているのかもしれない。


わかるのはただ、

涙はまだ止まらないということ。





                    (2008/06/11)

*****



20


 天に二物を与えられた人間は幸せだ、と言う話はよく聞く。

 それは神に愛された証なのだ、と。

 けれど、そいつを知っている僕には、それは嘘なのではないかとしか思えないでいる。


 そもそも二物とは何を差して言うんだ。才能?容姿?性格に家柄、それにここぞと言うときに絶対に外れない運の強さ?

 そんなものを持っていれば、さぞかしこの世は生き易いだろうと思う。打算を抱いて近付いて来る者もいれば、その人柄に惹かれて来る者も少なからずいるだろう。それ故、どちらかしか持たない者の持つ寂しさなんかとは無縁なのだろう。

 カミサマって奴が本当にいるとしたら、寂しさを抱えて膝元に戻った愛し子を、まんまとあやして二度と手放さないに違いない。もしかしたら痘痕も笑窪、とこの世では虐げられるしかなかった奴だって、早く手元に戻って欲しいカミサマが細工しているのかもしれない。そうだとしたら、カミサマの近くはいつも満員電車よりきっと混雑してる。

 だから要らない奴からこの世に長く居座らせようとしていろいろなものを与えているに違いない。

 そういう風に考えてしまえば、あいつは決してカミサマに愛されてなんていないと思えてしまうのだ。


 あいつはみんなに好かれて、あいつもそれに答えて、そして僕は、あいつから逃げたくて。

 別に、世を儚んでる訳じゃないから自殺だなんだと考えたことはない。ただあいつから離れられればそれでいい。

 でもあいつは。そんなささやかな願い事しか持っていない僕なんかを決して離そうとはしてくれない。あいつに吊り合う物を何も持っていない僕は、必然あいつの取り巻きに虐げられる。

 あいつもそれに気付いている。それでも止めないでいるのは、あいつが、僕にとっての唯一となることをずっと望んでいるからだ。


 みなに愛されるあいつ。みなに疎まれる僕。

 それなら、カミサマにくらい、あいつより僕の方が好かれてるって思ったっていいじゃないか。





                    (2008/06/12)

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