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短編集 掌篇  作者: かわ
掌篇
2/26

06-10

便宜上、はじめに数字を振っていますがそれぞれ独立しています。

06


「きれいな涙ってどんなだと思う?」

「…何、いきなり」

「ほら、夕日を受けてキラキラーとか、大粒なのがぽろっと落っこちたりとかさ、色々あるじゃん」

「…………」

「…なにその目」

「いーや?なんでもないけど?」

「なにそれ。すっごいムカつくんだけど!」

「だってお前それ、見た目に騙されてるだけだろ。見た目がよくたって俺のことキレーだとか思わないだろ、お前」

「さりげなく自慢かよ」

「一般論だろ。つまり、傍から見てたんじゃ真意なんかわかんねえってことだよ」

「…俺にはお前の言ってることがわかんないよ」

「じゃ、流してみるか?キレーな涙」

「…………どういう意味?」

「泣きたいなら泣かせてやるってこと。俺にとって綺麗だと思う、お前の涙、見せろよ」

「ちょっ……っ!」






「…んの、阿呆―――――ッ」



「ちょっと、苛めすぎたかね」





                    (2008/03/12)

*****



07


 熱いと言うより、冷たく感じた。


 こちらからは触れられない熱に煽られた箇所は何の反応も返さないようになって来た。それなのに微かな空気の流れはきちんと感知し、けれどやはり刺すような鋭い冷たさを訴える。

 視界は既に閉ざす物を失った。揺れる赤を認知できたのは数瞬の事で、今はただ白く濁った斑のある何かしか見えない。そしてそれも、どれだけの間見ていられるのか…。


 舐めるように炭化した皮膚を剥がしては、その下の凝固しかけた蛋白質を同じような煤へと変えてゆく炎。

 その中でいて何故私は意識を保っているのだろうか。

 不可解でしかないはずのそれは、けれど私への業なのだと思う。

 …そうとでも思わなければ、受け止めることができなかった。自分の体が崩れ、白い骨が見え、更にそれが火に炙られて焦げてゆくと言うのに何の痛みも感じない。

 いや、感じていないわけではない。

 現実的にありえない状況に私の精神があるのなら、その心に痛覚が通ったとしても不思議ではないのではなかろうか。

 熱によって縮む体が、縛られたロープによって無理矢理引き伸ばされる感覚に、私はこの体の最後を悟る。

 火は、恐らく私の体すべてが塵に帰すまで消されることはないだろう。

 けれどその時が来たら、この穢れた身が炎によって余すところなく清められたなら。

 きっとその時は唯人と同じ臆面のなさで以って、中天の光を見据えよう。


 私は、ようやく日の下に歩くのだ。





                    (2008/03/26)

*****



08


 とある、仲のよい親子がいた。

 子は母を慕い、母は子を慈しんだ。

 そんな親子に、群の仲間は何の関心も寄せず、しかし突き放すこともなかった。


 ある時、子が自力では這い登れない穴に落ちた。

 母は必死に子を助け出そうとした。けれど子は、母一人の力では持ち上げることは叶わなかった。

 群の仲間たちは親子に関心を待たなかった。故に、親子に起こった不幸にも気付かなかった。


 もし、仲間と深く絆を繋ぐ術があったなら。

 自らに子を助けるだけの力があったなら。

 母は全ての力なき理由を嘆きながら子と共に横になった。




 とある、人も羨む親子がいた。

 子は見目品行正しく育ち、親は揺ぎ無い地位を手にしていた。

 人はそれらを盗み見ては感嘆した。


 ある時、子は進退窮まる事態に見舞われた。

 親は自ら動くことはなく、また、他を動かすこともせず、ただ嘆き、周囲を欺く芝居を取ることに尽力した。

 人はそれを見て、嘆き、しかし彼らもまた自ら力を貸すことはしなかった。思いつきもしなかった。


 子は、親の元へ帰ることはなかった。

 ただ、怒り交じりに聴かされた事実を嗤って散った。




 力のない絆と、力ある無情の話。







 二つ、交わることはないのだろうか





                    (2008/04/05)

*****



09


 気付けば、涙が頬を流れていた。


 悲しいことがあったわけでも、どこか痛いわけでもない。

 ただ本当に、何気なく目にしたその一枚の絵が、どうしてだか俺に涙を流させた。


 筆遣いも、常用する色彩からも、あいつの欠片は見出せない。

 けれどそれは確かに、俺の大切だった、あいつの絵だった。


 ああ、お前の中からはもう、過去の憂いは消えてしまったのか。


 その生き生きしたどこにでもある一枚の絵画は、あいつと俺との確かな決別を伝えていた。





                    (2008/04/07)

*****



10


 優しい子ね、って

 言われるたびに、本当はそうじゃないんだって言いたかった。

 僕にとってはそれは普通のことで、優しいと言われて感謝されるようなことじゃないんだって、みんなに言われるたびにそう思っている。


 僕は善意でそうしたんじゃないんだよって、

 放っておくのは後味が悪いから、前にそうしたのに今度はしないのは勝手だと思ったから、あるいは初めからこうしておいた方が僕にとって都合が良かったから。 たまたまそれがみんなにとって優しいって言われることだっただけなんだ。


 いろんな人に笑顔を向けられるたびに僕は叫びたくなる。

 僕はそんな風に言ってもらえる、綺麗な気持ちなんて持っていないんだよって。

 自分勝手で自己満足の塊なんだよって大声で言い放ってやりたくなる。

 でもそれが出来ないでいるのも僕の弱さで、そんな僕に、お願いだから感謝なんてしないで欲しいと、いつだって胸のうちはどろどろしてる。


 だから僕は、みんなに早くそれに気付いて欲しいって、いつだって勝手に願わずにいられない。

 僕は偽善者なんだって、誰でもいいから早く気付いて。





                    (2008/04/14)

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