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猫がたり

作者: 灯影
掲載日:2026/06/04

 


 わたしの一生はとても素晴らしかったわ。


 とても幸せだったし、とても素敵だった。


 もちろん今この時だってそうよ?



 だからお願い、そんなに悲しまないで。


 今だけでもいいからわたしの言葉をあなたが理解できたなら、どんなに素晴らしいことでしょう!


 それが無理なのはもちろんわかっているけれど、どうか、この命が続くまで話しをさせてちょうだい。



 ーー言いたいことがありすぎるのも困ったものだわ。



 そうね……


 まずはあなたが大きくなって家を出るときに、わたしも連れて行ってくれてありがとう。


 あなたは優しいから、わたしが荷物に入り込んで出てこないと知って置いていけなくなったのよね。


 大きな荷物を見ればどこかに行く気だってわたしにもわかるわ。


 ずるい事をしたと思うけれど、あなたの側にいたいってこうでもしないと伝わらなかったでしょう?


 困らせるつもりはなかった、なんて言わないわ。


 ――わたしを置いていくなんて、って悔しかったの。


 だけど、そのわたしを叱らずに抱き締めてくれた時には本当に嬉しかったわ。




 ……ああ、ほら泣かないで。


 私が泣いてるみたいに濡れてるじゃない。

 あなたの涙は、温かいわね……


 ……そう。


 そうよ、まだ言いたいことが残ってるの。


 それからしばらくあなたとわたしは二人でいたわね。


 あなたが居ないときわたしは一人だったけれど、自分の選んだ道よ? たとえ淋しくても後悔はないわ。



 だって。

 あなたは必ず帰って来てくれた。


 それからどれくらい経ったのかわたしにはわからないけれど、あなたは一人じゃなくなったわね。


 突然そわそわしだして落ち着かないし、変な匂いをさせながらわたしに近づいた時は思わず引っかいちゃったわね。


 忘れもしないわ。


 わたしの鼻がおかしくなると思ったもの。 


 それ以来その匂いはしなくなったのをみると、やっぱりあなたはとびきりの紳士よ。



 ……あなたは本当に肉球を顔に付けるのが好きね?

 こうやってされるがままっていうのも悪くはないわ。


 

 そうじゃなくて……あの時の事よ。



 いつもは一つのものが、なぜ二つあるのかしらと思っていたのよね。



 そうしたら、そう……あなたが初めて女性をつれてきたの。


 わたしの衝撃ったらなかったわ。


 迷わず逃げたわたしをあなたは、難なく捕まえたわね。


 結局わたしはあなたに弱いのよ。お互い様だと嬉しいんだけど。


 二人してとんでもない笑顔でわたしを見てたわね。


 仲良くなんてしたくなかったし、するつもりもなかったのよ。


 だけどどんなに嫌がっても、諦めずに何度でも来るのよ。


 嫌になっちゃうわ。


 毒のないあの人にわたしがある意味毒された感じ。


 あなたがいなくても、あの人はわたしにブラッシングをするのよ……


 あなたにされるのももちろん大好きだけど、あの人の女性らしい繊細なタッチは少し癖になるわね。


 わたしもあの人だったら、あなたを任せても良いかしらって思ったわ。


 裏表のない人だから。


 だからあの人がここにずっといるようになった時も、本当は嬉しかったわ。


 ……

 ……本当に嬉しかった。


 わたしのブラッシング担当があの人に替わった時の、あなたの残念そうな顔を見たらなんだかすっきりしたしね。


 女はしたたかなの。覚えておいて?


 

 ……ね、三人で幸せだったわね。


 わたしは我が儘の限りを尽くしてきたわ。


 そんなことしなくても、あなた達がわたしを愛してくれていた事は分かっていたのにね。


 女はしたたかで、我が儘なものね。



 ああ……


 少し目が見えなくなってきたわ……


 神様もう少しだけ待ってくれないかしら。


 ……

 ……


 ……わたしがいなくなった後は、わたしの思い出だけを大事にしてくれたらいいの。


 わたしの面影を探して悲しまないで。


 ……なんなら、若い子をまた可愛がってあげて。あなた達に愛されることはとても幸せだから。

 わたしだけなんてもったいないわ。



 あぁ……暖かい手。これはあなたね?


 わたしの大好きな優しくて少し不器用な手。


 そうやっていつもいつも、わたしの事を撫でてくれたわね。


 あなた達の膝の上で甘えることがどんなに至福だったか、どうしたら伝わるのかしら――



 ……もう、神様も粋なことをするわね。


 なんだかあなた達の言葉が伝わるわ。


 ……あなた達は本当に愛情深い人間ね。


 あなた達の想いでわたしの心はもう破裂しそうよ。



 ……ええ、

 ……、

 ……、

 ……そうねもう充分だわ。


 小さかったわたしを小さな手で救ってくれたあなた。


 あなたがわたしを呼ぶ音の響きは、とても暖かくて気持ちのよいものだった……


 最後にそれが聞けて良かった。



 ありがとう。


 大好きよ。





 また……会いましょうね――


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