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異世界おせちの革命〜地味スキル『調理魔法』で、貧乏な辺境の村を美食の都に変えてみせます〜  作者: 黒崎隼人


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第8話「忍び寄る影」

 ミストラル村が活気を取り戻し、誰もが笑顔で暮らすようになってしばらく経ったある日のこと。


 村に見慣れない馬車が一台、やってきた。

 行商人たちが使うような荷馬車ではなく、黒塗りの、どこか威圧感のある二人乗りの馬車だった。


 馬車から降りてきたのは、小綺麗な服を着た役人風の男と、その護衛と思われる兵士だった。

 男は痩せていて、狐のように目つきが鋭い。彼は村の入り口で薪割りをしていた若者に声をかけた。


「ここがミストラル村で間違いないかね?私は、この地を治めるバルザック男爵様の家臣、ドーソンと申す者だ」


 バルザック男爵。その名を聞いて、村の者たちの顔がわずかに曇る。

 この辺り一帯を治める領主だが、重税を課すばかりで、村の暮らしを顧みたことは一度もない。評判は、すこぶる悪かった。


 村長のギードさんが、ドーソンと名乗る男の前に進み出る。


「いかにも、ここがミストラル村だが。して、領主様のご家来が、このような辺境の村に何の御用かな?」


 ドーソンは村の中を値踏みするように見回しながら、嫌味な笑みを浮かべた。


「ふむ。聞きしに勝るボロい村ですな。……いや、失礼。近頃、この村から珍しい保存食が出回っていると聞きましてな。男爵様も、いたくご興味をお持ちなのだ。どのようなものか、見せていただきたい」


 その言葉に、ギードさんだけでなく、周りにいた村人たちも警戒を強める。

 彼らが、僕たちの作った燻製肉やスノーウィード餅を狙っていることは明らかだった。


 僕はその時、少し離れた場所で、次の料理の構想を練っていた。

 リアナが慌てた様子で僕のところに駆け寄ってくる。


「カナタ!大変だよ!お城の人が来た!」


 事情を聞き、僕もギードさんたちのところへ向かう。

 僕の姿を認めると、ドーソンの目がギラリと光った。


「ほう。お前が、その料理を作っているという小僧か。思ったよりも、ひょろりとしているな」


 下から上まで嘗め回すような視線に、不快感を覚える。

 ギードさんが、僕をかばうように前に立った。


「この者がカナタだ。だが、この村の食料は、村の者たちが協力して作っているもの。彼一人の功績ではない」


「まあ、そう固いことを言わずに。これは調査です。男爵様への献上品として、どれほどの価値があるかを見極めにきたのですよ」


 ドーソンはそう言うと、有無を言わさず備蓄倉庫へと向かった。

 倉庫の中には、美しく燻された肉の塊や、きれいに乾燥させられたスノーウィード餅が並んでいる。

 それを見たドーソンの目が、さらに大きく見開かれた。


「ほほう……!これは素晴らしい!噂以上だ!」


 彼は許可もなく燻製肉のかけらを手に取り、口に入れる。


「……うまい!なんという芳醇な味わい!これほどのものが、なぜ今まで世に出てこなかったのか!」


 ドーソンは興奮した様子で、今度は僕の方に向き直った。


「小僧!お前の名はカナタと言ったな。お前には、男爵様のもとで働いてもらう。光栄に思うがいい。こんな肥溜めのような村とは、今日でおさらばだ」


 その言葉に、僕だけではなく、そこにいた全員の顔色が変わった。


「な、なんだと!」

「カナタを連れて行くだと!?」


 村人たちが怒りの声を上げる。

 リアナも、僕の前に立ちはだかり、鋭い目つきでドーソンを睨みつけていた。その耳は逆立ち、背後の尻尾は怒りでぶわりと膨らんでいる。


「ふざけないで!カナタはどこにも行かない!カナタは、この村の家族なんだから!」


 リアナの叫びに、ドーソンは鼻で笑った。


「家族ごっこは結構だが、これは領主様のご命令だ。逆らうというのかね?この村一つ、潰すことなど、男爵様にとっては赤子の手をひねるより簡単なのだぞ」


 脅しだった。

 村人たちの顔に、怒りと共に恐怖の色が浮かぶ。領主に逆らうことが、何を意味するのか。誰もが知っていた。


 重苦しい沈黙が、場を支配する。

 僕は、僕のために村のみんなが危険な目に遭うことだけは、絶対に避けたかった。


「……分かりました」


 僕がそう言うと、リアナが「えっ」と息をのむ。


「僕が、行きます。だから、村には手を出さないでください」


「カナタ!」


 ギードさんが僕の肩を掴む。その手は、悔しさに震えていた。

 僕は、彼にだけ聞こえるように、小さな声でつぶやいた。


「大丈夫です、ギードさん。……策はありますから」


 僕の目を見たギードさんは、何かを察したように、ぐっと言葉をのんだ。


 ドーソンは、僕の返事に満足げに頷いた。


「話が分かる小僧で助かる。では、三日後、正式な迎えを寄越そう。それまでに、身辺整理を済ませておくように」


 そう言い残し、ドーソンは護衛の兵士と共に、黒塗りの馬車で去っていった。

 後に残されたのは、凍りついたような村の空気と、静かに燃える僕の闘志だけだった。

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