観光③
街での買い物を終えた俺たちはアイラの提案でぶらぶらと見て回ることにした。改めて周りを見てみると、現代であればコスプレだと思われそうな様相の人たちがそこらかしこで歩く姿が見られる。中にはいわゆるビキニアーマーと呼ばれるようなきわどい衣装を装備している女性もいた。じっと見つめるわけにもいかないのでちらちらと見ているとアイラに横腹をどつかれてしまった。やはり女性というのは人の視線に敏感なのだろうか、今度からは気をつけるとしよう。
流石に城下町といったところだろう、実際に入ったわけではないが外から見ても分かる規模の大きい店の数々が大通りには立ち並んでいた。武器や防具を販売しているところもあれば、薬屋、はたまた他の建築物とは外観が明らかに異なる教会のような場所など揃い踏みだった。アイラは面白いでしょう?というような顔でこちらを見る、俺はそれに同意するように笑い返す。そんな目的のない散策は、街中に響く鐘の音が終わりを告げた。
「ショーヤ様、どうやら刻限のようです。最初の広場に戻りましょう。」
その言葉を聞いて俺は空を見上げる。街を歩き始めたときはまだ上がりきっていなかった太陽が今は自分を真下に見下ろす位置に移動している。時計がないからか時間の経過が認識しずらい。
「もうそんな時間だったのか。じゃあ戻ろうか、あまり他の人を待たせないように急ぎ目でね、でも来た道とは違う道で戻ろうか。最後まで新鮮な光景を見ていたいからな。案内頼めるかい、アイラちゃん。」
「お任せください!この任務最後まできちんと果たさせていただきます!」
「条件はほぼ最短かつ知らない場所を通ること、先導頼むよ。」
頷くアイラの後を小走りでついていく。華やかだった大通りを外れて少し暗く人通りの少ない道へと入っていく。すれ違う人たちの恰好が進むにつれて貧相なものに変わっていく。どんな世界でも貧富の差は存在するものだと感じながら足は止めることなく進んでいく。そのうちにやや開けた場所へ到着する。横切るのは古びてはいるもののきちんと掃除がされている高級感のある建築物、正面の扉の横には檻のようなものが置かれている。流石にどういう場所か気になったのでアイラへ質問を投げかける。
「アイラちゃん、ここって・・・」
「奴隷売買の館です。」
「奴隷なんているのか、それってなにか罪を犯したりとかの事情がある奴が奴隷として扱われるっていう認識であってるか?」
「大まかには正解です。しかし奴隷落ちは何も犯罪だけが原因ではありません。例えば子を産んだものの食べていくことが困難になり、子供を奴隷として売りに出しだすなんてこともありますよ。特別珍しいことでもありません。一般的に人間の奴隷にはある程度の権利が認められていますから。」
その言葉を聞いて俺は足を止めてしまう。人間の奴隷は?まるで人間以外に区分できる存在がいるのか。
「アイラちゃん、その人間はってどういうこと?まるで他にも奴隷になる奴がいるみたいじゃないか。」
「いますよ?人ならざる者、いわゆる亜人や魔族のことを指す言葉ですが、彼らには人としての権利は与えられません。命を道具として擦り切れるまで使われます。」
「魔族?それって人間と戦争している相手のことだよな?捉えた敵を捕虜ではなく奴隷として扱うのか?それじゃあいつまで経っても関係が悪いままじゃないか。」
その言葉を聞いたアイラは不思議そうに首をかしげる。
「どうして魔族に情を与える必要があるんでしょうか、最初に仕掛けてきたのは奴らの方です。私たちはただ侵攻に対して応戦しているだけです。その過程で手に渡った魔族は私たちのために使われるべきなんです。だって私たちは被害者なんですから。」
疑問はなかった。迷いなどありはしないというような純粋な答え。その言葉を聞いて俺は体が総毛だつのを感じた。これが戦争と憎しみ。こんなに小さな子にまでそれが伝播しているのかと思うとなにか悲しい気分になった。
「そうか、変なことを聞いて悪かった、魔族は敵なんだからそれ相応の扱いを受けるべきだっていうのは間違っていないと思う。少し認識が甘かったのかもしれない。」
「・・・?よくわからないですが、早くこんなところは抜けてしまいましょう。まだ余裕はありますが、せっかくなら一番に集合しておきたいですよね。」
「分かった、ペースを上げていこう。引き続きよろしく。」
こくりとアイラが頷くと先ほどよりも走る速度を上げて細い道を駆けていく。その背中は先ほどよりも遠くに感じた。
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俺たちは、アイラの目標通り一番に広場へと帰ってきた。時間にして数分ほどのランニング、汗はかいているものの不思議と息は切れていなかった。その後は続々とクラスメイトが集まり始め、10分ほど経った頃には全員が集まっていた。皆は遊園地から帰ってきたかのような面持ちでお互いに見てきたことを語り合っている。そんな中で浮かない顔をしている俺に話しかけてくるのは勇崎だった。
「やあ酒井君、ずいぶんと落ち込んだ顔をしているけど何かあったかな、もしかして城下の味が君には合わなかったのかい?俺はこんなものだろうと思っていたから対してガッカリしなかったけど。」
「いや、この街の食べ物は何個か食べたけど特別変な味はしなかったぞ?」
「じゃあ、君の理想とは少し違っていたということかな、すまない。変なことを聞いてしまったね。」
勇崎がこの場を後にする。何となく会話がかみ合っていなかったような気もするがまあいいだろう。
セバスが手を強く叩き音を出して意識を向けさせると行きに乗ってきた馬車に乗るように誘導する。勇者たちの顔見せという目的が達成されたので、俺たちはこのまま城へと戻るのだ。またすぐに戻ってくるだろうがその時は全員が揃って行くということはないだろう。
馬車へ乗り、来たまま道を反対に進んでいく。馬車の進路を確保するように人の道が出来上がっている。人々が寄せる期待の眼差しはどこまでも純粋で守るべきものだ。その役目を背負った俺たちは彼らの期待に応えられるだろうか。俺は通り過ぎていく人に手を振ることにした。この眼差しに応えるアクションを取りたかったから。勇崎をイメージして俺は手を振った。少しだけ歓声が大きくなったような気がしたがそれが俺がもたらしたものかはわからない。そうして、大袈裟すぎる送迎を受けながら俺たちは城へと戻っていく。今日が終われば訓練が始まるんだ、気持ちを切り替えていこう。




