観光①
「見てください!こんなにもたくさん人がいますよ!」
「へー、勇崎に釣られてもまだこんなに人がいるなんてな。流石城下町と言ったところか。」
まず初めに訪れたのは、広間に向かうまでにも通過した街の大通り。3~4階建ての建物群によって成り立っているその道はしっかりと舗装されているため、非常に恰好が良い。両端には所狭しと出店が並んでいて日本の祭りをより派手にしたかのような様相だった。道を歩いているとそこらかしこからおいしそうな匂いが漂ってくる。
「おっ、アイラちゃんじゃねーの。今日は非番なのかい?」
「あっ肉屋のおじさま、こんにちは。今日はこちらのショーヤ様の案内という重要な任務を賜ったのですよ。」
「へえ、そりゃ大したしごとじゃないの。」
顔見知りなのだろうか、アイラと屋台で肉を焼いて売っている男が話を始めた。このまま二人で話させておくと何となく気まずくなりそうなので間に割って入る。
「ご紹介に預かりました、翔也といいます。よろしくお願いします。」
「こりゃ丁寧にどうも、だが俺らは硬苦しいのは苦手でね。そこんところよろしく頼むぜ。」
「分かったよ、これから街を回るんだ、アドバイスありがとな。」
「いいってことよ。」
肉屋のおっちゃんと固く握手する。その様子を見ていたアイラはどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。
「ところで、お前さんどっから来たんだ?この辺りじゃ見ない顔だし、何より王宮勤めのアイラが案内するってことは・・・あれってことでいいのか。」
おっちゃんはあえて勇者という言葉を出さずに聞いてくる。2~3m毎に店が立ち並ぶ状況だからなるべく騒ぎにはしたくないのだろう。さっき通ったといっても20何人の顔をすぐ覚えられるわけがない。服装が服装のため一般人でないことは確かだがそれ以外の情報はない。
「あれで構わないよ。これから頑張るからよろしくな。」
俺の言葉を聞いたおっちゃんはにかっと歯を出して笑い焼いていた肉を2本こちらに差し出してくる。
「持っていけ、俺んとこの肉は其処らのものとは格が違うぜ?」
「いいのか?」
「構いやしねえよ、礼の先払いってやつさ。困ったことがあったときのな。あと一本はアイラちゃんに渡してやってくれ。ちびっ子は食ってなんぼだからよ。」
「そういうことならいただくよ。ほらアイラちゃん、おっちゃんが肉串をくれたよ。」
「ありとうございます!おじさま!」
肉串を受け取ってその場を後にする。歩きながら肉を一口頬張ると肉汁がじゅわっと溢れる、嚙む度に塩がしっかりと効いた肉の味が感じられる。確かにこんな肉は日本でもあまり食べたことはないなと、おっちゃんの誇張だと思っていた自分の思考を修正し、次があったら今度はちゃんと買おうと心に決める。アイラの方を見るとおいしそうに肉にかぶりついている。確かにこんな表情を見せられたらサービスしたくなるだろう。
「おいしい?アイラちゃん。」
「はいっ!とてもおいしいです!」
「それはよかった。それと申し訳ないんだけど、今はどこに向かってるんだ?ちょっと大通りからは外れたみたいだけど。」
俺の質問にはっとしたのか、咀嚼していた肉を急いで飲み込んだ後話し始めた。
「ごめんなさい、おいしさのあまり伝え忘れていました。今は冒険者ギルドに向かっています!」
「冒険者?それって魔物を討伐したりダンジョンに潜ったりするあの?」
「えっ!?よくわかりましたね。ショーヤ様の世界にも冒険者はいらっしゃるのですか?」
俺は首を横に振る。ごめんねアイラちゃん。創作ネタで頻出するからなんとなく知ってるだけなんだ。だから物知りなんですねみたいな表情でこっちを見ないでほしい。
「似たような話を聞いたことがあるだけだよ。ちなみに冒険者ギルドに行って何をするの?」
「王宮の方で冒険者に薬草の納品依頼を出していたのでその薬草を受け取ってしまおうと思います。」
「こんな時まで仕事なんてしなくてもういいのに。」
「いえ、これは仕事ではなく私の趣味なんです。私もセバス様に無理を言ってやらせてもらっています。」
使いっぱしりに思えことがアイラにとっての趣味だという。それ以外のまともな趣味はないのだろうかと少し不安になってくる。そんな俺の表情を察したのだろうか、慌ててアイラは訂正する。
「違います、えっと私は元々冒険者に憧れていまして、ついついその姿を見たくなってしまうんです。だからこれは私欲です!安心してください!」
「そっそう・・・。」
あまりの圧に苦笑いを浮かべてしまう。そうこうしていると他の建物よりも一回り大きい木造の建物が目に入る。その周辺には鎧を着こんでいる者、軽装で短剣やらなにやらを携えている人などが大勢闊歩していた。
「到着です!ここが冒険者ギルド ファーヴ支部です!ささっと中に入ってしまいましょう。」
「ああ。」
ギルドの扉を開くと中にいた冒険者たちの視線がこちらに一斉に向く。入ってくる人をちらりと見るのはよくあることだが、こちらを見る数人からは少し怒りの感情が感じられるような気がした。そんな雰囲気の中アイラとともにギルドの受付まで向かっていく。
「すみませーん、王宮の依頼品の受け取りに来ました。」
アイラが部屋の奥の人に声をかけると、それに気づいた一人の女性が向かってくる。
「あら、アイラちゃんいらっしゃいな。・・・そちらの方は?」
この女性からも警戒されている。もしかして俺は人さらいかロリコンだと思われているのでないだろうかと心配になってくる。変な誤解を生まないようにするため女性に話しかける。
「こんちには、俺は酒井翔也といいます。アイラちゃんにはこの街についていろいろ案内してもらっている最中なんです。ほら、俺例のあれなので。」
「あれ?・・・・ああ!あれですか!わかりました。アイラちゃんが知らない男と一緒にいるものだからてっきりよくないことでも起きているのかと思いました。それなら安心ですね。ほら皆さん!この人は大丈夫です!だからそんなに怖い顔しないっ。」
こちらを見ていた冒険者に声をかけると安心したように視線を外してそれぞれが歓談を始める。どうやらアイラはここに通ううちに冒険者ギルドのアイドルのようなものになっているらしい。
「失礼しました。少し事情がありまして、申し訳ございません。私はこのギルドで受付をしておりますルルハと申します。どうぞお見知りおきを。」
「ほんとですよルルハさん。いきなりショーヤ様のことをにらみつけたりして!ショーヤ様には何もされていませんから安心してください。」
俺には何もされていない、ね。やっぱりメイド間で何かしらありそうだな。それは今俺が介入することなのかはわからないため心の中に留めておくことにする。
「じゃあアイラちゃん、薬草を渡すから向こうの部屋に向かってくれる?ちょっと私はショーヤ君とお話ししたいことがあるの。」
「・・・?わかりました。ではショーヤさん、すぐ戻ってきますから少し待っていてください。」
「分かった、いってらっしゃいアイラちゃん。」
手を振ってアイラを見送る。アイラが部屋を移動しその姿が見えなくなったタイミングでルルハが話し始める。
「ショーヤ君、ちょっといいかしら?アイラちゃんのことなんだけど。」
「分かってます。城で何かあるんですよね。」
そう俺が問うと、ルルハはこくりと頷き話を続ける。
「アイラちゃん、生まれが少し特殊らしくて・・・それが原因で周りのメイドたちからいじめられてるみたいなの。それに気が付いたのは少し前、アイラちゃんが雨に降られてここまで来た時のことよ。風邪をひくといけないからと着替えさせたのだけど、そのときに彼女の体にいくつもの傷痕を見たの。本人は重いものを運んでいるときに体勢を崩したと言っていたけど、どう見てもそんなんじゃなかった。だからショーヤ君にはアイラちゃんが傷つかないように見守っていて欲しい。そしてできることなら助けてほしいの。」
それはアイラの境遇とそれを憂うルルハの心からの言葉だった。周りを見ると聞き耳を立てていた冒険者たちも暗い顔を浮かべている。城の中の出来事である以上、ここにいる人達は何もすることができない。だからこそ、あって間もない俺にこんな頼みごとをするのだ。俺としてもこれからお世話になる彼女が苦しんで日々を送るのは嫌だ。でも無責任に守るとも言えない。だからこそ俺は今言える精一杯をルルハに伝える。
「アイラちゃんを取り巻く環境をすぐに変えることは俺にはできません。でも俺もアイラちゃんには笑っていて欲しい。だから彼女が助けてといえるような人になります。そしてその言葉に応えられるような強い人になります。」
これが今自分が言える最大限だ。勇崎に比べると余裕がない。頼れる姿を相手に見せることはできない。でも伝えることは伝えた。
「・・・そう、それが聞けただけで十分よ。彼女をよろしくね。」
笑顔を浮かべてルルハは言った。その表情を見て俺自身も安堵した。
「それと話は変わってしまうけど、伝えたいことがもう一つあるの。」
「なんでしょうか。」
ルルハが手招きして頭を寄せるように促す。それに従うように俺は頭をルルハに近づける。そして十分に近くなった俺の耳に向けてルルハが話し始める。
「多分だけど、そのうちあなたたち勇者には冒険者登録をするように命が下されると思うわ。ギルドへ王宮から指令があってね、勇者のサポートをしろって。」
「俺たちの?」
「ええ、おそらくは魔物と戦って経験を積ませるためね、まだいつかは分からないけどおそらくはそんなに遠くない。そのときになったら私を頼って頂戴。できる限りの手助けを約束するわ。」
「いいんですか?俺は勇者ですけど、もっとすごいやつは大勢・・・」
「あなたはそう思っているかもしれないけど、私にとって勇者と呼べる人はあなたしかいないわ。それにさっきの約束もあるしね。」
ようはアイラを守るといったことへのお礼らしい。ここで断ると先ほどの宣言にも疑問が付きかねない。これは受ける方が正解だろう。
「分かりました。そのときになったらお願いします。」
「・・・ありがとう。」
話を終えたタイミングで奥の部屋の扉が開きアイラがこちらへ向かってくる。
「お待たせしました、ところで先ほどはお二人とも顔を近づけて何を話されていたのですか?」
アイラの問いに一瞬動揺する。さっきの内容をそのまま伝えてしまっては隠していた意味がない。俺はとっさに今ここにいる意味を思い返してアイラに言葉を返す。
「いや何さ、せっかくの祭りだからどんな出店があるのか聞いていたんだよ。ね、ルルハさん?」
「ええ、そうね。」
とっさに吐いた嘘にルルハが合わせる。第一段階はこれでよし。あとは実際にその話をすれば嘘じゃなくなる。
「ちなみに、さっき言っていた装飾品を売っている店っていうのはここから近いんでしたっけ?」
「装飾品・・・・・っ!ええ。ここを出て一つ東に進んだ先にあるわ。ちょうど地図があるから渡しておくわね。」
どうやら該当する店があるらしくその店への地図を渡してくれた。これでごまかしきれるだろう。
「ありがとうございます。じゃあアイラちゃん行こうか、その装飾品の店に。」
「はい、分かりました?」
少々疑問はあるようだが特に思うところもなかったのかすぐに元の調子に戻った。
「では、失礼します。いろいろありがとうございます。」
「構わないわ、またよろしくね。」
「お邪魔しましたー。」
アイラがぺこりと一礼してギルドを後にする。そんな姿を冒険者たちは慈しむように見つめる。アイラを大事に思っている人が外には多くいる、だが内ではその手が届くことはないのだ。だから自分がなんとかしなければならない。その意思を強く固めてギルドを後にする。
とりあえず、これから向かう店で彼女の心を掴みにいこうか、とそう思った。




