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明日は

「それでは、これからのショーヤ様の御予定について聞きに行ってきますので少々お待ちください!」

「ああよろしく。」


手を振りながらてけてけと歩いて部屋を後にしていくアイラ。出会った当初よりも落ち着いているように見えるから緊張で再び道に迷うことはないだろう。


ふぅ、と俺は案内された部屋をざっと見渡す。おおよそ8畳はありそうな部屋だが、先ほどの城の絢爛なイメージにそぐわない質素な空間だ。机の上に置かれている着替えの類は触れると滑るような感触で高級感はあるものの、ベッドやクローゼットといったものはどこかみすぼらしい。あまり歓迎されている気はしないと思いつつも、ベッドにそっと腰を下ろす。わずかに沈み込むベッドでも、今までの出来事を整理することのできるほどの落ち着きを与えてくれる。


「異世界、か。まったくもって実感はないが、この非日常感はなんとも言い難い高揚感があるな。思い描いてた世界っていうのを目の前にしたらこうも興奮するのか、有名人に道端で遭遇することの何倍も心が揺れ動く。というか、この世界はステータスとかはないタイプの世界なのか。職業はあったからてっきりあると思っていたが、なんか中途半端だな。」


俺が感じていたのは、自分が読んでいた物語やゲームの世界との差異だった。確かに近いものはあるがどことなく違う。無知な今の状態ではどうにも知っているものと重ねてしまって不満が浮かぶ。


「少し寝るか・・・。」


腰かけていたベッドにそのまま体を横たわらせる。少し硬めのベッドも高反発だと思えばなんということはなかった。やっぱり疲れていたのだろう。意識を夢の世界に飛ばすのにさほど時間はかからなかった。


_____________________________________


「ショーヤ様!起きてください!夕食の準備ができたようですよ。」


アイラからかけられる声に気づき目を覚ます。窓の外を見るともう日が落ちかけている。3時間ほどは寝ていたのだろうか、我ながらに図太いなと思う。


「おはようアイラちゃん、いい朝だね。」

「朝じゃなくて夕方ですよ、まったくお寝坊さんですね。他の皆様は全員そちらの服に着替えて食堂へ向かっているそうですよ。私たちも向かいましょう。あと、セバス様から今後のお話があるそうです。」

「セバスさんが話すのか。だったら急がないとな、いきなりの遅刻は心象が悪すぎる。」


着替えにさっと腕を通し、アイラに案内されるままに食堂へ向かっていく。


「やあ酒井くん、眠そうな顔をしているね。ついさっきまで寝ていたようだ。」


食堂に入った途端勇崎がこちらに話しかけてきた。食堂には何人かいるものの、自分付きになったメイドさんが気になるのか積極的に会話している様子が見られた。周りのメイドを見ても明らかにアイラは小さく浴びせる視線も冷ややかだ。敵対意識が見て取れる。正直に言ってしまえばあまりいい気分はしない。


「やあ勇崎、察しがいいことに俺は寝起きなんだ。どうにも俺好みの高反発の寝具が置いてあるもんだからつい本気で寝てしまったよ。」

「へえ。こっちも俺好みの低反発のゆったりとしたものだったよ。嗜好まで瞬時に把握できるなんて異世界はなんてすばらしいんだろうね。」


二人でカタリナの方を見るとバツが悪そうに喉を鳴らす。


「ええ、城付きの使用人としては当然のことでございます。喜んでいただき大変うれしく思いますよ、サカイ様。」


ニコリと笑いながら返すカタリナの姿はまさしく仕事人だった。


そんな会話をしていると、食堂には25人の生徒全員が集まった。およそ3時間ぶりの再会で、一人も欠けていないことに当たり前だと思いつつも安堵した。

どうでもいいことを考えていると、いつの間にか皆の視線が集まるところに立っていたセバスが話し始めた。


「勇者御一行様、部屋で十分に休むことはできましたでしょうか。これから皆様には我が国が誇るシェフが手掛けた料理を楽しんでいただけたらと思います。が、その前にこれからの予定についてお話ししたいと思います。」


予定を話すとは聞いていたが、食事の前なのかと身構えてしまう。せめてリラックスしてから知らせてほしかった。


「明日、早朝より城下の方で皆様の歓迎パレードを開くことが計画されております。」

「「「パレード!?」」」


食堂内が色めき立つ。パレードという言葉には嫌でもテンションが上がってしまう魔法でもかかっているのだろうか。その一言だけで張りつめていた空気が一気に和やかなものになった。


「はーい!パレードって何をするんですか!」

「皆様には場所に乗っていただき我が国の民たちへお顔を見せていただきたいのです。民たちも皆様方のご尊顔を見たく思っております。また、既定のルートを巡ったのちはいくらかの自由時間もありますので好きに城下を回っていただけますよ。もちろんメイドの方はつけさせていただきますが。」

「それって実質デートじゃんね!異世界マジ最高かよ来てよかった~。」


自分たちが求められているということを告げられてますますテンションが上がっていくクラスメイト達。すでにタイプらしいメイドとペアになった男子はその鼻を伸ばしてメイドの方を見ている。おい、メイドさん苦笑いしてんじゃねーか。加減しろよ、知り合ってからまだ半日も経ってないんだぞ。


「また、明日以降は、皆様にこの世界を知っていただくための座学や、職業について知るための訓練などを予定しておりますが、まずは明日のことだけをお考え下さい。」


訓練という言葉に一瞬静かになるもののパレードの力は大きい。すぐにそんな空気はかき消えてしまった。実際のところ部屋に着いてから寝ていただけで、実活動時間が1時間余りの俺にとっても、外の話をされるとわくわくしてしまうのは仕方がないことだろう。


「では、話が長くなってしまいましたが食事の準備が整いましたので、これにて連絡は以上とさせていただきます。ごゆるりとお楽しみください。」


セバスがさっとお辞儀をすると食堂から出ていった。いまここにあるのは、おいしそうな何皿も並べられた大層な料理だけだ。形式張った食べ方など今は考える必要もない。おなかも空いているし、食べるとしよう。





ちなみにこの食事は今までに食べた中で2番目にうまかったというのはここだけの秘密にしておこう。



____________________________________




食事とその後の風呂を終えて部屋に戻ってきた。部屋には寝間着が用意されており、ベッドには少し柔らかそうな枕が一つ置かれていた。見えないところだけで嫌がらせをするとか、なんと陰湿なことか。性格が見て取れるね。


「それでは、また朝になったら起こしに来ますね。ごゆっくりお休みください、ショーヤ様。」

「アイラちゃんもおやすみ、頼むから寝坊して遅刻だけはしないでくれよ。」

「しませんよお、私早起きだけには自信があるんです。えっへん。」


大きく胸を張るアイラ。年相応のリアクションが見られて寝る前にはちょうどいい和やかな気分になった。そんなアイラと別れた後、すぐさま着替えてベッドに寝転び新たに得た枕に頭を乗せる。一息ついて寝転んだまま窓の外を見ると溢れんばかりの星々が目に映る。寝るには少し明るすぎるような気もするが現代で生きてきた自分はブルーライトがない分だけ早く睡魔に襲われた。明日はついにこの国ないし世界を見ることができるのかと、期待感と少しの不安感を抱えながらゆっくりと目を閉じた。

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