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職業測定

勇崎が手を触れると水晶は激しく光を放ち始める。広いはずの城の空間がすべて白く塗りつぶされて数秒が経過しただろうか、徐々にその光は勇崎の中へ消えていった。

全員がぽかんとその場に立ち尽くしていると、ラッカムが手を打ちながらゆっくりと降りてくる。


「おお、なんと素晴らしいことかユウザキ殿!そなたこそが今代の勇者!皆の者、今ここに新しき勇者、ユウザキが誕生した!」

「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」


部屋中が歓声で満たされる。自分たちの救世主が生まれたことを喜ぶ声はしばらく続いた。

不思議と驚きはなかった。もし自分のクラスで勇者と呼ばれる存在がいるとしたらそれは勇崎以外に考えられなかったから。勇崎は人格者だ。人に親切なのは当然のことだが、なによりも彼は人を見極めることに長けているように感じた。


 勇崎について以前からいい奴だなとは思っていたが、明確に見る目が変わったのは少し前のことだ。クラスの奴らが殴り合いの喧嘩をしたことがあった。そのとき、俺は当然勇崎が割って入るものだと思っていた。しかし、彼はその現場に干渉することなく、ひとしきり喧嘩が済んでから行動を起こした。お互いに悪いところがあることをきちんと認識させたうえで後腐れがないように仲裁したのだ。曰く、何も事情を知らないまま止めると変に軋轢が残ったままで気まずくなってしまうとのことだったが、そこまで人のことを考えられるなんて、とその時は感心していた。そのころから自分の中の勇崎の評価はただのいい人ではなくなっていた。


「友!やっぱり勇者はお前だったか!まあうちのクラスで勇者が誰かっつったらお前しかいねえわな。これからも頼むぜリーダー?」

「やめてくれよ、健司。俺はいつもやるべきことをやっているだけさ。そしてそれはここでも変わらないよ。というわけでみんな!この水晶にとくに怪しいところはないよ。強いて言えば触れた光るところぐらいかな?」


緊張をほぐすための小ボケにクスリと笑いが起こる。気が抜けていくらかリラックスできたのだろうか、そこから先は順番にクラスメイト達が水晶の元へと向かっていった。

それぞれが水晶に手を触れる度に、勇崎ほどではないが水晶は赤や緑といった光を放つ。職業というのは自分の心の内で浮かび上がるものらしく、色からは推察することはできなかったが、触れた人たちが戻ってくる度、仲のいいグループでお互いの職業を伝え合っている。

治癒師、魔術師、武闘家など戦闘向きの職業もあれば、農耕師や鍛冶師といったあまり戦闘向きではない職業も耳に入ってきた。そして、自分以外のクラスメイトが職業を判別し終え、いよいよ自分の番が回ってくる。そっと水晶に手を触れる。触れた先の水晶から溢れるのは紫がかった光だった。そして自分の中で一つの言葉が浮かんでくる。



"召喚術師"


召喚術か、イメージは何となくできるけど具体的な運用方法が分からず唸っていると、ふと上から見下げているラッカムと目が合う。


「・・・?」


ラッカムの目には何となくこちらを蔑むような気配を感じた。何か?と声をかけてみようとしたが、その寸前でラッカムが口を開く。


「どうやら全員の職業が判明したようだ。勇者様方もいきなりのことの連続で疲れているであろう?今日のところは休んでいただきたい。これからの予定については後の夕食の際に各人に連絡が行くであろう。ではしばらくの休息を。」


そう言い残してラッカムはその場を立ち去った。ラッカムの背後に控えていた男がこちらを見て話しだす。


「お初にお目にかかります、勇者様御一行。私はこの城の召使代表のセバスと申します。以後お見知りおきを。皆様には一人一部屋をご用意しておりますので、そちらに御案内いたします。お前たちここへ。」


セバスと名乗った男が、手を二度叩くと部屋の左右の扉からメイド服に身を包んだ女性たちが、クラスメイト一人ひとりの前に立った。もちろん自分の前にもいるが、・・・なんだろう他の人よりも歳が低いような気がする。


「夕食の手配や身の回りの世話につきましてはこちらのメイドらが行いますので、任せていただければ幸いでございます。何か困ったことがあれば、メイドにお申し付けください。ではお前たち、勇者様一行のご案内を。」

「「「かしこまりました。」」」


セバスが告げるとメイドたちがクラスメイトを連れて各々の部屋へ案内を始める。自分の担当である少女メイドはわたわたしながらクシャクシャの地図を見ている。どうやら新人のようだ。ラッカムのあの目といい、何か因縁づけられたのかもしれないと思いため息をついた。


「酒井くん?ちょっといいかな?」


勇崎がこちらに話しかけてきた。別に話さない仲でもなかったが、この場で話しかけられる程仲がいいわけでもなかったはずだ。


「どうした?」

「いや何となく君のことが気になってね。少し話さないかい?すまないカタリナさん、少しだけ彼と話をしても?」


隣についていたメイドはカタリナというらしい。もう名前を聞いているのかと、そのコミュニケーション力に関心した。なぜならば、自分についてくれるメイドの卵とはまだ一言も交わしていないからである。それはともかく、せっかく二人で話そうと言ってくれたので、話に応じることにした。


「俺は構わないけど・・・すみませんそちらのメイドさん?ちょっと外してくれないかな?」

「ふえ!?かっかしこりましたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ぴゅーんと駆け出していくメイドさん。まだ名前も聞いてもいないのにこの先大丈夫だろうか?


「ええっと、これで問題はないな。」

「これからに問題がありそうだけどそれはおいておこうか。というわけで、君について聞きたいことがある。いいかな?」

「別に構わないが。」

「ありがとう。じゃあまず君の職業は何だった?」

「俺は召喚術師だったけど何か?」

「いや、なんとなく気になったんだ。」


勇崎はどうやらラッカムが測定後に向けていた視線に疑問を持ったらしい。俺ですらたまたま上を見上げて気が付いたのによく周りを観察してたと思う。


「あの王様、酒井くんのことをにらんでいるように見えてね。何かあるんじゃないかと思ったんだ。」

「流石だな、勇崎。で、そのことについて何か思うところがあったんだろ?」

「ああ、俺を除いたみんなの職業は自己申告制だ。具体的な職業についてはわからないだろう、なのに王様はあんな目を向けた。それはなんでだと思う?」

「職業以外に気に食わないところがあったってことか?」


勇崎はこくりと肯定の意を示す。


「状況証拠に過ぎないけど、一番有力なのは君が触れたときの水晶の色だと思う。」

「色?」

「ああ、赤や黄色、緑といった光は複数人で観察できた。けど君の紫色だけは君以外に見ていない。勇者と断定された俺の白い光も俺だけのものだった。だから君も特別ななにかなんじゃないかってそう思ったんだ。」

「それで職業か。」

「確かに聞いた限りでは職業も君のものは他と被っていない。けれどそれが、それほど特別なものとも思えない。つまり現状で考えられるのは紫の光が向こう側にとって何かしらの不都合であったかもしれないということだ。」


不都合ってなんだと尋ねても明瞭な答えは返ってこなかった。それも当然だ。俺たちはこの世界について何も知らなすぎる。知らないうちにあれこれ考えるだけ無駄だろう。


「とにかく君はあちらから何らかの不条理な扱いを受けるかもしれない。第一にその片鱗がもう見えている。あのメイド、あまりにも仕事に慣れていなさすぎる。歓迎の意を示すことが重要な今に新人をぶつける理由はなんだと思う?俺は君に対しての嫌がらせと見ている。十分気を付けた方がいいだろうね。」

「わかった、気にかけてくれてありがとう。今はそれだけ分かっていれば十分だ。これ以上話していると変に怪しまれるかもしれない。すぐに部屋に戻った方がいいだろうな。」

「そうだね。じゃあまた後で。」


勇崎はカタリナに声をかけて呼び寄せると、感謝を述べた後、部屋に連れて行ってもらうように頼んでいた。相変わらず人のよさがにじみ出ている。こんな俺に対しても心配してくれるのだから筋金入りだろう。

何はともあれ話は終わった。さっさと自分の部屋に行くのがいいだろう。となっては例の新人メイドに案内してもらわないといけないが。


「ええと、話は終わったからこっちに来てもらえない?」

「あっはいぃぃ。」

「怒らないからそんなに怖がらなくてもいいよ。君の名前を聞いてもいいかな?」

「え?私の名前ですか?私アイラっていいます。」

「アイラちゃんね、これからよろしく。」


挨拶とともに右手を差し出す。アイラは最初は差し出された手の意味が分からずきょとんとしていたが、こちらの真似をするように右手を差し出してきた。その小さな手を優しく握りよろしくと改めて伝えると、アイラはニコリと頬を曲げた。


「では、お部屋に案内させていただきますね。ええと、」

酒井翔也(さかいしょうや)。翔也で構わないよ。」

「はいっ!ショーヤ様!ついてきてください!」





部屋にたどり着くまでの道中で道に迷ってしまい涙目になりながらこちらを見つめてきたときはこの先本当に大丈夫なのだろうかと苦笑いを浮かべた。


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