転移
"異世界転移"
201〇年より急激にジャンルとしての勢力を増していき、203〇年の今となっては若者の中で聞いたことがない人がいないほどの一般に浸透した。突如召喚に巻き込まれた主人公が仲間たちとともに強大な敵に立ち向かう話、仲間から無能だと言われ、パーティーを追放され復讐を誓う話、はたまた人間としてではなく魔物として転生して自分の生きたいように生きる話、現在で疲弊したものが異世界でスローライフを送る話など、一括りにするにしては多様すぎる異世界モノはありふれてなお人々を魅了してやまない。
そんな今に生きている僕らが一度は想像するのは、"もし自分が異世界に転移することになったらどうするか?"である。自分の生み出した世界について考えるのは子供特有のものではあるが、そんな世界を認めてほしくて世に流すのが創作というものなのだろうと思う。
このもしもを実際に体験したとき、考えていた通りの行動ができるかどうかは誰も分からない。だってそうだろう?実際に体験していないことはいくら考えても想像の域を超えない。だから今みたいに足元が光り輝いているというよく知っていることが起こってもただパニックを起こして慌てふためくことしかできないのである。
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「おお!よくぞ召喚に応じてくれた、勇者たちよ!」
謎の光に焼かれた視界が徐々に開けていく。辺りを見渡すと先ほどまでいた教室にあるはずもない白く光を軽く反射する石作りの床、高すぎる天井と掲げられている謎の紋章旗。そして、目の前には現代には似つかわしくない重そうな甲冑を装備した人たちが周りを取り囲んでいた。
知っているが知らない状況に戸惑っていると、先ほど声を上げていた豪華なローブに身を包んだ白髪の老人がさらに言葉を重ねる。
「いきなりこのような場所に連れてこられて戸惑うのも無理はない。では軽く自己紹介をさせてもらおう。わしは貴殿らをこの"ビフレスト王国"に召喚した今代の王、ラッカム=ビフレストと言うものである。この国は古くから人々の暮らしを脅かす魔族との戦争を続けており、今代でついに敵勢力に追い詰められてしまうという事態に陥てしまったのだ。このままではこの国、いやこの世界が、混沌へと導かんとする魔王の手によって支配されてしまう。そのようなことを阻止するためビフレストに伝わる、異なる世界から特別な力を持つ者を召喚する大魔法を行使したのだ。いきなりの事態でで理解が追い付かないのも分かる。だがどうかこの国のために力を貸してほしい!この地に集いし勇者たちよ!」
勇者、魔王、召喚。これはあまりにもよく知っている展開だ。こんなところに連れてこられる前にも読んでいた小説のような設定が、現代に似つかわしくない格好で当然かのように話を進めている。人は無力だ。意味不明な事態に直面すると頭の回転は停止して、何も考えられなくなる。
いろいろ聞きたいことはあるはずなのに、うまく言葉が出てこない。さきほどまではよく見えなかったが、自分以外にも似たような恰好をした人が何人もいる。誰も彼も見知った顔であることから、さっきまで昼食をとっていた2年A組のクラスメイト全員がここに連れてこられていると理解した。周りを見渡している者、何か話そうとして口をパクパクさせている者、膝から崩れ落ちて涙を浮かべている者など多様な反応が見られた。
慌てている他人の姿を見ているとだんだんと気持ちが落ち着いてきたため、改めて自分が置かれた状況を整理したいと思う。1つ、自分は異世界召喚された。2つ、魔族と呼ばれる敵対勢力がいる。3つ、戦わせられるらしい。・・・うん、情報が少なすぎて何もまとめられていないな。やっぱりまだ混乱しているのだろう。まとまらない頭の中をどうにかしようとしていると、集まる人たちの中から、芯の通った声が響き渡る。
「ラッカム王よ、発言の許可をいただきたい!俺の名前は勇崎友!召喚された人たちの代表として貴殿と話がしたい!」
「勇崎・・・」
臆することなく声を上げたのは勇崎友、日本人には似つかわしくない金色の髪に金色の目をしたハーフのイケメンで、2年A組のリーダー的存在で生徒会長も務めるカリスマ的存在だ。彼の通る声を聴くと自然とざわついていた心が落ち着いていく。異常な状況でも精神安定剤として働くのはさすがとしか言いようがない。
「発言を認めよう。ユウザキ殿」
「では、3つお聞きしたいことがあります。1つ目は、俺たちの処遇についてです。」
「貴殿らはこちらの都合で召喚してしまった。ゆえにこの国で過ごしていくにあたり最大限の助量をすることを約束しよう。」
「では2つ目、先ほどあなたは魔族と戦ってほしいとおっしゃっていましたが、私たちは戦いとは無縁の世界で生きてきました。手段があっても戦えない人たちもいるはずです。その人たちについてはどのように接していくのでしょうか。」
「決して敵と切り結ぶことだけが戦いではありませぬ。鍛冶や治療など活躍の場は多くありましょう。それが困難というのであれば、この宮殿で静かに暮らしてもらうしかありませんな。」
少し考える素振りを見せた後勇崎は告げた。
「なるほど。では質問は3つと言いましたが聞きたかったことはすべて聞けたので以上で大丈夫です。貴重な時間をいただきありがとうございました。・・・というわけだけどみんな、落ち着くことはできたかな?」
流石イケメン、周りへの気配りが半端ではない。周りも問答を聞いているうちに落ち着きを取り戻したようだ。本題以外の情報も得ることができたのは大きいだろう。少ない情報で自分たちの行く末を決めるのはあまりに危険である。その点でいえば即行動に移した勇崎の動きは最適解に違いない。
「あぁ問題ねえよありがとな友、お前の声を聴いてたら目が覚めてきたぜ。」
「流石のカリスマ性だね友くん。もうこのまま私たちのリーダーしてもらってもいいよ?」
「投げやりなのはよくないけれど、でもこの場で友以上に話せる人はいないでしょうから賛成だわ。」
勇崎の周りに集まるのは、いわゆる一軍グループのメンバーだ。そんな彼らに協調するように他の人たちも集まっていく。そんな彼らに引っ張られるように自分も勇崎の元へ向かっていく。
「ふむ、どうやら落ち着いたようでなにより。というわけでいきなりで申し訳ないが貴殿らにはこの水晶に順に触れていただきたい。」
数メートル先に置かれたものに目をやると、直径1メートルはあろうかという水晶が置かれていた。
「この水晶は、職業判定の魂玉と呼ばれるものである。この玉に触れると本人の素質が浮き出てくるのだ。本来は10歳になるときに初めて使われるものである。本来、自身の今まで経験から職業が決定するものだが、貴殿らはこの世界の住人ではないため職業など持ち合わせておらんだろう。しかし異世界人はこの世に遣わされるときに素質を一つ与えられるという。ゆえに今この場で素質を見て、生きていくためのすべを理解してもらおうと思ったのだ。」
職業か、いよいよ創作の世界っぽくなってきたなと思っていたが、実際に話を聞いていくとだんだんと体
うちに熱が集まっていく。一度は想像したことのある世界に実際に入ったことを理解すると自然と口角が上がってしまうのも無理はないだろう・・・と思いたい。
周りのクラスメイトも心なしかそわそわしているように見える。もし自分が勇者になったらと思っているようだった。しかし、皆なんとなく勇者は誰かというのは察していただろう。
「そういうことなら異論はないな。じゃあみんな!俺から始めても構わないか?」
周りは一様に頷き、同意の意を示す。
その姿を見て勇崎は水晶の前へと歩き出し、僅かに光を放つ水晶にそっと手を触れた。




