第4話:断罪の舞踏会――指先の痕跡と真実の灯火
煌びやかな舞踏会の夜は、依然として緊迫の空気に包まれていた。貴族たちの視線が鋭く交錯し、陰謀の糸が静かに絡み合う。
レティシア・エルフォードは冷静に玉座の前に立ち、次の論破の準備を進めていた。
「さて、王子殿下、そして皆様。先ほどの証言の中に、まだ明かされていない“指先の痕跡”がございます」
彼女の声は静かだが、確固たる力を帯びていた。
「その指先とは、恋文に付着していた特定の香水の成分を指します。これは、宮廷でのみ取り扱われる特別なもの。誰がその香水を扱えるか、皆様ご存知でしょうか?」
会場がざわつき始める。
「王宮の香料師しか扱えません。つまり、恋文の送り主は、宮廷の内情に精通している者でなければならない」
レティシアは視線をカイル王子に向ける。
「王子殿下、その点についていかがなさいますか?」
カイルは言葉を濁し、一瞬目を逸らす。
「……それは、我が側近のミランダが管理している香水のことか」
レティシアは一歩前に進み、静かに言った。
「側近の存在を含め、この事件は単なる断罪劇ではなく、より深い陰謀の一端を示しています」
その時、控え室から一人の男が姿を現した。宮廷の香料師、ミランダである。
「私は証言いたします。確かに、恋文に使われた香水は私の管理下にありましたが、それが令嬢の手に渡ったことは断じてありません」
彼の誠実な声が会場に響き渡る。
「さらに、最近香水の一部が何者かに盗まれていることも報告されています」
会場は再びざわめいた。
レティシアは微笑んだ。
「この“指先の痕跡”は、真犯人の痕跡でもあります。私はこれから、その正体を論破してみせます」
舞踏会はただの宴ではなく、真実を見極める裁判の場となった。