第3話:女王蜂の毒と罠
断罪の舞踏会は、誰もが緊張を隠せないまま続いていた。レティシア・エルフォードは、静かに視線を巡らせながら、次の一手を考えていた。
会場には、彼女を陥れようとする女王蜂のような存在、エレノア・セシルがいた。彼女の微笑みは美しく、しかしどこか毒々しい。
「次に証言するのは、エレノア嬢です」
王子の声が響き、エレノアは一歩前に出た。
「レティシア様が、私の友人に害を及ぼした証拠があります」
彼女の言葉は巧みに練られており、聞く者の心に疑念の種をまく。
だが、レティシアは動じない。
「それは具体的に、どのような証拠でしょうか?」
エレノアは冷ややかに答えた。
「友人が突如として体調を崩し、その原因はレティシア様の手にあると考えられます」
会場がざわつく。
レティシアは即座に反論した。
「では、その体調不良の診断書や医師の証言はありますか?」
エレノアは一瞬言葉に詰まった。
「……いいえ、それはありません」
レティシアはゆっくりと前に進み、声を張り上げた。
「証拠なき非難は、中傷であり、裁判の場に相応しくありません」
その瞬間、側仕えのセリスが静かに一枚の書類を差し出す。
「これは、被害者の診断書と、体調不良の原因を示す医師の報告書です」
レティシアはそれを読み上げた。
「感染症によるもので、毒物の痕跡は認められません」
会場の空気が凍りつく。
王子の眉が深く寄る。
「エレノア嬢、あなたの証言には信憑性が欠けます」
レティシアは微笑んだ。
「女王蜂の毒は、まず自分の周囲から消さねばなりませんね」
この一言に、会場の緊張が一層高まった。