第12話:破られた仮面 — 真相の扉が開くとき
冷たい雨が王宮の大広間の窓を激しく叩きつける中、室内は灰色の薄闇に包まれていた。権力と策略が渦巻くこの場で、レティシア・エルフォードは鋭い眼差しで貴族たちを見渡し、静かに口を開いた。
「本日は最後の証言と証拠をもって、この陰謀の黒幕を明らかにいたします」
リオ王子もまた深い青のマントをたくし上げ、厳しい目で令嬢を見据えた。
レティシアが手にした箱から取り出したのは、古びた羊皮紙の密輸取引記録。そこには、宦官マルクス・フェインを通じて偽装された夜薔薇の香水が宮廷へ流入したことを示す、カミーユ・ローデンの署名がはっきりと記されていた。
場内はざわめきに包まれ、動揺したカミーユは震える声で告白した。
「命令に従っただけです。真の黒幕はさらに上の者です」
レティシアは玉座横の隠し扉を指し、冷たく命じた。
「マルクス・フェイン、出て参りなさい」
軋みを立てて開いた扉から、疲れ切った宦官マルクスが姿を現す。リオ王子は鋭く問いかけた。
「貴方が真の黒幕か?」
マルクスは静かに頷き、言葉を紡いだ。
「私は宮廷の裏を護りし者。真実を守り、利用すべき者のために動いた。しかし、この行為が悲劇を生むとは思わなかった」
長年秘密を握り続けてきた彼は、外部勢力の介入を防ぐため“影の調整”を行った。しかしその結果、令嬢の尊厳と信用を傷つけてしまったのだ。
レティシアは目に涙を浮かべながら静かに語る。
「真実は時に人を傷つける。だが隠し続ければ、更なる嘘を生むだけです」
カミーユは小さく息をつき、問い詰めた。
「私も利用されました。ですが、真の黒幕は誰が操っていたのですか?」
マルクスは深く息を吐き、答えた。
「それは……王太后陛下の意向です。宮廷の安定を最優先とし、あらゆる手段を使おうとされたのです」
リオの表情は硬直し、場内は騒然となった。
それでもレティシアは静かに断言した。
「これで全てが明らかになりました。嘘は剥がれ、真実の光が差し込みます」
リオは立ち上がり、レティシアに歩み寄った。
「レティシア、貴女の論理と勇気が宮廷を救った。名誉を回復しよう」
雨は止み、差し込む光が大広間を満たした。人々の表情には安堵と希望が宿っている。
レティシアは微笑みながら、心に誓った。
「これからも真実を追い続け、この宮廷に二度と隠された陰謀が起こらぬように」
こうして、第一章は幕を閉じ、新たな物語の扉が大きく開かれたのだった。