第1話:断罪の夜と、微笑む令嬢
煌びやかなシャンデリアが高く輝く大広間。絨毯の赤が深く染まり、貴族たちのざわめきが静かに波打っている。
その中央、王子の玉座の前にひとりの少女が立っていた。深紅のドレスに身を包み、氷のように冷たい青い瞳を向けている。
レティシア・エルフォード。侯爵家の令嬢であり、この国で「悪役令嬢」と噂される彼女が、今まさに断罪の舞台に上げられているのだ。
「レティシア・エルフォード、貴女はこの学園にて、数多の悪事を働き、婚約者である第一王子リオ殿下との関係を破壊しようとした罪に問われる」
静かな声で告げたのは、リオ王子自身だ。その瞳には、かつての優しさは微塵もなく、厳しい裁きの光だけが宿っている。
「証拠は?」
レティシアが低く問い返す。彼女の声には怒りも悲しみも混じっていなかった。冷徹な理知の響きだけが響き渡る。
「貴女の行動を目撃した者は多い。証言も揃っている。これ以上、否定の余地はない」
だが、レティシアは微笑んだ。
「では、その“証言”をお聞かせ願おうか」
第一の証人が前に出る。純白のドレスを纏った令嬢――ユーフェミア・ミラード。彼女の目には確かな憎悪が宿っていた。
「私は、レティシア様が私の悪口を言いふらし、殿下を騙しているのを見ました」
しかしレティシアは冷静に言い放った。
「では、その時刻を正確に教えていただけるかしら?」
ユーフェミアは答えに詰まった。
「……夕方の集会の後……?」
「矛盾している。私はその時、学園の図書室にいた」
レティシアは玉座の後ろに立つ側仕えの少女を指差す。彼女が静かに頷く。
「図書室の記録と目撃者もいます。時間が合いませんね」
会場がざわつく。王子の表情に一瞬の動揺が走る。
「証拠が揃っていると言いましたね? では次に、嘘をついた理由をお聞かせ願おう」
ユーフェミアの頬に、怒りと狼狽が混じった涙がこぼれる。
「……私は、ただ、殿下に近づきたかっただけ……」
レティシアの微笑みはさらに深くなった。
「まことに単純な動機でございますね」
それは断罪劇ではない。冷徹な論理と真実の舞踏会だ。
悪役令嬢は微笑んで、王都の闇を斬り裂く。