turn1 色欲の魔王と刀の魔法天使
「色欲の魔王が撃破された」
ヘッドの言葉に仲間達がそれぞれの反応を示す。
驚く者、ホッとする者、無反応の者。
「倒したのは⋯」
「刀か」
シールドが遮る。
「そのようね」
オペレーターが首肯する。
「でもあの狂犬の反応も消えたわ」
「相打ち?」
スナイパーが反応する。
「いや、数日のタイムラグがある。きっとダメージが回復しきる前に別の悪魔憑きに倒されたんだろう」
もしくは別の魔法天使に。
「そう」
「いい気味」
「止せ。仲間だ」
「仲間殺しでしょ?」
「魔法天使ってだけで一括りにするのはどうだろう?」
仲間達の会話に耳を傾けつつヘッドが考える。
(弱体化していたとは云え、あの刀の魔法天使が負ける相手か。危険だな⋯)
刀の魔法天使。
確かアヤカとか云う名前だったはず。
「悪魔憑きと魔法天使は確かに元を辿れば同じ。とは云え悪魔と天使の区別もつかないとはね。いずれは私達で処分していたさ」
刀の魔法天使アヤカと共闘関係を模索した時期もあった。
しかし、接触に行った使者役が斬り殺された。
その使者、言霊の魔法天使はやや嗜虐心と自己愛の強いナルシストで、口は回るが悪魔憑きを拷問して殺す悪癖があった。
魔法天使は最終的に悪魔憑きを殺さねばならない。
しかしそれはあくまで結果に過ぎない。
悪魔憑き達の力の源、魔王の欠片を破壊すると宿主が死ぬからだ。
魂が癒着する前に祓えれば生存出来るらしいが、そもそも魔王の欠片に適合する様な悪人だ。
魂はすぐに癒着、同化する。
そして殺した方が世の為人の為でもある。
『核を破壊してどうせ死ぬのなら、少しくらい楽しんだ方が良い。その方が合理的でしょう』
他の仲間達は悪魔憑きとは云え、なるべく苦しめずに殺す様に心掛けていた。
しかし彼は違った。
『彼等彼女等は自らの欲に溺れ人を傷つけ食い物にし、殺しています。それなりの罰は必要でしょう』
自らの正義感と合理性を併せて語る彼に口で勝てる者は居なかった。
彼の在り方に疑問を抱くメンバーも居た。
だが有能故に口を閉ざした。
刀の魔法天使もすぐに勧誘出来ると見込まれていた。
結果は、斬殺。
彼の悪心を見破られたのか、それともやはり悪魔憑きと勘違いされたのか、刀の魔法天使アヤカに斬られて死んだ。
言霊の魔法はかなり厄介だ。
口約束で相手と強力な契約が出来る。
単なる口約束だからと油断して簡単に約束してしまうとそこで終わりなのだ。
しかしアヤカは、彼がその弁舌を振るう前に一刀両断にしてしまった。
正に先手必勝一撃必殺。
(アタッカーが欲しかったんだがな⋯)
もしも勧誘に成功していたら、彼等のチームで最も危険度の高いポジションにする予定だった。
アヤカは丁度先日死んでしまったアタッカーの後釜に据え置くつもりだった。
当てが外れるどころか更なる欠員に繋がってしまったが。
「惜しい人材だった」
ヘッドが嘆息する。
「それってどっち?」
スナイパーが茶化す。
「二人共さ」
嘘だ。
欲しかったのは刀の魔法天使。
アヤカは強かった。
だが強過ぎた。
ヘッド達はチームを組んで罠を張り、作戦を立てて悪魔憑きを倒していた。
しかしアヤカは単騎でザクザク悪魔憑きを殺して回っていた。
戦闘能力が違い過ぎる。
そんな彼女に仲間等不要だったのだ。
ネゴシエーターを殺された復讐、報復も考えられたが、魔王にぶつけ捨て駒にする方針に変更され、それは成功した。
魔法天使アヤカは色欲の魔王を見事倒した。
しかし色欲の魔王の欠片も、アヤカ自身も行方不明である。
「弱ってるところを助ける予定だったんだけどね」
「わっるーい」
「私がトドメ刺してやったのに」
「おい、その辺で―――」
その時だった。
「ボォォォォォォォォォォォォォォッ⋯⋯⋯」
地獄の亡者達の嘆きの様な声が響く。
「皆、静かに」
ヘッドの言葉に皆が押し黙る。
「啓示だ」
真っ白い顔。
デスマスクだ。
空中に浮かんだデスマスクがパクパクと唇を開き、言葉を放つ。
「⋯刀の魔法天使⋯」
「⋯黒翼の悪魔⋯」
「⋯鎚の魔法天使⋯」
「⋯色欲の魔王⋯」
「⋯空間の悪魔⋯」
「⋯熱線の魔法天使⋯」
「⋯癒しの魔法天使⋯」
「魅了の悪魔」
そして唇を閉ざし、次の瞬間にはデスマスクは消えていた。
「⋯癒しの?」
ヘッドがデスマスクの最後の台詞に食い付く。
「え?色欲の名前がまた出てない?」
「復活するっての?早くない?」
「いや、これ倒されたって事じゃない?」
「そうなのかな」
「狂犬も入ってるし」
「それもそうか」
他の仲間達は先程話題に出た、色欲の魔王と刀の魔法天使について語っている。
(それも気になるが⋯こっちのが重要度高いだろうが)
デスマスクの吐く言葉は基本的に単語ばかりしかない。
そして時間軸もジャンルも曖昧だ。
以前『刀の魔法天使』の名前が出た時は仲間になるのかと期待した。
しかし言霊の魔法天使が殺されただけだった。
だのに言霊の魔法天使は死ぬ未来すら知らされなかった。
(不確定だが、チャンスだ)
最悪、癒しの魔法天使が敵に回るか殺される可能性も有る。
だが探す価値は有るだろう。
「癒しの魔法天使を必ず仲間にするぞ」
ヘッドの言葉に仲間達が頷く。
ヒーラーはずっと探していた。
アタッカーもネゴシエーターも必要だが、ヒーラーは特に重要だ。
「私達が生き残る為に」
突然巻き込まれたこの馬鹿げたデスゲームをクリアする為に。
お読み頂き有り難う御座います。