【討魔星勇録:星爛の勇者編―旅立ち―】
俗に言う勇者パーティーに選出された私たちは、集められた城でセプテントリオ王から直々に魔王討伐の勅命を賜った。
先人たちが討魔星勇録に書き記した記録を辿り、魔王の元へ彼らを導くのが、勇者パーティーに選ばれた天遣の役目。だから私も先人たちに倣い、こうしてこの旅を書き記している。
魔王討伐に携わった者たちの来歴を残すのも私の役目なので、ここに改めて記す。
今代の勇者に選ばれた星爛の勇者は、ヴァレンティアの首席である。その退魔の力は歴代勇者の中でも一線を画す。
幼い頃より討魔星勇録の写本を愛読し、勇者に強い憧れを抱いている。極度の勇者愛好家、といったところだ。
一方で、人の善意を信じすぎているきらいがある。この旅で彼の魂が穢れないことを切に願う。
セプテントリオ王家第三王子は、公妾の子。
王家には魔王討伐を見届ける責務があるが、魔王への旅路は危険なものだ。正当な王位継承権を持つふたりの兄の身代わりであることは明白だった。よって、第三王子は魔王討伐のやる気が皆無である。
王家伝来の操隷術は問題なく習得しているようなのでそこは一安心だが、はたしてどうなることか。
パーティーの生存率を左右するファトゥム教会の神官は、珍しく女性が選ばれた。
幼少期に貧困を経験して信仰に目覚め、敬虔な祈りで瞬く間に癒しの力を身に着けた健気な乙女――と聞いていたが、実際の彼女は、パーティーメンバーからも回復料金を徴収する守銭奴であった。几帳面に帳簿までつけるほど。
そのおかげと言っていいのか、厳しい戦いの中でも我々の被弾率はかなり低い。
セプテントリオ王国軍筆頭剣士は、筋肉隆々で声もリアクションも大きく、とにかく暑苦しい男だ。夏の太陽が足を生やして現れたのではないかと疑うくらい暑苦しい。
大きな背に抱えられた大剣も、彼の情熱を体現したかのように猛々しい。退魔の力を持たないのに魔物をハエの如く屠ってしまうのだから、諸々と規格外だ。
やる気のない王子と守銭奴の神官と比べれば役に立つ。ただただ、暑苦しいが。
そして旅の導き手である天遣の私は、この世界に目覚めてまだ百年と少し。同胞の中でも特に幼かったが、「討魔星勇録を執筆したい」という願望だけは人一倍ある子どもだった。
そんな私を、天塔の主マルアークは快く勇者パーティーへ選出してくれた。「君は私の最高傑作だから」と微笑んで。
地上からでは到底手の届かない空から世界の果てまでを臨む女神ファトゥマティア。空が青いのはファトゥマティアの青い瞳が世界を見つめているからだとも言われる。
女神から直々に使命を賜って地上へ遣わされたマルアークは、初めて外の世界へ旅立つ私に言った。
――女神は速やかな魔王討伐を望んでいるよ。
その期待に応えるため、私は勇者パーティー結成後すぐ、背負っていた討魔星勇録の原本を意気揚々と開いた。
活性化した魔物を鎮めながら私たちが力をつけ、万全な状態で魔王と対峙するための最短ルートはすでに導き出されている。
私は三十年前にあった前回の魔王討伐の旅でスルーされた魔窟――一般的にはダンジョンと呼ばれる――が特に活性化していることをパーティーメンバーへ告げた。
ダンジョンは地の底に広がる魔界との戸口。セプテントリオだけでも五十ヵ所以上確認されている。元を辿れば、遥か昔に魔王もそこから這い出してきたとか。
魔界の住人である魔物が落とすアイテムはマニアの間で高額取引されることから、危険を冒す冒険者が後を絶たない。魔王復活で活性化したダンジョンは特に強い魔物が出現するので、放置するのは危険だ。行先はすぐに決定した。
だがそこで、おっとりとした笑顔の女性神官が口を開く。
「ダンジョンをぶっ潰しにいくのはいいんだけど、その前にウェントゥスの星降祭を見にいかない?」
それは天塔の主マルアーク、ひいては女神ファトゥマティアからの使命を背負う私にとって、とうてい看過できない無駄な寄り道に思えた。