【討魔星勇録:星爛の勇者編―初クエスト―】
星獣グリフォンとの戦いは熾烈を極め――るまで至らず、予想の斜め上をいく一方的な展開を見せた。
「獅子虎流、一の構え――轟雷一閃!」
ただの人間であるはずの筆頭剣士の剣から、電撃と火花が飛び散る。
鋼より硬いグリフォンの鉤爪を砕くほどの威力って、ただの人間が出していいのか? 剣先をガントレットで摩擦してどうのとか言っていたが、人間技じゃない。獅子虎流こわい。
「悪い子のみんな~、かっこいいお兄さんと遊ぶ準備はできてるかな~?」
ふざけた口調の王子は、魔界から援軍として召喚された魔物たちを王家伝来の操隷術で操り、同族同士で潰し合うトンデモ保育園を開業していた。
あの、操隷術は特に強い敵の一体を使役して暴れるのが基本って討魔星勇録には書いてあるんだが。あの、一度に一体以上の操隷術は過去に例がないんだが。あの……。
「グリフォンちゃん、死ぬ前のお祈りはもう済んだかしら?」
先端に無数のスパイクを生やしたごついメイスを振りかぶり、守銭奴神官がグリフォンの頭を容赦なくぶっ叩いた。
どうしよう、殺人鬼の目をしている。とても聖職者には見えない。
というかグリフォン、ファトゥマティアのお気に入りのペットなんだが!? 殺さず鎮めるべき存在なんだが!?
「ごめんな、すぐに終わるから」
沈痛な面持ちで駆け出した星爛の勇者が地を蹴り、高く飛ぶ。
仲間たちによって徹底的に打ちのめされて地に落ちたグリフォンの頭上を取り、悪しきものだけを切る儀礼剣を抜いた。
儀式用の短い剣身は注ぎ込まれた彼の光の力に呼応し、本人の身の丈以上もある巨大な刃に変わる。
「――破魔の残光」
それを難なく構え、グリフォン目がけて一閃、振り切った。
落下の重力と合わさった威力は想像を絶した。衝撃波で危うく吹き飛ばされそうになった小柄な私を、筆頭剣士が首根っこを掴んで引き留める。
勇者が着地したのと同時に、グリフォンから耳をつんざくような甲高い絶叫が放たれた。光の斬撃を受けた翼の根元から飛び散る、血飛沫のような禍々しい黒。赤く染まっていた瞳も、本来の黄金色を取り戻した。グリフォンを蝕んでいた魔王の邪悪な力が断ち切れたのだ。
かくして、動物愛護団体が大激怒しそうなほど超一方的なボコ殴りにより、南部に吹き荒れていた嵐は見事に鎮まった。
これで夜になれば、空を覆い尽くす流星群が見られるだろう。




