【討魔星勇録:星爛の勇者編―旅の仲間―】
星降祭は魔王討伐において一切意味を成さない。時間の無駄だ。これでは私の導き出した最短ルートでの魔王討伐計画に支障が出てしまう。なのに……。
「いいんじゃないかな、どうせ魔王は逃げないし。王国中のみんながお祭りを楽しんでるんだから、ちょっとくらい僕らが流れ星を見上げても罰は当たらないでしょ」
「さっすが! 王子様は話がわかるわねぇ」
厄介なことに、やる気ゼロ王子と守銭奴神官は初日から馬が合っていた。魔王討伐をちょっとした遠出くらいに考えてないか、こいつら。
能天気なコンビに腹が立ち、天唱術で全員縛り上げて無理やりダンジョンへ連行することも考えた。だがそのせいでパーティーに不和が生じてしまったら、この先の効率がますます落ちてしまう。
そこで。義に厚い王国軍の筆頭剣士はさすがに魔王討伐を優先してくれるのではないかと思い、私は「断れ」と強く念じながら暑苦しい大男を見上げた。
「星降祭の流星群を共に見た者たちは一生の縁で結ばれると言われております。我々勇者パーティーの結束を高めるには絶好の機会です!」
なんてことだ、能天気野郎がまた増えてしまった。
げんなりした私を横目に王子が腕を組んで眉をひそめる。
「えー、さすがに一生は嫌かなぁ」
「なっ、なぜですか、王子⁉」
「そういう重たいの、嫌いなんだよね。どうせ魔王を倒したら僕らの関係もそこまでなんだからさ」
「それに剣士くん、暑苦しいし」と、人を寄せつけない爽やかなロイヤルスマイルで言い放つ。筆頭剣士は厳つい顔をショックで歪めて、メソメソしはじめた。大男の情けない姿に、神官は腹を抱えてヒィヒィ大笑いしている。本当に慈悲深い聖職者なのだろうか、彼女は。
こうなると頼みの綱はパーティーの主軸である勇者のみ。彼は魔王討伐の役目に忠実だし、善性の塊のような青年だ。きっと、きっと断ってくれるはず――。
「二百年前に魔王を倒した天光の勇者も仲間と一緒に星降祭を見たって、討魔星勇録に書いてあったんだ。ほら、このページ! 『共に見上げたこの流星が我らの導き星となるだろう』ってセリフがめーっちゃ好きでさぁ~! だから俺も、みんなと流れ星が見たい!」
表紙がボロボロになるまで読み込まれた討魔星勇録の写本を開いて見せ、ファトゥマティアと同じ青い瞳がこれでもかと輝く。
そうだった。彼は優等生な勇者である前に、筋金入りの勇者愛好家である。
憂鬱で頭を悩ませる私をよそに、最初の目的地はウェントゥスに決定してしまった。
おかしい。旅を導くのが私の役割のはずなのに、誰もおとなしく導かれてくれない。人間の思考回路は理解しがたい。
(マルアーク様、この勇者パーティー、不安しかありません……)
慈母の微笑みで私を送り出した天塔の主をまぶたの裏に思い浮かべ、思わず涙ぐんだ。ホームシックになるにはまだ早すぎるだろうに。




