第2話「ちょい能力者!?」その4
そして慎太郎は、リサの秘密を知ることになる…
「あの…柚葉さん…いろいろご迷惑おかけしました」
会計を済ませて居酒屋を出ると、俺は改めて柚葉さんに頭を下げた。
「ううん、こちらこそ子供じみたいたずらしちゃってごめんなさい。あとご馳走様」
相変わらず表情と口調は淡々としていたが、社交辞令としてそう口にしてるだけでないのは、なんとなくわかった。もしかするとこれが彼女の普段の話し方なのかもしれない。
「いいえ、これからはちゃんと仕事に集中しますので」
俺も本心からの反省を伝えるべくそう宣言する。何事も平均以上を目指している俺としては、バイトの仕事とはいえ、こんなクレーム事案を引き起こしていた自分が不甲斐なかった。
「そうだね、それは大事。柚葉ちゃん、お疲れのところ呼び出しちゃってごめんね」
リサさんの言葉に、柚葉さんは「いいのいいの」とニッコリと微笑んだ。この人は普段から淡々とした人なんだろうと思いつつ、リサさんに対しては、自然と感情表現が豊かになるのが不思議だった。知り合ったのはほんの数時間前のはずなのに。
「話できてスッキリしたし、山紫君がちゃんとした人だってわかったから」
「そうなの。基本的にはいいやつだから。ね?」
2人から思いがけなくほめられて、俺は自分で顔が赤くなるのがわかった。
「いやそんな…」
「じゃあ、またね~」
手を振りながら去っていく柚葉さんを見送ると、俺はリサさんに気になっていた問いを向けた。
「あの…リサさんも何かああいう超能力が使えるんですか?」
ある意味、立ち入った話になるわけだからと、俺は遠慮がちに問いかけたのだが、一方のリサさんは、レジの使い方について説明でもするかのように、何でもないことのように話し出した。
「ああ、私の場合は、ちょっと特殊みたいでさ、特別何かができるわけじゃないんだ。ただ能力者を識別できるってだけ」
「識別?じゃあそれで柚葉さんのことを…」
「そうそう、そういうこと」
「どうやって識別するんですか?」
「能力者に触ると、それとわかる刺激があってさ」
「それとわかる刺激?」
「ん~、まあはっきり言っちゃうと、性的快感?」
「せ…性的…カイ…カン…!?」
「そう。ちょっとさわっただけでもゾクッとするような性的な快感が走るの。だから能力者とエッチすると、たまらなく気持ちいいわけ」
あまりにもストレートに言われて、俺はうろたえる。リサさんの口から、「快感が走るの」とか「たまらなく気持ちいい」というようなセリフが出てくるなんて…。
リサさんのそういう場面を想像しかけたところで、ハッと我に返る。
「てことは、もしかしてあのナンパ男って…」
「うん、能力者」
「その前の人もですか?」
「もちろん」
「じゃあさっき店で言ってた“私なりの基準”っていうのは…」
「そうだよ。能力者かどうか。それが私にとって重要なことだからね」
そういうことだったのか。俺はようやく一連の出来事に関して合点がいった。
と同時に、もう1つの不可解な出来事のことを思い出した。
「じゃあ、あれはどういうことだったんですか?俺の手を触ってきたの」
「ああ、あれね。いや、それがさ、慎太郎君の手に触れちゃった時、なんか妙な感じだったからさ、それを確かめるためだったの」
リサさんはこの件についてもあっさりと説明した。
それはつまり、超能力者を識別できるリサさんのセンサーが、俺に対して何かを感じ取ったということ?
「それって、俺も超能力者だってことですか?」
俺は期待半分不安半分でそう尋ねたが、リサさんは「違う違う」と即答した。
「だいたい柚葉ちゃんみたいな特殊な能力ないでしょ?」
「はい」
「もちろん能力者の中には、超能力を使える自覚がない人もいるんだけど、そういう人でも触った時の感覚は一緒なんだよね、私からすると。だから識別できるんだけど、慎太郎君はなんか、そういうのと違ってたから。何だろうと思ってさ。今までそういう人いなかったから、それでついああいう感じになってしまったと。まあそれだけの話」
そうだよね、と思いながら、ちょっと残念に感じている自分がいた。
超能力者というものが実在するのであれば、俺もそっち側の人間であってほしかった。
いや、超能力自体に特別な思いがあるわけじゃない。そもそも超能力なんて信じてなかったのだから。
ただ…そうだ。そうなのだ。
リサさんと同じグループに入りたかったなぁ…というような、そんな気持ち…
「でもさ…なんか今日はなりゆきで色々話しちゃったけど、結果的に慎太郎君に話せてよかったかも」
人通りもまばらになった夜の通りを並んで歩きながら、リサさんが不意にそう言った。
「え?」
「私さ…能力者じゃない人に、このこと話すの初めてだし、もちろん店のスタッフで知ってる人もいないんだけど、なんか自分のことを理解してくれている人ができてさ、ちょっと気が楽になった気がするよ」
お酒の影響もあって少し頬を赤らめながら、屈託のない笑みを浮かべて、俺に親し気なまなざしを向けてくるリサさん…
こ、この人…鋭いようでいて天然なとこあるのかな…
たぶん今のは計算とかじゃなくて、素直な気持ちの吐露なんだろうけど…
それを伝えられて、こっちの気持ちがくすぐられてることに気づいてない。
私、慎太郎くんとどうこうなるつもりはないからと、けんもほろろに言い切られて無理やり鎮火させたはずの火種が、また胸の奥でくすぶりだしていた。
(あーっ!全くもう!)
心の内で厄介な感情と格闘している俺を見て、リサさんが不思議そうな顔をする。
「ん?どしたの?」
(あーっ!全くもう!)
最初のエピソードはこれで完結です。
次回は木曜日に投稿する予定です。