第2話「ちょい能力者!?」その2
新たな疑問を突きつけた慎太郎に、リサが返した思いもよらない答えとは…?
もちろん俺の話はまだ終わっていない。
リサさんとどうにかなる線はついえたとしても、俺にはまだ明らかにすべきことがある。
異性として全く魅力を感じてもらえてないショックは小さくなかったが、俺は何とか心を落ち着け、次の用件を切り出した。
「じゃあ…あっちの方、教えてください」
「あっちの方?」
「俺のミスが連発してた件です。防犯ビデオ見て、何かわかったんですよね?わかったから、俺が悪いわけじゃないって言ってくれたんですよね。あれは一体何だったんですか?」
「妙に鋭いところがあるな、君は」リサさんが引きつったような笑みを浮かべながら言う。
「そういう性格なんです。原因がわからないと、また同じようなことが起きかねないのに、なんで大丈夫だって言いきれるんですか?」
「ん~そっか」とつぶやくと、リサさんは急に真顔になって言った。
「えーと慎太郎君、君は口は堅い人?誰にも言わないって約束できる?」
「え?」何やら話が急展開していきそうな問いかけに、俺は慎重に返事をする。
「あっはい。口は堅いと思いますし、約束は絶対守りますけど」
「わかった。じゃあもう全部話してあげるよ。さっきの話ともつながるし」
リサさんのその言葉に、俺は息をのむ。
全部話してくれる?
さっきの話ともつながる?
いったいどんな衝撃的な告白がなされるのだろうと、俺は身構えた。
リサさんは、俺の目を覗き込むようにして言った。
「慎太郎君さ、君は超能力ってあると思う?」
その言葉を聞いた瞬間、俺の思考はフリーズした。
一拍おいて、頭が状況を理解して、イラっときた。
「はい?超能力?何なんですか急に。そんな非科学的なものあるわけないじゃないですか」
俺は猛然と抗議をするが、リサさんは表情ひとつ変えずに話を続けた。
「いや…君が知らないだけで、超能力者は実在するんだよ。君のあの不可思議なミス連発は、超能力者の仕業だったんだ」
「あのリサさん、からかうのはやめてください」
俺が改めて言うと、リサさんも今度は「まあ、そう言うよね」と肩をすくめた。
「じゃあもう、実際見てもらうしかないね。ちょっと待って。頼んで来てもらうから」
リサさんはそう言いながら、テーブルに置いてあったスマホを手に取り操作しはじめる。
「来てもらうって、誰にですか?」
「まあ待ちなさい。あ、もしもしリサだけど。ちょっと悪いんだけど、いまから××に来てもらうことってできる?ごめんね急に。うん…うん…そうなの…じゃあよろしくね」
スマホを耳から離したリサさんは「10分ぐらいで来れるって」と俺に告げる。
「誰が来るんですか?」
俺がもう一度尋ねると、全く予想外の答えが返ってきた。
「真犯人」
「し…真犯人!?」
泡を食ってる俺をよそに、リサさんは推理ドラマで謎を解き明かす探偵のような、もったいぶった口調で話し出す。
「彼女が来るまでの時間に、結論から言っておこう」
「彼女って女の人が来るんですか?」
「うん、まあね」
話の腰を折られるのを嫌うようにリサさんがそっけなく言う。いろいろと状況がつかめなかったが、俺はとりあえずリサさんの話に合わせることにした。
「今回の君の不可解な連続値引き忘れ事件…最初の1件は、たぶん慎太郎君が実際ミスしてる可能性が高い。最初の値引き忘れがいつ起きたかは覚えてる?」
「えっと、一週間前ですね」
「そう、一週間前。その日は、今日と同じように私が君の店にヘルプに入っていたよね?」
「そうですね」
「そしてその日は、君がさっき話してたチャラい男に、私がナンパされた日だよね」
「そうですね」
「最初の値引き忘れはさ、私がまさにナンパされている時に、慎太郎君が接客したお客さんだったんだ」
「えっ、そうだったんですか?」
思いがけない事実を知らされ、俺の声が上擦った。
「うんそう。さっきの話からしても、君は私がナンパされてる状況に気づいて、たぶん接客しながら、私のいる方に意識を向けていた結果、値引きシールを見落としたんだろう」
「た…確かにあの時は…リサさんがどう対応するのか気になってて…見落とした可能性はあります」
「で、その時の被害者が、今回の事件の真犯人だったってわけ」
「ええっ…」と反射的に口から出たものの、何がどうなるとそういう結論になるのか、平均以上を自負する俺の頭でもその答えが見つからない。
「いや何のことやらさっぱりです」
「値引きミスが起きた時間の防犯ビデオを見返したところ、その全てに、1件目のお客さんが映っていたんだ。ちょうど値引きミスをしたお客さんの1つか2つ後ろに並んでいたり、カウンター脇の棚を見たりしてる形でね」
リサさんは自分の推理の正しさを補強するかのようにそう説明を続けたが、仮にそういう事実があったとして、俺には結論に至る筋道がそもそも論理的に成立してないように思えた。俺は根本的な疑問をリサさんに投げかけた。
「その人が、いったいどうやって、俺の値引き忘れを起こさせたっ言うんですか?」
今日一番の目力で俺を見据えたリサさんの口から発せられたのはこの言葉だった。
「値引きシールを、一定時間消すことによって」
時間が一瞬止まる。
この人は、当たり前のような顔をして何を言ってるのだろう?それとも疑問を感じている俺の方がおかしいのか?
そう錯覚させられるほど、自信と説得力に満ちた堂々たる物言いだった。あくまで「物言いが」、である。俺の口からは、100人いれば、100人ともが抱くであろう疑問が発せられた。
「け…消す?消すって…?」
リサさんは、脇に置いてあった小さなバッグの中をごそごそあさると、にやりと笑みを浮かべながら、取り出した物を俺に良く見えるように掲げた。うちのコンビニで売ってる三角のおにぎりだ。
「たとえばここに、私が今日もらってきた廃棄商品のおにぎりがあるけど、ここに値引きシールが貼られてるよね」
「はい…」
「よく見ててよ」
リサさんはそう言うと、「3…2…1…」とカウントダウンを始める。
そして、「はい!」と声を発した次の瞬間…
スッと消えた。
「30円引き」の値引きシールが、あとかたもなく。
「えっ!?えっ!?何ですかこれ?いったい何をしたんですか?」
「だから超能力だって」
リサさんはそう答えると、「彼女の」と言いながら視線を俺から右にずらした。
俺はその視線を追いかけるように、後ろを振り返る。
俺の座席のすぐ斜め後ろに、気配を殺した灰色の人影が立っていた。
死神のように。
次回は土曜日に投稿する予定です。