第1話「その女、楠神リサ」その3
Kindleインディーズマンガで連載中の作品のノベライズ版です。
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だが、そのウキウキするような思いはまったく長続きしなかった。
その日の帰りのことだ。
家に向かう途中…ホテル街を抜けるところで俺は思いがけないものを目撃した。
リサさんが若い男とラブホから出てくるところだ。
リサさんは男に親しげな笑みを浮かべながら何やら話している。その手は男の腕に主体的に絡んでいた。
仲良さげなその様子を見て、なんだ彼氏とデートの予定があったのかと合点がいった。だからシフトの延長を渋ってたわけだ。
そんなこととはつゆ知らず、リサさんとどうにかなる妄想を膨らませていた自分の都合のいい勘違いぶりがいやになる。
そりゃ、あれだけかわいいいんだから彼氏もいるよな。
ちょっとでも期待した自分がバカみたいに思えた。
そして数日後、俺はまたバイト帰りに思いがけない光景を目撃する。リサさんが男とまたホテルから出てくるところに出くわしたのだ。
相手はこの前とは別の男で見覚えがあった。
なんとその男は、その日店でリサさんをナンパしていたチャラい男だった。
その時は適当にあしらっているように見えたが、男が渡してきた連絡先を使って、リサさんが連絡を取ったということだ。その事実に俺は大きな衝撃を受けた。
リサさん…あんなチャラそうな男と簡単に浮気してしまう人だったのか。俺はリサさんに少なからず失望した。
ただその認識も、すぐに覆されることになる。
リサさんがまたうちの店にヘルプに来ていた日のことだ。
俺がバックルームで、補充の必要なタバコをロッカーから集めていると、事務所の方から休憩中の女子大生バイトの声が聞こえてきた。
「リサさんて彼氏いますよね?」
俺は思わず聞き耳を立てた。
「え~、今いないよ」
リサさんは笑いながらそう答えると、「てか作らないようにしてる」と続けた。
「え~っ、なんでですか?」
女の子は驚いた様子で聞き返す。俺も驚いたが、もちろんその子とは違う意味でだ。
「だっていろいろ束縛されたりして面倒じゃん。私いまあんまり時間的余裕ないから、これ以上忙しくしたくないんだよね」
リサさんがそう話すのを聞いて、俺はますますリサさんのことがわからなくなった。
最初に目撃したあの男も彼氏じゃなかったのか?
もちろん表向き彼氏がいないフリをしてる可能性もあるけど…
あの男が彼氏でないとすれば何だ?セフレ?あるいは同じようにナンパしてきた男か?
もしかしてリサさんはビッチな人なのだろうか?
それともお金に困って体を売ってたりするのか?
何か過去にやらかして、ブラックな条件でコンビニで働かざるを得ない事情があるという話だったし…
俺は気持ちがモヤモヤしてどうしようもなくなった。それからずっとグルグルと同じことばかり考えている。
誰とでも簡単に寝てしまう尻軽なビッチなのか?
それとも何かやむにやまれぬ事情があってそうしてるのか?
もちろん答えなんか出ない。でも答えが出ないことには、俺のリサさんに対する気持ちの置きどころが定まらない。俺は明らかにリサさんという存在に振り回されていた。
こういう時はうだうだ考えていても仕方ない。俺はリサさんに直接確かめようと決意した。
次回は木曜日に投稿する予定です。