第4話「チェリボ不知火明人」その6
リサちゃんに促され、空き教室で2人きりになった明人。
ますます親密な雰囲気になった2人は…
空き教室の最前列の長机の上にリサちゃんと並んで腰を掛ける。手はずっとつないだままだ。リサちゃんが離そうとしない限りつないでおこうと思ったら、ずっとつないでてくれている。そのおかげで、初デートの不安と緊張もだいぶやわらいでいた。
とはいえ、2人きりのこの場所でどんなことが起きるのかとドキドキしているのはもちろんだ。
「明人君…私のことどう思ってる?」
もう体が触れ合いそうなほどの近い距離で座るリサちゃんが、俺に顔を向けてそう尋ねてくる。
「どうって…めちゃくちゃかわいいなって」
俺はもう何度となく感じているその思いを率直に口にした。
(だからもう大好き)
心の中でそう続けるが、さすがにそこまで口にする勇気はない。
「ホント!?超うれしい♥」
ぱあっと笑顔を輝かせながらリサちゃんが言う。その笑顔に励まされて、俺は普段なら怖くて聞けない問いをおそるおそる口に出す。
「リ…リサちゃんは俺のことどう思ってるの?」
「そんなの…好きに決まってるじゃん」
リサちゃんは即答した。瞬間、俺の胸は高鳴る。好き…こんなかわいい子が俺のことが好きだなんて…
「ずっと会いたくて探してたから、今こうして一緒にいられるのスゴイ幸せ」
そう話すリサちゃんのまなざしが何か熱を帯びたように見えて、ますますドキドキするが、同時に、俺に染み付いた「非モテ」の自己イメージが、安易に喜びに浸ることを妨げようとする。
「でも俺…今まで全然モテなかったから、今の状況がなんか信じられなくて…」
俺は自分のその困惑を正直に打ち明けた。
「そうなんだ…」
リサちゃんは少し考えるように前を向いたのち、ゆっくりと落ち着いたトーンで話し始めた。
「でも私、最初にコンビニで会った時、『あ、この人なんか違う』って思ったの。だからどうしても明人君ともう一度会ってみたくて。それで、この前会った時確信したの。私とこの人はきっと結ばれる運命にあるって」
「結ばれる…運命!?」
俺はリサちゃんの口から飛び出したその言葉に反応しないではいられなかった。「結ばれる運命」って、一体どういう意味なんだろう?
リサちゃんは熱いまなざしで俺を見つめると、つないでいる手にギュッと力を込めながら話を続ける。
「こうやってね、手をつないでるとわかるの。明人君は特別だって。明人君は感じない?」
他の女の子と手をつないだことないからどうにも比較のしようがないのだが、俺にはかけがえのない幸せな感触であるのは確かなので、それがそうなのかもしれないという気がしてくる。
「そう言われると、なんか特別な感じがするかも」
「ねぇ、明人君…」
そう言いながら頬を赤くしたリサちゃんの顔がゆっくりと近づいてくる。
「えっ?」
「キスしたい」
リサちゃんが口にした言葉に、俺は耳を疑った。そして激しく動揺する。
(わーキスだって。どうしようどうしよう)
だが俺の中でふつふつと湧き上がる欲望がそのパニック状態を瞬時に制圧した。
(いや、絶好のチャンスじゃないか。しよう。キスしよう)
俺は初めてのキスに向けて、唇と唇が正しく重なり合うような軌道を確保しながら顔を近づけていく。
そしてまさに唇同士が触れ合おうというその瞬間、どこからか女の人の大きな声が上がった。
「ちょっと待ってェ!」
反射的にびくっとのけぞり、俺は声がした方に視線を向けた。
教室の後方、窓際のカーテンの陰から、白いTシャツにジーンズ姿の黒髪の女性が姿を現していた。それは俺がよく知っている人だった。
「ま…真白さん!?」
真白翔子さん。俺の憧れの先輩だ。俺はリサちゃんとの待ち合わせの時に、真白さんのLINEに返信したことを思い出しつつも、その真白さんがここにいる状況が理解できなかった。
「なんでそんなとこに」
俺が言うと、真白さんはバツの悪そうな表情を浮かべて言った。
「あっ…いや、なんていうかその…」
そのやり取りを見ていたリサちゃんが俺に聞いてくる。
「えっ誰?彼女さん?じゃ…ないよね?」
「違うよ違うよ。同じ学部の先輩で…」
「そうなの?」
リサちゃんは俺の説明の途中でそう確認すると、真白さんに向かって言った。
「えっと、おねーさん。明人君のこと好きなの?」
リサちゃんの直球の質問に、真白さんはまた口を濁す。
「えっ…いや、そんなんじゃ…」
「じゃあ、なんでそんなところに隠れて、私たちのこと見てたの?」
「いや、それはたまたま…」
矢継ぎ早に問いを向けてくるリサちゃんに言葉を返しつつも、真白さんが俺のそばまでやってきて言った。
「ていうか、不知火君、ちょっといい?」
「真白さん!?」
俺は何が何やらわからなかったが、真白さんが促すままに立ち上がった。それを見たリサちゃんが、「ちょっと待ってよ!」と真白さんの肘をつかむ。
「えっ!」
その瞬間、リサちゃんが声を上げた。
数瞬遅れて、何かに反応した真白さんがリサちゃんの方に顔を向けた。
リサちゃんは一瞬驚いた顔をしたのち、ハッとした表情を見せる。
そしてその顔に意味深な笑顔が広がった。
「あ~そっか。なるほどなるほど」
リサちゃんはそう口にすると、真白さんに向かって驚くべき言葉を発した。
「あなた、人の心を読める能力者でしょ」
一瞬、時間が止まる。
「な…なんでそれを…」
「リサちゃん?」
真白さんと俺が同時に反応した。
それを見たリサちゃんは今度は俺に向かって言う。
「てか明人君も、この人が能力者って知ってんだ」
一体どういうことなんだろう。俺の思考は全く追い付いていない。
リサちゃんは「ふーん…」とつぶやくと、再び真白さんに向かって言った。
「じゃああなた、明人君が能力者だってことも知ってるわけね」
真白さんは一瞬ハッとした表情を見せたのち、何かを察したような表情になった。
「もしかしてあなた…」
「うん、そう。私も能力者よ。私の場合、体に触れると、その人が能力者かどうかわかるの」
な、なんだって…!?
リサちゃんも、の、能力者…?
「ちょっとどういう事情なのか、教えてもらえる?」
そう口にしたリサちゃんの表情は、どこか楽しげに見えた。
次回の投稿は未定です。
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