第3話「運命的な出会い?」その3
自分がリサに与えた衝撃のことなどつゆ知らず、不知火明人はかわいいコンビニ店員さんのことを思い出して…
「ハァ…ハァ…ハァ…ううっ!」
強烈な快感が体を走り抜け、明人は一気に脱力した。
ふーっ…ふーっ…ふーっ…
荒い息を整え、ようやく落ち着いてきたところで、リモコンで再生中の動画を停止する。
汗がじんわり滲んだ額をぬぐい、そばに置いてあったスポーツドリンクをぐびぐび飲むと、まだぼんやりしている頭の中に、夕方のコンビニでの出来事がフラッシュバックしてきた。
(はぁ…あの店員さん、かわいかったな…)
金髪のショートボブの髪と印象的な青い瞳。そしてあの溌剌とした笑顔がよみがえる。
(お釣りの時に触れた手の感触、やわらかかった…)
(あの時、なんかびっくりしたみたいに俺のこと見てきたけど…あれ、何だったんだろ?)
男女共学の大学に通いながら、日頃、同年代の女子と話をする機会をほとんど持てないでいる明人にとって、たとえ客と店員という関係での関わりであっても、それは特別な出来事に違いなかった。
(誰か知ってる人に似てたとか?でも最初は普通な感じだったしな…)
そもそも普段は気後れして、女の子の顔を正面からじっくり見ることなどできない(かわいい子ならなおさら)のだが、びっくりしたような顔をしてたから、思わず明人もじっと見返してしまったこともあり、その時のイメージは鮮明に目に焼き付いている。
整った顔立ちの中で、驚いたように見開かれた青い目。つるんとした柔らかそうな頬はちょっと赤らんでいるように見えた。どことなくモジモジしているような様子もあったし、他の店員さんに呼ばれる直前、明人に向かって何か言いかけていた。
(もしかして俺みたいなのがタイプとか?)
そんな考えが浮かんだ途端、それを即座に否定する声が頭の中に響く。
(いや、でも、これまでの経験上、そんなことはありえないだろ)
とはいえ、明人にとってはめったにない出来事なだけに、何か思いがけない幸運が訪れているのではないかという希望的観測をなかなか捨てきれない。
(電気料金払い忘れてたの思い出して、たまたま入ったコンビニだったけど、また行ってみようかな…)
(そうだ、別にいつも使ってる店じゃないんだし、ダメもとで声かけてみようかな?ダメだったら、もう二度と行かなきゃいいんだし…)
それは素晴らしい考えに思えた。
別に失敗したって、どうってことはない。何も困った状況にはならない。
もちろん断られたら、その場は気まずい思いをするかもしれないが、そんなことを気にして、千載一遇の大チャンスかもしれない状況をみすみす逃してしまうことの方が馬鹿げている。
明人の中で、GO!GO!と威勢のいい声が響き渡る。これはもう行くっきゃない。
が…
うまくいく予感が全くと言っていいほどない。
状況的に失敗を恐れる必要がないとしても、うまくいく可能性がゼロなら、ただその場で恥ずかしい思いをするだけになるのだ、
(てか、あんなかわいいんだから、絶対彼氏いるだろ。ちょっと遊んでそうな感じだし)
(そうだよ、かっこいい彼氏がいるに決まってる。あぶね~勘違いして、俺ごときがナンパするところだった)
すると、頭の中で、いつものように妄想が自動的にスタートした。
「それじゃ、お先失礼しま~す」
あのかわいい店員さん(ユキちゃん=仮称)がバイト先のコンビニの事務所から出てきて、軽い足取りで、雑誌コーナーで立ち読みしている男の元に近づいていく。
「ケン君、ごめんね。お待たせ~」
彼女の声が弾んでて、ちょっと甘えたニュアンスが混じる。
そこに立ってるのは、ケンって名前が似合いそうな、爽やかで整った顔のイケメンだ。
「別にそんな待ってないよ。お疲れ、ユキ」
ケンはポーカーフェイスでそう言うと、手にしていた雑誌を棚に戻す。
「じゃあ、行こうか」
「うん♥」
ユキちゃんは小さく頷いて、ケンの腕に手を絡ませる。なんかも~、絵になるな~この2人。
オシャレなレストランで楽しそうにおしゃべりしながら食事をする2人。
食事を終え外に出ると、ケンは時計を見てユキちゃんを気遣う。
「そろそろ帰らないと。明日早いんだろ?」
「早いけど…」
ユキちゃんはそう答えながらも、「まだ一緒にいたい」とケンの腕をギュッとつかむ。
「俺はいいけど、大丈夫なの?」
「大丈夫。ていうか、明日頑張る元気ちょうだい」
ユキちゃんは、ケンを潤んだ瞳で見つめながら甘えるように言うんだ。
そしてラブホテルの部屋に入った2人は、薄暗い照明の中で…
イチャイチャ、チュッチュしちゃうんだ…
(あ~いいなぁ…俺もユキちゃんとそんなラブラブなデートしたいよぉ…)
次の瞬間、ハッとする。
(でも待てよ。ユキちゃんみたいなタイプってさ、なんかもう同棲とかしてたりするんじゃないか?)
そんな考えが浮かんでしまうと、次の新たな妄想がスタートする。
(たぶん、彼氏は…そう、もっとワイルドなタイプでさ…金髪でヒゲ面、ガテン系でなんかちょっとごつい感じの、いかにもオラオラな感じの彼氏でさ…)
「おーい、帰ったぞ」
仕事から帰宅したオラオラ彼氏が部屋の中に野太い声をかけると、裸にエプロン姿のユキちゃんが玄関に現れる。
「どう? 言われた通り裸エプロンしてみたよ」
ユキちゃんは、ちょっと照れながらポーズをとってみせるが、オラオラ彼氏はニコリともせず言う。
「おう、後ろ向け」
ユキちゃんは、いたずらっぽく笑いながら、くるんと回転してみせる。
「ど~お? かわいいでしょ?」
「よし、ケツ向けろ」
「えっ、ここでするの?」
「イヤなのか?」
「そうじゃないけど…」
「あん!」
「なんだよ、もうびちょびちょに濡れてんじゃねえか」
「だってぇ」
そして玄関で始まっちゃうんだ。獣のように絡み合う激しいアレが…
(エロいなあ…ユキちゃん、エロすぎるよ…もう一晩中、やりまくってるのかなぁ…)
次の瞬間、再びハッとする。
(でも、もしかすると…ああ見えて実は未経験って可能性も…?)
(ああ! それはヤバい! ヤバい! ヤバい!)
明人の興奮も妄想もとどまることを知らなかった。
次回は土曜日に投稿する予定です。