第1話「その女、楠神リサ」その1
Kindleインディーズマンガで連載中の作品のノベライズ版です。
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俺は山紫慎太郎。大学2年。
とびぬけた才能に恵まれているわけではないが、何事も平均以上にこなせる器用な男だと自負している。たぶんこの先も、平均以上の会社に入り、平均以上の幸せな家庭を築いて、平均以上の幸せな人生を送ることになるだろう。
平均以上を狙っていけば、負け組になることはない。それが俺の人生戦略だ。だからそのための努力は怠らない。
自分を少しずつでもスキルアップさせていき、気になることがあれば納得がいくまで追求する。そうすればおのずと平均以上の人間になれ、そこそこリア充な人生を送れるはずだ。
そして俺は今、コンビニでのバイトを始めた。生活費を稼ぐ目的もなくはないが、幅広い経験をしておく方が、やがて来る就職活動でもプラスに働くだろう。
これまで接客のバイトはしたことがなかったから、新たなスキルアップのチャレンジだ。もちろん平均以上にやりこなせる自信はある。
そんな俺の目下の関心事は…
楠神リサさんだ。
リサさんは、研修の時にマンツーマンで、レジの使い方やら、細かい仕事の仕方などを教えてくれた先輩アルバイトだ。
年は俺の1つ上。気さくな人柄で、説明もわかりやすく、テキパキと仕事を進めていく様を見て、この人はかなりできる人だなと思った。
髪は金髪のミディアムボブ。澄んだ青い瞳(カラコン?)が印象的だ。スレンダーな体型に見えるが、制服越しでも胸はそこそこありそうなのがわかる。
そして何よりとてもかわいい。整った顔立ち。感じのいい笑顔。ニコッと微笑まれるとなんかすごく幸せな気分になる。俺はもちろん、そんなリサさんと一緒に働けなんてラッキーだなと思ったよ。
でも残念ながらその当ては外れた。
5回の研修が終了し、今度いつリサさんと会えるだろうかと店のシフト表を見ても彼女の名前が見当たらない。ベテランの主婦バイトさんに聞いてみると思いがけない返事が返ってきた。
「ああリサちゃんね。あの子本来は別の店のバイトなのよ」
「別の店?」
「そうそう。ここのオーナーお店3つ持っててさ、リサちゃんは三丁目店所属なんだけど、人足りない時とか、時々ヘルプに来てくれるの」
「ああ、そうなんですか」
そう返事をしながら、胸の中で膨らんでいた期待感が急速にしぼんでいくのを感じた。
「じゃあ僕らも別の店にヘルプに行ったりすることもあるんですか?」
おばちゃんは手のひらを小刻みに振りながら言った。
「ないない。リサちゃんだけそうなんだよね。てかあの子、オーナーの知り合いみたいなんだけどさ」
おばちゃんはそこで声を落とし、周囲を気にしながら身を乗り出してきた。
「詳しい事情はよく知らないけど、前に何かやらかしちゃったらしくて、かなりブラックな条件で働かされてるみたいなんだよね」
「ブラック?」
「ただのバイトなのに長時間働かされたりさ、他の店のヘルプに行かされたり、けっこう便利に使われちゃってるって話だよ。まあ店長とか副店長はそれにもましてブラックな労働環境なんだけどさ」
おばちゃんはそう言うと、興味本位でうわさ話に興じたことに気がとがめたのか、とりなすように付け加えた。
「でもあの子自身は気さくで接しやすいし、自分から仕事をテキパキこなしてくれるから、私たちは来てくれると超助かるんだよね」
「そうなんですね…」
俺はますますリサさんのことが気になりだした。
リサさんがそんなブラックな働かされ方をしている事情って何だろう?
「やらかした」って、いったい何を?
次回の投稿は、土曜日夜を予定しています。お楽しみに!
また「ちょい能力探偵楠神リサのセイ活日誌」関連の活動については、活動報告でも投稿していく予定なので、ぜひフォローお願いします!