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転生したら声優になりました〜なぜ、わたしは転生前の世界の自分を演じることになったのか〜 其ノ二

作者:

 『勇者転生〜鯖を食べて当たって死んだら異世界でした〜』  

 『キサラ・ギ・シオン』役 

 選考会


 薄暗い雑居ビルの中、そこに選考会の文字が文字盤に書かれていた。

 

「ここだ…」


 ―ゴクッ


 …何故、自分の役を勝ち取るだけなのにこんなに緊張してるのわたし…

 いつも通り、あの世界のわたしでいればいいのよっ!

 切替えなさいっ!

 『如月 詩音』…


 いえ、『キサラ・ギ・シオン』!!


「いくわよ…」


 ―ガチャ


 音響スタジオの扉を開けると、緊張感が漂う空間が広がっていた。

 マイクの前に立つオーディション参加者たちが、緊張の面持ちで声を出す準備をしている。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします。アニマル事務所からきた『如月 詩音』です。まだまだ、駆け出しなのでお手柔らかにおねがいしま~す。エヘ」


 …ああ、きもちわるい。

 なんで、こんなぶりっ子しなきゃいけないの…


 …けど、これも仕事のうち…がまんがまん…


「お、詩音ちゃん、おひさしぶり」


「あ、江藤さんだ。おひさしぶりです、ふふ」


 江藤さんは特殊音響のエンジニアさんだ。

 前に一度、『白い雲の向こうに』のアニメで一緒になって、すこし仲良くなった人なのだけれども…


「詩音ちゃん、相変わらず、今日もかわいいねぇ。おじさん、食事奢りたくなっちゃうよ」


「ええ、そんなことないですよぉ。それに、奢ってもらうのは悪いですよぉ」


 食事だけで終わるわけがないのに、なんで行かなければならないのよ…

 ほんと、このエロハゲじじいは…毎回毎回…


「そう? でも、いつか一緒に食事いこうねっ」


「あ、はい。予定が空いてればいいですよ」


 と、いつもわたしを舐めるように眺め、食事に誘ってくる人だ…


「お、今日はシオンちゃん…なんか名前被ってて、分かりにくいな…キサラちゃんと呼ぼうか」


「そ、そうですね…はは」


 本人、ここにいますけどねっ!


「詩音ちゃんもキサラちゃんの役を狙ってるんだ」


「ですです。受かるといいなぁ。ふふ」


「ん~~~どうだろ。詩音ちゃんはキサラちゃんとなんか、すこ~し、イメージ違うんだよねぇ~」


「………」

 

 …っけんなっ!!

 本人目の前にして言うことかっ! それはっ!

 

 本人! わたし、本人だからっ!

 何が、違うんだよっ! 

 このえろじじぃ!

 

「キサラちゃんってさぁ、こう…ほんとに騎士って感じのキリッてしてる感じあるじゃない? でも、詩音ちゃんは…なんていうか…「きゃっ、こわ~い」って感じなんだよね。それはそれで可愛いんだけどぉ。そこが、なんかイメージが違うというか、なんというか…」


「………」


 …っだと! …ってめぇ!

 ぶち転がすぞっ!


 おめぇらに頭上がんないから、そうやってんだろうがっ!!

 そこんとこ、分かってるぅ!?

 わたしだって、やりたくてやってるワケじゃ、ねぇ~んだよっ!

 頭ピンク色にしてないで、そういうことに気づけよっ! ハゲッ!


 ったく…


 わたしだって、そんな制約がなければ、キリッとした騎士やってたつ~のっ!


 はぁ~これだから素人は…はぁ。


「え~そうですか~? わたしにピッタリだと思うんですけどぉ」


「ん~、まぁ、頑張ってよ。応援してるよ。詩音ちゃん。じゃあ、オレもどるね」


「は~い。江藤さんも頑張ってください」


 ―ガチャ、バタンッ


 …はぁぁぁ

 

 やっと、居なくなった…

 しかし…なんで、選考前にこんな嫌な気分にならなきゃいけないのっ!


 それもこれも、全部あのエロハゲッのせいだっ!

 わたしのリラックスする時間と気分を返せっ!


「………」


 ダメダメ…気持ちを入れ替えよう!


 台本は…っと


 ―ぱらっ


 台本を小さく声出し練習しながら、周りを見渡す。


 …案外、おおいわね。


 三十人くらいいるのかな?


 中には…


 あ…あれは、キララ事務所の「つぐみさんだ」


 あの人も来てるのかぁ…

 

 たしかに…


「悪徳令嬢~異世界はトイレと共に~」でのウォレット家の女性騎士の役はぴったりだったからなぁ~


 …負けていられないっ!


 …でも、中堅くらいのアニメでヒロインでもないのに、ここまで人が集まるのって…


「ふふ…」

 

 なんか、自分が人気あると思うと顔がにやけてくるよ。

 わたしって、結構人気あったんだね。

 なんか、嬉しいな。


 って…そんなこと言ってる場合じゃないっ!

 勝ち取らないとっ!

 なんとしてもっ!


 もっと、人数少なければなぁ…


「………」


 それは、それで…なんか、切ないし…


 あああ!


 なんか、もやもやするぅぅぅ!!


「こ、こんにちわ…詩音さん…」


「あ、若宮さん。こんにちは」


「きょ、今日はお手柔らかにお願いします…」


「うん、どちらが選ばれても恨みっこなしだよ」


「は、はいっ!」


 って、言ってるけど…

 悪いけど、譲るつもりは一切ないっ!

 じゃないと、わたしは…


 この、おとなしめの子は『若宮 柚葉』ちゃん。


 まだ、一七歳の生高校生でわたしの後輩みたいな子だ。

 十七歳にしては、ちっこくて愛らしい顔をしている。

 それが、受けて顔出しも事務所の押しに負けてOKしちゃった、かわいそうな子…


 だけど、その愛くるしさと、いじらしいまでの努力家なところが受けて、高校生4人ユニットの『SEY YOU U18』のメンバーに選ばれて活躍が目覚しい子だ。


 わたしも、何度か「柚葉」ちゃんのラジオに呼ばれたこともあった。

 その時に、結構受けが良くて、ちょこちょこ、お呼ばれすることがある。


 そんな、いい子なんだけれど…今日だけは負けてはいられないっ!

 仕事かどうかじゃなくて!

 わたしのアイデンティティがかかってるのよっ!


 …あ、でも「柚葉」ちゃんがいるってことは…


「柚葉っ! どこにいるの?」


「あ、ここです。先生…」


「そこにいたのね、柚葉。どう、今日の役は演じきれそうかしら?」


「はい、がんばります」


 その言葉を聞いて、先生と呼ばれた井草は目を細める。


「…がんばるなんてのは当たり前よ。あなたにはその先を見据えてもらわないと…ね」


「は、はい…申し訳ありません…」


「………」


 …相変わらずだ、この人は。

 そうやって、本人以上の実力を求める…


 昔は、名前が通っていたベテランか何か知らないけど、自分の価値観を押し付けないでほしい。


 そうそう、この厳しいかんじの先生と呼ばれている人は『宵闇 井草』、その昔、アニメの黎明期の頃の声優さんで、その道で知らない人はいないほどの先駆者だ。


 代々々アニメ学校の声優科の指導者として生徒を育てている。


 だけど…その頃の価値観を押し付け、厳しく指導されて辞めた人もいると聞くほどに厳しい先生だ。


 斯く言うわたしも元教え子だ…

 顔を見るたびに思い出す…

 あの、血を吐くようなレッスンの数々…

 どれだけ、前の世界のスキルを放ってやろうかと思ったことか…


 だけど…その時のわたしがあるから、今のわたしがいると言っても過言ではないのも事実…

 

 複雑な気分になる…


「もう時間もないので、それくらいで終わる方がよろしいですよ、井草先生」


「なにっ。わたしの指導に…って、詩音さん?」


「はい、ご無沙汰しております。井草先生」


 わたしがそう言うと、腕を組み背筋を伸ばしピンッと空気を貼らせ話し出す。


「あら、わたしの指導についてこられなかった、あなたに何かを言う資格などないわね」


 …あいかわらず、腹立たしい言い方っ!

 これだから、人がいなくなるのよっ!

 そう思っていると、さらに話し出す。


「あなたの演技は今も演じているの? それとも生きているのかしら?」


「…どう違うんですか?」


 わたしが聞くと「ふふ~ん」と笑う感じでしゃべりだす。


「まぁ、あなたには分からないでしょうね。逃げ出した、あなたには…ね」


「くっ…」


「…それに、今回のあなたにこの役は務まらないわ」


「…っ!!」


 はぁぁぁぁぁぁ!?


 いやいやいやっ! わたし、本人だって~のっ!

 それで、務まらないってなにがだよっ!


「あなたには、欠けているものがあるのよ。決定的にね」


 うぉおぉぃ!!!

 本人を目の前にして、何が欠けてるっつ~のっ!!

 

 聞いてみたいわ! 

 その欠けている何かをっ!!

 

 わたしはそう言い切った先生に眼を細め、対峙した。


「せ、先生、やめてくださいっ! もう始まりますので、これくらいで…」


 見かねた柚葉がわたしと先生の間に入ってくれて、取り持ってくれた。


 そして、二人同時に


「「わかったわ」」と…


 そして、井草先生はドアを開け退室したのだった。

 わたしを一瞥した後に…


「ご、ごめんね。詩音さん…」


「柚葉が謝ることじゃないわよ。井草先生が悪いんだから…」


「…でも、先生は私たちのことを思って言ってくれてるから、そう邪険にしないで…」


「…うん、わかってる」


 …ほんとは分かっているんだ。

 あの先生の言いたいことも…

 けど、あの言いようだから、どうしもわたしは…


 いや! 気持ちを切り替えて『如月 詩音』!


 今日は負けられない! なにがなんでもっ!

 井草先生のことは気になるけど、後回しだ!

 集中しないとっ!


「はい、台本を置いて、こっちに注目…」


 そうこうしていると、監督のスピーチが始まり選考会が始まっていくのだった。

  一応続き書いてみました。

  誤字脱字報告、感想なども頂ければ幸いです。

  面白ければブクマ、★をお願いします。

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