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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

22世紀

 青山かえでは言った。


「神様、私は人を殺しました。まぎれもなく悪人です。どうか裁きを」

 

 何を言っているんだろう、こいつは、と思った。





 22世紀にはいってからというものの、どうもみんなおかしい。権力にたてついたり、差別を助長したり、ご飯を粗末にしたりしている。ほんの2,3か月前までは普通だった気がするのだけど。


 例えば、授業のチャイムが鳴る。普通だったら先生が立っていて、生徒は席に座っていて、号令の後に授業が始まる、そんな感じじゃないだろうか。それなのに、最近は先生が来ないことがある。そこそこある。生徒も半分くらいいなかったりする。逆に、前よりもずっと熱心に授業をする先生もいる。力が入りすぎて、何回も噛んでしまったり、なんなら途中で泣き出してしまったりする人までいる。尋常じゃないなって思う。


 そんな中、青山かえでは普通だった。冷めている、という感じの似合う彼女は、いつも通り学校に来て、授業が始まる時間には席に座り、友達(主に私)と仲良くした。以前から彼女とそこそこ仲の良かった私だが、環境の変化によって、学校においてはほとんどずっと一緒にいるくらいになった。人間関係とは、相対的なものなんだなと思ってしまう。


 朝起きて、朝ごはんを食べて、学校へ行く。クラスに入って、青山かえでを見つける(彼女はたいてい私よりも先に来ている)。近くの席に座り(席決めなんて意味をなしていない)、授業があればうけて、なければおしゃべりをして、昼休みには一緒にお弁当を食べて、午後の授業にもちゃんと出席する。終礼が終わるのを待ち、一緒に帰る。家に帰ったらやることもないし、適当に電子機器で遊んだ後、さっさと寝てしまう。そんな毎日を送った。




 

 ある日。昼休みにこっそり屋上に入って一緒にバレーボールをしていた時のこと。暇つぶしとしてなんとなく選んだ競技である。提案者は私。互いにへたくそで、ラリーもまともにできなかったのだけど。

 

 何回かボールを屋上から落としそうになって、さすがにあきてきて、少し休憩をすることにした。コンクリートに寝転がって、空を見上げる。雲一つない青空、ではないのだけど、流線状の雲が水色とそこそこ絶妙なコントラストになっていて、これはこれできれいだと思える、そんな風景だった。となりの青山かえでを見る。彼女も同じようにして空を見上げていた。少し肌寒いけれど、どこかに春を感じなくもない空気の中、ふたりでしばらくぼうっとした。

 

 ふと、聞いてみようと思った。なんでみんながおかしくなっているのかということをだ。親に聞いても、とぼけるだけだったし、ほかの人に聞くのは怖かったけど、彼女ならば答えてくれそうだという気がした。

 体を起き上がらせて、彼女の方を向き、話しかける。


「ねえ」

「…なに?」


 彼女は、起き上がりもしなかった。


「なんか最近、みんなおかしい気がするのだけど」

「おかしいっていうと?」

「投げやりだったり、ちょっと暴力的だったり、そんな感じ。なんかあったのかなって」

「あー…知らないんだ」


 彼女は、ちょっと体を起こして、私の目を覗いて、言った。


「世界が終わるらしいよ。五年後くらいに」


 なんとも意外な回答だった。


「そりゃまたぶっそうな」

「ねー」

「ところでなんでそんなことに」

「えっと、どうも難しいのだけど、太陽の膨張周期がどうとかで、地球が火の海になってしまうんだとか」


 自分が丸焼きになったところを想像してみる。よくわからないけど、とにかく暑そうだった。暑いのは嫌だ。


「どうにかならないの?」

「なんか世界中の研究者が集まっていろいろやってるみたいだけど。解決のめどは立ってないって」

「なんてこった」


 両手を太陽に向けてみる。いちおう降参のポーズのつもり。


「まあ、とりあえず、その人たちに頑張ってほしいね」

「まあね。そんな期待してないけど」

「そりゃまたどうして」


 青山かえでは、立ち上がって、実に大きなのびをしてから、言った。


「期待してだめだったら、悲しいじゃん」

「あー、たしかに」


 そんなことを言ってたら、チャイムが鳴った。


「ボールかたずけなきゃね」


 屋上から、体育館倉庫までは遠い。あと五分で授業が始まるというのに、だ。別に片付けなくてもばれないとは思うけど、私も彼女も、なんとなくこういうのはちゃんとしておきたいタイプなのだ。


「走るかあ」

「そうだね」


 こうやって、情報量の多い昼休みは終わっていった。





 今は二月下旬で、もうすぐ終業式だったりする。一年上がれば高校二年生。受験なんかもまじめに考えなければいけないころだ。どうも気乗りがしない。学歴なんて世界が終われば意味ないだろうに。

 そんなこと思いながらも、期末試験の勉強をしてしまう私は、小心者なのだろうけど。


 青山かえでは頭がいい。私の1.5倍くらいは頭がいい気がする。ちなみにルックスもよい。背も高い。そんな奴と一緒に勉強していると、自分がみじめになって来る。神は私を片手間で作ったのではなかろうか。人を適当に作るし、世界は終わらせるしで、神に怒りたい気分になってきた。

 

 ちなみに青山かえで本人に、そんなことを話すと、真顔で


「なぎさの方がかわいいよ」


 と言ってきたりする。この女たらしめ。


 何はともあれ、もうすぐ試験なのだ。試験を乗り越えねば春休みにはたどり着けないのだ。頑張らねばならん。そんなことを思ったりしながら、図書室で二人で勉強するのだ。


 六時になった。もうすぐ帰らなければいけない時間だ。勉強を切り上げて、図書室を後にする。試験前だというのに、図書室で勉強している人は私たち以外いなかった。みんなやる気がないのだ。よくないと思う。


 荷物を取りに、教室へ戻る。部屋は暗くて、無論誰もいなかった。

 

 なんとなくいいたくなったから、いってみる。


「おじゃましまーす」

「なにいってんの」


 冷静なツッコミをされた。まったく、青山かえではノリが悪い。


 おしゃべりをしながら、荷物を持って部屋を出る。


 すると、その時、


「じゃーねー」


 なぜかどこかから声が聞こえてきた。


「!?」


 青山かえでの顔色が変わった。驚きと恐怖でいっぱいになった、のだと思う。


 彼女に手をつかまれた。彼女は走り出した。状況が全く読めない。だがとりあえず、私も走る。


 しばらく走って、校庭についた。手を放してくれた。互いに息を切らしている。寒い夜にはミスマッチな二人だろう。


「あっ」


 青山かえでは何かに気づいたらしい。


「財布おいてきた…」


 かわいそうに。


「…明日でいいか」

「…よくないと思う」


 まったく、この娘はさっきから何をやっているのだろう。


「急にどうしたの?」

「どうしたのって?」

「急に走り出してたじゃん」

「だって、どこかから声が聞こえたじゃない」

「それで、どうして」


 彼女は、まだわからないのか、とでも言いたげな顔をした。


「つまり、幽霊ということでしょう?」


 うーむ。幽霊。いろいろと意外なことがあった。まず、青山かえでがあの声を幽霊と解釈したこと。普通、誰かのかわいいいたずらと考えるのが妥当だろう。もっとも、ここ最近青山かえでとしか仲良くしていないから、そんなことをする奴に心当たりはないのだけど。そして、第二の意外な点だ。


「幽霊、怖いの?」


 それが一番意外だった。なんとなく、青山かえでは怖いものなんてないんじゃないかなんて思っていたから。ちょっと、からかいのニュアンスも含めた発音で聞いてみた。が、


「うん。怖い。よくわからないもん」

「あ、そう」


 きっぱりと答えられた。これじゃあからかいようがない。私が上に立っている気分を味わえたかもしれぬ貴重な機会だったのに。


「…帰ろっか」

「うん」


 お金は貸してやった。






 夜。勉強に飽きて、息抜きの電子機器の操作にも飽きて、寝ることを決意した。


 明かりを消し、布団に入り、天井を見上げる。そのまますんなり眠れる日もあるけど、今日は眠れない日だった。頭の中に、様々なノイズが飛び交う。


 そのノイズの大半は、世界の終わりと青山かえでについてだった。


 どうやら、五年後くらいに世界は終わってしまうらしい。恐ろしいことだ。どうも実感がわかないが、みんな死んでしまうのだろう。生物の数えきれない奇跡の歴史はあっさり途絶えて、地球はほかの惑星と同様に静かになってしまうのかもしれない。投げやりになる人の気持ちもわかる。やり残したことをどうにかしようとする人の気持ちもわかる。おかしくならない方が不思議だ。


 そんな中、青山かえではひょうひょうとしていた。それにつられて、私もおかしくならないでいる。これは非常におかしなことかもしれない。


 青山かえで。あの娘は実に不思議である。今度いろいろ聞いてみるか、なんて思った。


 眠気が出てきた。寝ることにした。今日に未練はない。



 



 帰り道。くだらないことをできるだけくだらないように話したりしていた時のこと。時刻は6:30。もう暗い。


 聞いてみよう、と思った。


「ねえねえ」

「ん-、なに?」

「なんでかえでちゃんてさ、そんなに落ち着いているの?」

「落ち着いている、とは?」

「だってさ、五年後くらいに世界が終わるわけじゃない」

「うん」

「死んじゃうわけじゃない」

「そうね」

「その割には落ち着いているなって」

「あー」


 青山かえでは、親指と人差し指をあごの下において、考えるポーズをした。


 そのまま、しばらくして。彼女は、急に手を握り合わせ、私に向かってひざまずくようにした。


 そして、言った。


「神様、私は人を殺しました。まぎれもなく悪人です。どうか裁きを」


 淡々とした口調で言われた。


 しばらく、沈黙があった。理解ができなかった。彼女は、ずっと私にひざまずいた姿勢のままだ。公道だけどな、ここ。


「えっと、私神様じゃないよ?」

「うん、知ってる」

「えっと…、人を殺したの?」

「…うん」

「何人くらい?」

「…二人」

「なんてこった」


 相変わらず理解はできないが、どうやら青山かえでは人を殺したらしい。彼女は冗談をいうタイプではない。


 深く聞いた方がいいのだろうか。それとも。


 悩んでいる間に、時間は過ぎてゆく。彼女はやはりひざまずいたままだ。


「…帰ろっか」

「…うん」


 結局、深くは聞かないことにした。私は臆病だ。


 青山かえでの顔を見てみる。


 相変わらず、冷めた顔だった。


 まあいいか、とも思う。五年後くらいには世界は終わるのだ。みんな死ぬのだ。そしたら青山かえでが人を何人殺そうが、ほとんど意味はないのだ。


「テスト、いつからだっけ」

「えっと…三日後から」

「うへー」


 それに、私たちには、世界の終わりよりも先にテストがある。優先すべきはそっちだった。


 テストが終わったら、春休みが来る。ふと、地球が丸焼けになったら春は来るのだろうか、と思った。春とは何をもって春とするのだろうか。よくわからなかった。


「ねえねえ」

「なに?」

「春休みになって、桜が咲いたら、お花見に行こうよ」

「いいねえ」


 なんとなく、そんなことを提案してみた。何の変哲もない、ある一日のことだった。

変なものを書きました。自分でもよくわからないところが多いです。次はまともなものを書きたいです。

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