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第56話 ここに死す

 戦いは終わった。

 看板のところまで戻ってみると、爆散したヴァルゴンらしき遺体と、ハリネズミのように変わり果てた敵兵の姿が確認できた。

 地面には血の跡が広がり、破片や武具が散乱している。

 鼻をつく鉄錆の臭いと、焦げた肉の臭いが混じり合い、戦場の凄惨さを物語っていた。

 戦いの跡が残されている中、我が軍の兵士たちは勝利の余韻に浸りつつも、疲れ切った表情を浮かべていた。

 勝ったのだ。しかし、その代償は決して小さくない。


「陛下、我が宿敵……ヴァルゴンで間違いありません。仇を討てたこと、感謝いたします」


 レスタリオンが遺体を確認し、静かな声でそう言った。

 魔界最強と恐れられたヴァルゴンだったが、その最期はなんとも呆気なかった。

 強者であっても、死ぬときは一瞬だ。


 私は地面に落ちていた看板を拾い上げる。

 そこには『逆賊ヴァルゴン ここに死す』と書いてあった。

 ヴァルゴンはこの文字を読むために松明を灯し、それが合図となって死んだのだ。

 自らの死に場所を示す看板を、自ら照らしてしまうとは……。


 私はスカーレットを呼んだ。


「スカーレット、第2軍の妙な進軍ルートや第1軍の敗走は全てこのためのものだったのですか?」


「その通りです。実は陛下に出陣していただいたのは、ヴァルゴンを倒せるのは陛下の輝翼閃だと考えていたからです。そして、そのためには新月の夜にうまくヴァルゴンを誘い込む必要がありました。輝翼閃は不意打ちでこそ強さを発揮しますから」


 スカーレットは冷静な表情を崩さず、私の問いに真摯に答えた。

 彼女の視線はしっかりと私の目を捉え、自信に満ちた様子だった。

 その瞳の奥には、底知れぬ知謀の闇が広がっているようにも見えた。


 私は速度の遅い輝翼閃は実戦では使えないものだと思っていた。

 しかし、スカーレットは最初から正攻法で戦うことを考えていなかったようだ。

 新月の夜に黒アゲハなんて、速度とは全然違う解決方法だものね。

 彼女の頭の中には、最初からこの結末が見えていたのだろうか。


「兵が逃亡したと聞いているけど、それはどうなの?」


 これも大事なことだ。

 我軍の兵士が今、何処で何をしているのか、知っておく必要がある。


「逃亡ではなく、伏兵を仕掛けながら撤退していました。見た目の兵数を減らしつつ、竈の数も徐々に減らしていきました。ヴァルゴンは私を追いかけている際、竈が徐々に減っていることに気付き、私を討ち取るチャンスだと思ったはずです」


「それで、さっき竈を作っていたのね。やたら少ないと思っていたらそういうことだったのね」


 竈の数が徐々に減っていれば、逃亡が相次いでいるように見えるもんね……。

 敵の心理すらも計算に入れた、完璧な誘導。


「ヴァルゴンの軍が少数の騎馬兵だけだったのは、第1軍が崩壊寸前だと信じたヴァルゴンが進軍速度の遅い歩兵を待つこと無く、私を追いかけ続けたためなのです。やはり、ヴァルゴンは自分の強さに絶対の自信を持っていたようですね」


「この戦い、私は囮だと思っていたのだけど、本当の囮はスカーレットだったということ?」


「そうです。以前、私の暗殺未遂事件があったとき、戦争においては陛下より私を恐れているのだということに気づきました。そこで、あと少しで私を討ち取れるように錯覚させることでヴァルゴンの動きをコントロールできたのです」


 そうね……。

 ヴァルゴンの立場で考えたら、指揮のできない私より、スカーレットの方が怖いでしょうね。

 怖いと分かっていても、こうやってコントロールされてしまうくらいだからね。

 彼女を敵に回さなくて本当に良かったと、心底思う。


「それで、この後はどうするの?」


「第1軍と第2軍を合流させたまま、ソルステリアに向けて進軍します。逆賊ブレンダルを捕らえるまでこの戦いは終わらないのです。陛下から見れば従兄弟にあたる方ですから、複雑な気分かもしれませんが……」


 スカーレットの答えに満ちた自信と決断力が感じられ、私は彼女の指導の下での行動に安心感を取り戻した。

 我々の目標はまだ果たされておらず、新たな戦いが待ち受けていることを理解しながら、私たちはソルステリアに向けて進軍を開始した。

 王として、私がなすべきことはまだ残っているのだ。

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