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第50話 アメリアの決意

 王宮病院に運ばれた2人は緊急手術となった。

 公務があるため、一旦自室に戻ったが……、仕事どころではない気分だった。

 書類の文字が上滑りし、全く頭に入ってこない。


「まっぴー、いる?」


「アメリアか……どうした?」


 アメリアが部屋に入ってきた時、私は相当ひどい顔をしていたと思う。

 鏡を見なくても分かる。今の私は、きっと幽霊のように青ざめているだろう。


「大丈夫そ?」


 アメリアは私の顔を覗き込み、心配そうにそう聞いてきた。

 言葉遣いには問題があるけども、優しい子なんだよな。

 彼女の笑顔は部屋を明るくし、心を温かくする。

 その明るさに、少しだけ救われる気がした。


「大丈夫ではないな。スカーレットは一番の側近だし、ベルモント殿は人間界から借りている人だしね」


「あのね、宰相の意識は戻ったよ。あのおっさんはまだ意識が戻らないけど、命に別状はないみたい」


「え? なんで知っているの?」


「ウチ、さっきまで王宮病院にいたからね。ほら、今朝……スカーレット様に耳を引っ張られて連れて行かれたところが医局なの」


「それって、例の治癒魔法に関係あるの?」


「人体の構造や手術の手順を理解することが近道になるって言われて連れて行かれたんだよね。っていうか、ウチの耳を引っ張った人がそのすぐ後に患者として運ばれてくるとか、ウケるんだけど」


「アメリア、何があっても人の不幸を笑うのは良くないことなの。今後は絶対にダメだからね」


「はい……」


 私に叱られ、アメリアが落ち込んだので、頭をポンポンと軽く叩きながらギュッと抱きしめてあげた。

 かわいそうだけど、これは大事なことだからね。


 アメリアが落ち着きを取り戻したのを確認し、私たちは一緒に王宮病院へと向かった。

 扉を開けると、ベッドに寝ているスカーレットと目があった。

 包帯姿が痛々しいが、その瞳にはいつもの理知的な光が宿っていた。


「陛下、本当に申し訳ありません……。これは私の不注意です」


「いいのよ。それよりもあなたが無事で良かったわ。仕事は忘れていいから、ゆっくり休んでね」


「それよりも……ベルモント殿がまだ目を覚まさないのです。ベルモント殿が助けてくれなければ……私は死んでいたと思います」


 そこへ医師がやってきて、ベルモントの状態を教えてくれた。

 命には別状がないが、頭部を強打しているため、意識が戻らないということ、特に足のダメージが大きく、歩けなくなる可能性が高いということ。

 スカーレットにしてみれば、自分の身代わりになってこんな大怪我をしたのだから、責任を感じているのだろう。

 その表情は、今まで見たことがないほど沈痛なものだった。


「スカーレット様、不敬を承知でお願いがあります。スカーレット様とベルモント様の治療を私に任せていただきたいのです」


 アメリアが真剣な顔で頭を下げた。

 いつもの軽い雰囲気は微塵もない。


「それはつまり……、私とベルモント殿を医療魔法の研究材料にしたいということですね」


 スカーレットは何かを確認するかのようにアメリアの顔をじっと見つめながら、低い声でそう聞いた。

 確認したいのは、きっとアメリアの覚悟だろう。


「はい。そのとおりです。ですが、ベルモント様を元に戻すには治癒魔法を完成させるしかないのも事実ではないでしょうか。ウチ……いや、私が必ず治してみせます」


「あなたの言うとおりですね……。分かりました。許可します。ただし、ベルモント殿の治療は全力で取り組んでください。私からのお願いです」


「分かりました。全力を尽くします」


 アメリアの目には決意が宿り、彼女の声は強く聞こえた。

 彼女の言葉には迷いがなく、自信に満ちていた。

 その姿は、もうただの侍女ではなく、一人の魔法使いだった。


 翌日から、アメリアは真剣に働くようになった。

 王宮病院では看護だけでなく、手術の手伝いも積極的に行っていた。

 スカーレットは『医療魔法の研究材料』だと言っていたが、研究目的での魔法使用はほとんど行わず、勉強中心で働いていた。


 また、スカーレットにも変化があった。

 自身の怪我が治り、動けるようになった頃から、ベルモント殿の身の回りの世話をするようになった。

 一国の宰相が働きながら他人の世話をするなんて、普通では考えられないことだけど、彼女にとってはとても大事な事だったようだ。

 甲斐甲斐しく世話を焼くその姿は、どこか人間味を帯びていた。


 私はスカーレットが行っていた仕事の一部を引き継ぐようになった。

 彼女は当たり前のようにこなしていた仕事だったけど、こんなに大変だったなんて……。

 役人の数を増やすなど、改善すべき問題も見えてきた。

 スカーレットという大きな柱を失って初めて、私は自分の足で立つことの意味を知った。


 そして、事件から1週間ほど経った頃、ベルモント殿の意識が戻った。

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