第49話 苦い初仕事
翌朝……。
部屋の中は柔らかな朝日が差し込み、ほのかな魔法の香りが漂っていた。
窓からは鳥のさえずりが聞こえ、外の景色が静かに広がっている。
嵐の前の静けさのように、穏やかな時間が流れていた。
リナリスとアメリアが私の部屋で身の回りの世話をしてくれているのだけど。
「ねえアメリア、なんか魔法の研究しろとか言われてなかった? 休む間もなく仕事が増えてるくない?」
「それなー。まあ、ウチはまっぴーの役に立つなら嬉しいけどね。まっぴー、マジ尊すぎ」
「あ~、分かりみが深い。まっぴーしか勝たん」
ちょっと待って。
アメリアをリナリスに預けたのは、昨晩だったよね?
リナリスまで、あの変な言葉遣いになっているんだけど。
私のこと、まっぴーって呼びだしているし。
リナリスの適応能力が高いのか、アメリアの影響力が強いのか……。
いや、これは両方なんだろう。
頭痛がしてきた。
そんなことを考えていたら、無言で現れたスカーレットがアメリアの耳を掴み、どこかへ引きずっていった。
スカーレット……こんな怖いところがあるのね。
まるで鬼のような形相じゃない……。
「陛下、そろそろ馬車のお時間です。お急ぎください」
親衛隊が私を呼びに来た。
「分かったわ。すぐ行く」
国営農場での作業は今日から始まる。
ついに魔界改造計画の開始だ。
私は魔界を救うのだ。
その使命感が、私の背中を押す。
農場へ移動するため、私は馬車に乗り込む。
親衛隊に守られながら王都を駆け抜けていくと、広大な農地が私の目に飛び込んでくる。
そこはまだ荒れ地だが、未来の希望が詰まった場所だ。
国営農場は住宅などの施設が建設中だが、100の区画は既に完成していた。
あとは、私が瘴気を消して、土属性で耕すだけだ。
「輝翅輪舞!」
私がワンドを振るうと、光の粒子が集まり、巨大なアゲハ蝶となって区画内を舞い踊る。
それはまるで、神聖な儀式のようだった。
バチッ、バチッ。
蝶の撒き散らした鱗粉が、音を立てて大地の瘴気を消していく。
黒い霧が晴れ、本来の土の色が顔を出す。
区画の周りでは建設中の作業員全員が手を止め、私を見ている。
やがて、瘴気の消える音がしなくなり、私の仕事は終わった。
どこからともなく拍手が鳴り始め、辺りを歓声が包みこんだ。
「陛下、お疲れ様でした。初めてみましたけど、美しく見事な魔法でした」
私の魔法が周囲から称賛されるのを聞くと、自信と誇りが胸に満ちていく。
スカーレットの言葉は私にとって大きな励みとなる。
彼女に認められることが、何よりも嬉しい。
「ありがとう。スカーレットにそう言ってもらえるなんて、やはり凄い魔法なのね」
疲れた体を休めるため、私は農場の小屋に向かった。
スカーレットはリナリスに土属性魔法を使わせるため、再び区画に向かった。
区画に向かうスカーレットの後ろ姿を見ていた私は思わず叫んだ。
「スカーレット! 危ない!」
建設現場に立て掛けられていた木材が、スローモーションのようにスカーレットに向かって倒れていくのが見えた。
その場から逃げる者がいる。
奴だ。奴がスカーレットを狙ったに違いない。
怒りと恐怖が同時に押し寄せる。
木材は倒れ、スカーレットも倒れ込んでいる。
ドサッという鈍い音が、私の心臓を鷲掴みにした。
「スカーレット!」
倒れたスカーレットに駆け寄ったとき、他にも倒れ込んでいる者がいることに気付いた。
ベルモント殿!
ベルモントはスカーレットに覆いかぶさり、守っていた。
その姿は、まさに騎士そのものだった。
駆け寄った全員で木材をどかし、救助をするが、2人とも意識が無い。
私たちは2人を馬車の荷台に乗せ、王都まで運んだ。
私の手は震え、祈ることしかできなかった。




