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第41話 名誉の負傷

 レンナーラとの約束を守るため、私たちは城塞都市マジェスティアへ戻っていった。

 今までの道中は男ばかりで心が休まらなかったが、今はかわいい侍女と一緒に馬車へ乗っている。

 それだけで、旅の景色が色鮮やかに見えてくるから不思議だ。


 馬車の中は暖かい雰囲気に包まれていた。

 窓から差し込む日差しは穏やかで、外の風景がゆっくりと流れていく様子が感じられた。

 私は侍女のアメリアと向かい合って座り、微笑みながら会話を楽しんでいた。


「ねえ、まっぴー。マジェスティアに着いたら、カイルはゾルトのおっさんと一緒に離脱するんだよね?」


 前言撤回。

 この言葉遣いだけは、どうにも慣れない。

 別な意味で心が休まらないのよね。


「そうね。カイル君はゾルトの弟子になったから、しばらくはお別れになるけど寂しい?」


「ウチらは双子だから生まれた頃からずっと一緒だったけど、いつかは自分の人生を歩むことになるでしょ。カイルにとっては今がその時なんだよね。少し寂しいけど、二度と会えない訳じゃないし、ウチは大丈夫だよ」


 言葉遣いは怪しいけど、アメリアはしっかりした考えを持っているようで少し安心した。

 明るく振る舞っているけれど、その瞳の奥には少しだけ寂しさが揺れているのが見えた。

 兄のカイル君はアメリアと離れ離れになるということで、落ち込んでいるみたいだけどね。


「そういえば、アメリアは魔力制御が得意なんだよね? 私はあまり上手くないみたいなので、ちょっと見てくれるかな」


「りょ。じゃあ、ここで使ってもへーきな魔法を使ってもろて」


 私は煌輝羽衣を使って、10匹くらいの蝶を出してみせた。

 アメリアはじっとそれを見ていたが、しばらくして深い溜息をついた。

 その溜息は、まるで世界の終わりを嘆くかのように深く、重かった。


「ちょっと、溜息は止めてくれる? さすがに落ち込むわよ」


「まっぴーの魔力制御が下手だとは聞いていたけど、予想以上すぎて……さげみざわ」


 言葉の意味はよく分からないが、とにかくすごく問題があることは理解できた。

 「さげみざわ」という言葉の響きからして、相当なレベルなのだろう。


「具体的にどこが問題なの?」


「簡単に言うとね、魔力100で使える魔法に150くらい使っている感じ。特に魔法の使い始めで魔力放出が遅いのと、無駄に魔力を垂れ流しているのが原因ね」


 えっ、そこまでひどいの?

 でも、逆に言えばこれが解決すれば、魔力の使いすぎで倒れることもないのかしら。


「なるほど、それほどなのね……。どうやって直したらいいか分かる?」


「まっぴーは頭で考えすぎなので、感覚で使えるようにしたほうがいいと思う。ウチが適当な数字を言うから、その数の蝶を出してみよっか」


 ちょっとだけやってみたが、思った以上に難しい。

 ちゃんと出しているつもりなのに、多かったり少なかったり……。

 自分が想像していたより、私は本当に制御ができていないことが認識できた。

 まるで自分の手足ではないものを動かしているようなもどかしさだ。


「これは問題よね……。アメリア、もう少し続けてくれるかしら」


「じゃあ、もし間違えたり遅かったりしたら、ウチがまっぴーにデコピンするってのはどう? それなら集中できるっしょ」


 アメリアは可憐な少女なのだが、魔人族なので見かけによらず怪力という可能性もある。

 ちょっと怖いけど、ここで止めるわけにもいかないな。

 背に腹は代えられない。


「よし、それでいこう」


「ではいきますよ~。3、6、1、3……。はい、間違えました~。デコピンいくよお」


 アメリアが指を構える。

 その指先には、得体の知れないエネルギーが凝縮されているように見えた。


 バチン!


 乾いた音が車内に響き渡ると同時に、私の額に激痛が走る。

 痛い! 痛すぎる!

 やっぱり魔人族は筋力が違う。なんかずるい。

 涙目で額を押さえる私を見て、アメリアはケラケラと笑っていた。


 ――


「おや、陛下……。額どうなされました? ずいぶんと赤くなっていますが」


 夕食の際、ゾルトが私の額に気付いたようだ。

 それを見たカイル君、青ざめた顔でアメリアをどこかに連れて行った。

 さすが双子だよね。妹の仕業だとすぐに気付いたのだろう。

 裏でどんな説教が行われるのか、想像するだけで少し可哀想になる。


「これね……名誉の負傷といったところかしら……」


「?」


 ゾルトが不思議な顔をしたので、私は思わず笑ってしまった。

 アメリアは相当変わった子だけど、笑いの尽きない日々が送れそうだ。

 この痛みも、成長の証だと思えば悪くない……かもしれない。

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