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第39話 若き臣下

 私たちは巨大な竜の亡骸のそばに座り、その圧倒的な姿を眺めながら、疲れた身体を地面に預けた。

 地面に座り込んだ私たちの周囲には、静けさが戻り、空気が緩んでいくのが分かった。

 風が竜の亡骸を撫で、その静寂を深めていた。

 戦いの熱気は去り、心地よい疲労感だけが残っている。


 張り詰めていた緊張が解け、全身の力が抜けていくのを感じていた。

 強力な魔法の使用によって、私の身体はまるで力を奪われたかのように、立ち上がることができなかった。

 指一本動かすのも億劫だ。


「まさか古竜を倒す日が来るなんて……夢にも思わなかったわよ」


「陛下の魔法がなければ全員やられていました。本当に見事な魔法ですね」


 ゾルトも興奮が冷めないのか、いつもより早口で私を褒めてくる。

 しかし、これはお世辞ではなく、本心で言っていることなのだろう。

 彼の瞳には、私への純粋な敬意が宿っていた。


 私自身も驚いているのだけど、輝翼閃は古竜相手でも大ダメージを与えることができたのだ。

 速度の遅さが弱点であることは否めないが、今回のように初対面の相手に対してはその予測不能な性質が、私の魔法を非常に効果的にしたことを改めて認識した。


「そうね。まだまだ改善しなければならないところはあるけれど、使い方次第では強力な武器になることが分かったわ」


「陛下はまだ子供だと思っていましたが、さすがは先代陛下の血を継いでいるだけのことはありますね」


 私が子供扱いされていたことに、少々驚きを覚えるわ……。

 まあ、見た目は子供だし、実際まだ成人していないから仕方ないのだけど。


「ねえ、ゾルト。父上はそれほど強い人だったの?」


「はい、強うございました。拙者と兄の2人を家臣にするため、拙者たちと連続で一騎打ちして圧勝されたのです。あの時の父君の背中は、まるで山のように大きく見えました」


 父上、いくらなんでも強すぎませんか……。

 兄様たちも強かったけど、父上譲りなのかしら。


 父上の強さは、私の中で一層の尊敬を引き起こした。

 まるで神話の英雄のように思え、私もその一部なのだと思うと、誇りと同時に責任を感じた。

 私もいつか、そんな風になれるのだろうか。


「あのう、すみません。ちょっとよろしいでしょうか」


 カイル君が申し訳無さそうに話しかけてきた。

 彼の不安な視線が、私の心を掴んで離さなかった。

 戦いの高揚感は消え、現実的な問題が彼を悩ませているようだ。


「カイル君も大活躍だったわね。双剣で両目を突くだなんて、なかなかできることじゃないもの」


「ありがとうございます。ところで、フェルドリムが気になることを言っていたのですが……」


 ああ、そういえば言っていたわね。


「確か、お酒で酔わせることができないことを私たちが理解しているはず……みたいな感じだったかしら」


「はい、そうです。もしかしたら、長老が俺たちをまとめて殺すためにフェルドリムの元に送り込んだのではないかと」


「ふむ。ありそうな話だな。拙者たちは他所者だし、カイルは妹のためにその他所者を招き入れた。これを目障りだと感じても無理はないな」


「やはり、そうですよね……皆様を巻き込んでしまって、本当に申し訳ありません」


 そう言って、カイル君は頭を下げた。

 その表情からは、彼の心の重さが伝わってきた。

 彼の肩にのしかかる不安や責任が、彼を苦しめているのだろう。

 まだこんなに小さいのに、背負うものが大きすぎる。


「まあ、済んだことは仕方がないでしょ。グリーンヘイヴンは王国の支配下に入ることとなるわけだし、結果だけ見ればむしろ感謝すべきね」


「陛下、拙者たちの都合で見ればそうですが、カイルは村に居辛くなってしまうのではないでしょうか」


 そうか、他所者を招き入れたという事実は消えないものね。

 生贄だった妹も肩身が狭いんじゃないかしら。


 私たちがグリーンヘイヴンにやって来たことが、村人たちにどのような影響を与えるのか、私は考えていた。

 彼らの過去の傷が、未来にも影を落とすのではないかという不安が心をよぎった。

 彼らをこのまま村に置いておくことは、残酷なことかもしれない。


「そうよね……。じゃあ、私たちと一緒に来る? もちろん妹も一緒にね」


「えっ、よろしいのですか!」


 カイル君の顔色が一気に明るくなった。

 まるで暗雲が晴れたかのような笑顔だ。


「もちろんよ。年齢的に今すぐ家臣にはできないけど、やれる仕事はいっぱいあるからね」


「陛下、そういうことなら拙者にお願いがあります。カイルを拙者の弟子にしたいのです!」


「それはいいわね。じゃあ、妹の方は私の侍女をやってもらおうかしら。もちろん、2人の気持ち次第だよ」


「ありがとうございます。あのゾルト将軍の弟子になれるなんて! 夢のようです」


 カイル君が無邪気に喜んでいる姿を見て、私たちの心も軽やかになった。

 彼の笑顔は、私たちに希望を与えてくれるものだった。

 新しい仲間が増える。それは旅の疲れを吹き飛ばすほど嬉しい出来事だった。

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