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第35話 魔法の翼と運命の軌跡

「ここはどこかしら……」


 私は見知らぬベッドで目を覚ました。

 部屋は静かで、ただ時計の針の音だけが聞こえる。

 窓から差し込む柔らかな光が、舞い上がった埃を美しく照らしていた。


 なぜ寝ているのか、寝る前に何をしていたのかを必死に思い出そうとしていると、若い娘が心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「陛下が目を覚まされました!」


 娘がそのように大声で叫ぶと、ゾルトとエルリオンが急いで部屋に駆け込んできた。

 ゾルトの顔には安堵の色が浮かび、エルリオンは厳しい表情を崩さない。

 二人の間の緊張感が、部屋の空気をピリつかせていた。


「良かった……。陛下はご無事だ」


「ゾルト、これは一体どういうことなの?」


「陛下、覚えていらっしゃらないのですか……。光魔法の試し撃ちをしていたところ、魔力切れを起こして気絶なさったのです」


 私の心臓がドクドクと鳴り響くのが聞こえる。

 魔法の余韻がまだ体中を駆け巡っていた。


 ああ、そうだった。

 よく考えてみれば分かることじゃないか。

 あれほどの威力を持つ魔法を無制御で使えば、魔力切れになるのは必然だ。


 なるほど、母上が18歳の誕生日プレゼントとして用意していたのはこのためか。

 子供のうちは魔力を制御できず、命を落とす危険もあるほどの威力だ。

 母上は、私の成長を見守りながら、この時を待っていたのだ。


「それで、『輝翅輪舞きしりんぶ』の効果はどうだったの? 瘴気が消えていたらいいのだけど」


「お喜びください。村の魔法使いに確認してもらいましたが、完全に消えておりました!」


 やった!

 色々と課題があることも分かったけど、食糧問題解決の鍵を手に入れることができたのだ。

 私は拳を握りしめ、喜びを噛み締めた。


「ゾルト、早速スカーレットに手紙を送ります。ペンと紙を用意してもらえるかしら」


「はっ、すぐに用意させます」


 ゾルトがペンと紙を持ってくると、私は深呼吸をして、集中を高めた。

 手紙には、運命を左右する内容が含まれている。

 用意されたペンを手に取り、輝翅輪舞が瘴気を消せること、しかし魔力の消費が非常に大きいことを書き記した。


 瘴気を消せたとしても、王である私が魔界中を歩き、瘴気を消すわけにはいかない。

 それに……体がそれを許さないだろう。

 大魔道士ルナティカが地質を改良できたのは、ルナティカ村から周囲2キロ程度に限られていた。

 これも、おそらくは私と同じ理由からだろう。

 この問題をスカーレットに解決してもらいたい。


「陛下、私も報告よろしいでしょうか」


 エルリオンが厚い本を抱えていた。

 ルナティカ関連だろうか。


「なんでしょう」


「陛下がお倒れになったのを受け、ルナティカの死因を確認しました。ルナティカの死因は……魔法の使いすぎによる衰弱とされています」


 エルリオンの声は震えていた。

 彼が抱える本は古びており、何度も読み返された形跡があった。


 ルナティカは飢餓に苦しむ民を救うため、絶え間なく魔法を使い続けたという。

 やがて体はやつれ、立つこともできなくなったのだが、それでも魔法を使うことを止めなかった。

 エルリオンの言葉に、部屋の空気が重くなる。

 歴史に名を残す大魔道士の最期が、私たちの前に突きつけられた。


 それは驚異的な決意だと感じるが、私の考え方は少々異なる。

 私は王だから簡単に死ぬわけにはいかない。

 一人でも多くの民を救うためにも、もう倒れないようにしなくては。

 死んでしまっては、誰も救えないのだから。


「エルリオン、ありがとう。私も使いすぎればそうなるということなのね……」


「拙者の見立てでは、陛下は魔力のコントロールをもう少し訓練する必要がありますね」


 ゾルトは、オーガ族の中でも珍しく、生まれつき魔力を有している。

 彼は強化魔法で自分を強化しながら戦う魔剣士なので攻撃魔法は使えないのだが、繊細な魔力コントロールには自信があるようだ。


 一方で、兄のゾルガリスは魔力を持たず、力強い戦闘スタイルを採用している。

 ゾルトが魔法で完全強化してもヴァルゴンやゾルガリスには勝てないということもあり、最近は剣技ばかり鍛錬していた。

 その結果、私はゾルトが魔法を使うことを完全に忘れてしまっていた。


「ゾルトはどうやって魔力をコントロールしているの? コツがあれば教えてほしいのだけど」


 ゾルトの手が空気を切るように動き、その動きに合わせて部屋の魔力が微妙に揺れる。


「拙者の場合は、こうガーっと魔力を集めて、エイっと放出する感じでやっております」


 ……。

 たまにいるわね、こういう人。

 天才肌というか、感覚派というか。

 達人だからといって、必ずしもよい先生になれるとは限らないということね。

 私は小さくため息をつき、苦笑した。

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