第23話 グロリアの適正
「では、私がいない間の出来事をお聞かせいただけますか」
スカーレットが真剣な眼差しで尋ねる。
彼女が不在だった期間は2週間ほど。
その間に起きた出来事は山ほどあるが、やはり一番重要なのはあれだろう。
「一番大きな出来事は、カイリシャの襲撃を受けたことかしら。城壁の修復が順調に進んでいたおかげで、被害は最小限に抑えられたわ」
「スカーレット様、聞いてください! 陛下がカイリシャを言い負かしたのですよ。その堂々たるお姿といったら! 敵側に動揺が生まれたことで形勢が大きく変わったのです」
リナリスが身を乗り出して熱弁を振るう。
魔人族は無口でクールだという定説は、彼女には当てはまらないようだ。
褒められるのは悪い気はしないけれど、少し恥ずかしい。
「一番の勝因は次兄のレオン兄様が生きていて、救援に駆けつけてくれたことだと思うわよ。そういえば、リナリス。兄様は呼んでくれた?」
「はい。レオン様は任務が終わり次第参られるとのことです」
私はチラリとスカーレットの方を見た。
兄様が生きていたことを知れば、さすがの彼女も驚くだろうと思ったからだ。
しかし、彼女の表情は氷のように冷徹なままだ。
「レオン様の話は存じております。さっき、門のところで会いましたから。相変わらず素敵な方ですね」
さらりと言ってのける。
「……。既に知っているなら話は早いわね……兄様にはゾルガリスと共に騎士団を任せたわ。これで戦力不足も多少は解決できたわね」
「えっ、ゾルガリス殿もご無事だったのですか。それは心強いですね」
そこで初めて、スカーレットの眉がピクリと動いた。
知らないかなと思えば知っているし、知っているかと思えば知らない。
このポーカーフェイスを崩すのは至難の業だ。
そのとき、ノックの音と共に兄様が部屋に入ってきた。
「スカーレット、待たせてスマンな。久しぶりじゃないか! 積もる話もあるし、今度ゆっくりお茶でもしようぜ」
爽やかな笑顔でウィンクをする兄様。
あ、そうだった。
感動の再会ですっかり忘れていたけど、兄様はこういう軽い人だった。
これさえなければ、本当に素敵な人なのに。
「それでは、グロリア陛下と2人でお邪魔させていただきますね」
スカーレットは笑顔で、しかしきっぱりと壁を作った。
見事な防御だ。
兄様が渋い顔をしているので、思わず吹き出してしまった。
「ところで、ベルモント殿は何故そんなに離れたところに座っているんだ? スカーレットの隣に座ればいいじゃないか」
兄様が不思議そうに尋ねる。
ベルモントは部屋の隅で小さくなっていた。
「その……半径1m以内に近づいたら額を撃ち抜かれるらしいので……命は惜しいですから」
「ベルモント殿は優秀な人物だそうですが、女癖の悪さでいえばレオン様以上みたいです。陛下も気をつけてくださいね」
スカーレットが冷ややかに吐き捨てる。
今度はベルモントが渋い顔をする番だった。
この二人の男たち、スカーレットには頭が上がらないようだ。
「私からも報告よろしいでしょうか」
さっきから、話したくてウズウズしていたリナリスがようやく口を開いた。
「リナリスには陛下の魔法訓練をお願いしていましたね。ちゃんとサボらずに訓練していましたか?」
スカーレットの目が光る。
「サボるだなんて……人聞きが悪いわね」
まあ、ルナティカにいたときは、勉強が嫌でずいぶんとサボったものだけども。
今は立場が違う。
「陛下はしっかり励んでいました。私がみたところ、土属性に若干適正があるようですが、他の属性はちょっと……。でも、魔力はそれなりの量があるので違和感があるのです」
「やはりそうですか、私も不思議に思っていたのです。私も全属性に適正があまりない分、無属性が得意な特殊体質なので、陛下も特殊体質のような気がしていたのです」
そう。スカーレットの魔法は常識外れだ。
見たこともないような魔法を使いこなすのに、初歩的な属性魔法は全然使えない。
彼女は自分の弱点を理解し、自分に合う魔法を独自に開発することで克服した努力の人だ。
「あの、ちょっといいですか。光属性ということはないですか? 人間界だと普通に使われるのですが、魔界では珍しいと聞いていますから見落としているのではと思いまして」
ベルモントが控えめに手を挙げた。
その言葉に、部屋の空気が止まった。
光属性。
魔界ではおとぎ話に出てくるような、幻の属性だ。
「光属性!」
「光属性!」
スカーレットとリナリスが同時に大声をあげた。
二人の声が重なり、部屋に響き渡る。
「ベルモント殿の言うとおりね。盲点でした。早速、光魔法の適正を調べてみましょう」
スカーレットの目が、研究者のそれに変わった。
えっ、まさか本当に光属性だったりするのかしら?
私の胸が、期待と不安で高鳴り始めた。




