第21話 懐かしき声
私は我が目を疑った。
砂煙の中から現れたその姿。
それは、死んだとばかり思っていた次兄、レオン兄様だったからだ。
ボロボロの鎧、血にまみれたマント。
だが、その瞳は変わらず力強い光を宿していた。
そして、その傍らには巨漢の戦士が控えている。
四天王次席、ゾルガリス。
ゾルトの実兄であり、魔界屈指の猛者だ。
「兄様……! 生きて、おられたのですか……」
私の声は震えていた。
信じられないという思いと、溢れ出す喜びがない交ぜになる。
「グロリア、苦労をかけたな。父上の救援に向かったものの、勇者一行に敗れてな……。ゾルガリスに助けられたものの、生死の境を彷徨っていたのだ」
兄様は馬から降り、私の元へと歩み寄る。
その足取りは重いが、確かな意志が感じられた。
「グロリア陛下、レオン殿下は勇者一行に呪いをかけられまして、解呪に時間がかかってしまいました。現在も完調ではありませぬが、陛下を助けたい一心で馬を走らせて参りました」
ゾルガリスが恭しく頭を下げる。
彼もまた、父上の命令に従い、兄様を守り抜いたのだ。
勇者の呪い……やはり、彼らは恐ろしい力を持っている。
「そうだったのですね。私はもう……皆様亡くなられたと思っておりましたので、こうして再会できて……本当に、嬉しいです」
視界が涙で滲む。
もう二度と会えないと思っていた肉親。
孤独な戦いの中で、兄様の存在がどれほど救いになるか。
「それは俺もさ。これからは家臣として、共にこの国を守らせてくれないか」
兄様はその場に片膝をつき、臣下の礼をとった。
その姿に、周囲の兵士たちがどよめく。
「兄様が生きておられたのなら、兄様が王位を継がれるのがよろしいのではないでしょうか。私は……」
「それは違うぞ、グロリア。お前は先日即位をしたばかりではないか。ここで退位すれば、お前を信じてついてきた民や家臣はどう思う? 彼らを裏切ることになるぞ」
兄様の言葉は厳しく、しかし温かかった。
「しかし、それでは兄様のお立場が……」
「俺の立場と国の未来、どちらが大切か、言うまでもないだろう」
「魔王はお前で、再建の功労者はスカーレットとゾルトだ。これは紛れもない事実だ。俺は確かにお前の兄だが、父上の命令に従わず敗走した敗軍の将だ。王の資格があるとは思えないな」
兄様は自嘲気味に笑ったが、その目には迷いがない。
王位への執着など微塵も感じさせない、潔い態度だった。
「そうは言いますが、私と兄様では王としての器が違います」
「果たしてそうかな。先ほどのカイリシャとの戦いでは大演説をしたそうじゃないか。あのカイリシャを論破するなんて、なかなかできることじゃない。お前の民を思う気持ちが、兵を動かしたんだ」
兄様は立ち上がり、私の肩に手を置いた。
大きくて、温かい手。
兄様はどうあっても、王位に就く気はないらしい。
それならば、兄様が一番輝ける場所を用意するのが、今の私にできることだ。
「分かりました。兄様……いえ、レオン。あなたを王室騎士団長に任命します。ゾルガリスは副団長としてレオンを支えるように!」
「はっ、かしこまりました。王国のため、この命尽きるまで剣を振るいます」
「レオンに従っている兵士も騎士団に組み込むこととします。これまで通り、レオン指揮下で励んでもらいます」
私の宣言に、兄様の兵士たちから歓喜の声が上がった。
「レオン様万歳!」「グロリア陛下万歳!」
やはり兄様には人徳がある。
彼がいれば、軍の士気は格段に上がるだろう。
カイリシャの襲撃という危機的状況だったが、結果としてこちらの被害は軽微で、新たに精鋭の騎士団が加わった。
災い転じて福となす、とはこのことか。
スカーレットが戻ったら、きっと驚くだろうな。
そこへ、残敵の掃討を終えたゾルトが戻ってきた。
彼はゾルガリスの姿を見ると、目を見開き、持っていた大剣を取り落とした。
ガシャン、と重い音が響く。
「あ……兄上、生きておられたのですか!」
いつも冷静なゾルトが、声を震わせている。
「ゾルト、苦労をかけたな。お前も立派になった」
ゾルガリスが歩み寄り、弟を力強く抱きしめた。
無骨な兄弟の再会に、周囲から温かい拍手が送られる。
再会を喜び合う二人を見て、私は心から安堵した。
失われたと思っていた絆が、再び繋がったのだ。
これなら、きっと大丈夫。
私たちは、もっと強くなれる。




