第20話 一喝百響
スカーレットが人間界へ行ってから1週間が経過した。
事前に様々な準備をしてくれてはいたものの、彼女のいない王城は火が消えたように静かで、不安で仕方がない。
私の心の平安のためにも、早く帰ってきてくれないかな。
そんな私の相手をしてくれているのが、スカーレットの出発前に推挙され、新たに家臣となったリナリスだ。
彼女は真面目で優秀な魔法使いだが、少し天然なところがある。
「陛下、背筋が曲がっております。魔法の発動には正しい姿勢が不可欠です」
リナリスの厳しい指導の下、私は魔法の特訓を受けていた。
改めて魔法の適正を確認してみたのだが、結果は散々なものだった。
土属性が若干マシな程度で、他の属性は全て平均以下。
火球をバンバン飛ばすカッコイイ魔法使いに憧れていたけど、私には地味な土いじりしかできないようだ。
「何か見落としている気がします。陛下の魔力は決して低くないはずなので、もっと適正があってもいいように思うのです。スカーレット様が戻られたら相談してみます」
リナリスが慰めるように言ってくれるが、現実は非情だ。
土属性の魔法は壁を作るのがメインなので、当面は訓練を兼ねて壊れた防壁の修復を行うことにした。
父上が亡くなってから、何度も襲撃に遭っているので防壁のありがたさを強く感じている。
地味だが、これも国を守るための重要な仕事だ。
そして、やはりこの瞬間がやってきた。
そう、襲撃だ。
けたたましい警鐘が鳴り響く。
「陛下! 賊の襲撃です。頭領はカイリシャと見られます」
伝令の兵士が叫んだ。
カイリシャか……。
スカーレットがいない、このタイミングを狙ってきたのか。
背筋に冷たいものが走る。
いや、ここで諦めたらダメだ。
私は魔王グロリア。民を守る義務がある。
なんとか乗り切ることを考えよう。
「分かった。すぐ行く。門を閉じ、絶対に町へ入れるな! 死守せよ」
私はセリアナの形見である鉢金を頭に巻いた。
冷たい金属の感触が、私に勇気をくれる。
セリアナ……私に力を貸してくれ。
私が城門に駆けつけると、既に防衛部隊が必死の抵抗をしていた。
だが、賊の数は予想を上回り、新参兵がほとんどの我が軍は苦戦を強いられていた。
怒号と悲鳴が飛び交い、血の匂いが充満している。
私は賊の中に、氷の魔法を操る女、カイリシャを見つけた。
城壁の上から、腹の底から声を張り上げる。
「逆賊カイリシャ! 父上の恩を仇で返すとはどういうことだ。恥を知れ!」
私の声に、カイリシャが顔を上げ、嘲るように笑った。
「黙れ! 貴様こそ、人間界などと和睦するなど魔界の王としてあるまじき行為ではないか。弱腰の王など不要! 私こそが真の王に相応しい!」
「お前が山賊になったのは私が人間界と和睦するよりも前だぞ。お前の目的は王位を簒奪することであって、民を守ることではない。ここにいる全ての兵よ聞け! この者は魔界を戦争の絶えない国にするつもりだぞ、それでも支持するのか!」
私の言葉に、賊の一部が動揺を見せた。
だが、カイリシャは即座に叫び返す。
「あのような小娘の言うことを信じる必要はない。奴の首を取ったものには好きなだけ褒美をとらせるぞ! 行けぇ!」
欲望に駆られた賊たちが、再び城門に殺到する。
「皆見ておけ。カイリシャは金と権力のために戦争を煽る者だ。奴に正義などないことは明らかだろう」
私がそう言うと、賊の勢いが少し削がれたように感じた。
これなら守りきれるかもしれない。
そう思った矢先だった。
「陛下、さらに新手がやってきています!」
兵士が指差す方向を見ると、砂煙を上げて迫ってくる一団が見えた。
万事休すか……。
これは味方なのか、敵なのか……。
いや、私に味方をしてくれる他の勢力を知らないし、どこにも救援要請をしていないはずだ。
だが、その勢力は山賊軍の背後から、一直線に突撃を始めた。
予想外の挟撃に、山賊軍はパニックに陥る。
散り散りになり、降伏するものが相次いだ。
カイリシャは舌打ちをして逃走したが、撃退には成功したようだ。
これは一体、何が起こっているんだ?
呆然とする私の耳に、懐かしい声が届いた。
「グロリア! 遅くなった!」
中心で指揮を執っていた男が大声で叫んだ。
そ、その声は……まさか。
信じられない思いで、私はその男を見つめた。




