第13話 勇者、再び魔界に現れる
私とスカーレット、ゾルトの3人で即位の時期について議論していた、その時だった。
伝令がもたらした報告は、私たちの希望を粉々に打ち砕く、絶望の宣告だった。
「勇者一行が再び現れ、王都へ向かって進軍中とのことです!」
その言葉を聞いた瞬間、私の目の前が真っ暗になった。
心臓が早鐘を打ち、冷たい汗が背中を伝う。
父上や兄上、そして屈強な親衛隊ですら敵わなかった相手。
今の私たちにあるのは、スカーレットとゾルト、そしてマジェスティアから連れてきたわずか20人の兵士だけだ。
勝てるわけがない。これは、死刑宣告に等しい。
「……その勇者は、セリオスですか?」
絶望に沈む私とは対照的に、スカーレットの声は氷のように冷静だった。
彼女は眉一つ動かさず、兵士に問いかけた。
「いえ、今回はレオニダス一行のようです」
勇者レオニダス……。
人間界には複数の勇者が存在すると聞く。
父上を討ったのは『光の勇者』セリオスだが、レオニダスは『剛剣の勇者』と呼ばれ、純粋な戦闘力ではセリオスを凌ぐとも噂される猛者だ。
最悪だ。よりによって、そんな怪物が来るなんて。
「やはり、レオニダスですか……。ふふっ、これはまさに、天が与えた絶好の機会かもしれません」
スカーレットが不敵に微笑んだ。
……え?
どういうこと? チャンス?
どう考えても絶体絶命のピンチじゃないの? 恐怖で頭がおかしくなってしまったの?
「どうしてレオニダスだと分かったの? それに、チャンスって……」
「まず、セリオスには攻める理由がありません。魔王を討伐し、英雄として凱旋したのですから、今は名声と報酬を享受し、ゆっくりと休養しているはずです」
「一方で、同じ勇者でありながら、魔王討伐という最大の手柄を逃したレオニダスは、焦燥感に駆られています。二番煎じでもいい、何か一つでも大きな手柄を立てて、自身の存在を証明したい……そう考えているはずです」
スカーレットの瞳が、策士の光を帯びて輝く。
「いや、さっぱり分からん。スカーレット殿、レオニダスだと何故チャンスなのだ? 奴が手柄を求めているなら、我々の首を狙ってくるのは必定ではないか」
ゾルトも困惑顔だ。
「ええ、レオニダスは手柄に飢えています。それこそが、私たちの切り札なのです。レオニダスの欲する『手柄』を与え、引き換えに魔界の再建に必要な『力』を手に入れるのです」
「そんなことが……本当に可能なの?」
もしそれが本当なら、夢のような話だ。
経済の破綻、食糧不足、治安の悪化、王都の復興……現状の問題は山積みで、解決の糸口さえ見えない。
それを、敵である勇者を利用して解決する?
「はい。では、作戦を説明します」
私とゾルトは、ゴクリと唾を飲み込み、スカーレットの言葉を待った。
彼女が語ったのは……私が思いつきもしなかった、あまりにも大胆で、そして狡猾な起死回生の一手だった。
「……スカーレット、その案を採用します。早速、レオニダスを王都に迎えましょう」
私は震える声で、しかし力強く決断した。
スカーレットの案、それは『魔界にとって都合のいい条件で降伏する』というものだった。
プライドを捨て、実利を取る。
それは、亡き父上や兄上たちへの冒涜かもしれない。
だが、私は生き残らなければならない。民を守らなければならないのだ。
私は直ちに命令を下した。
『レオニダス一行には手を出さないこと』
『レオニダス一行には最大限の敬意を払うこと』
「殿下、ここで一つ、心に留めておいていただきたいことがあります」
作戦会議を終えようとした時、スカーレットが真剣な眼差しで私を見つめた。
「なんでしょう?」
「殿下は今後も、数々の困難に直面することでしょう。しかし、ピンチというものは、見方を変えればチャンスの種を含んでいるものです。冷静に状況を分析し、大胆に行動すれば、必ず道は開けます」
「……そういうものなのかしら」
「はい。今回の件で、そのことを実感していただけるはずです。もしもの時は私が全力でサポートしますので、安心して会談に臨んでください。殿下なら、必ずできます」
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
そうだ、私にはスカーレットがいる。ゾルトがいる。
一人じゃない。
こうして、私は勇者レオニダスとの、国の命運を賭けた会談に臨むこととなった。




