第12話 王都復興
王都エルシリウムに到着した私たちは、言葉を失い、ただ呆然と立ち尽くした。
かつて栄華を誇った美しい都は見る影もなく、瓦礫の山と化していた。
鼻を突くのは、焦げた臭いと、腐敗した死臭。
路上には無数の遺体が折り重なるように転がり、家を失った人々が、虚ろな目でその傍らに座り込んでいた。
ここは地獄だ。この世の終わりの光景が、目の前に広がっていた。
「殿下、いかがいたしますか?」
スカーレットが、私の覚悟を問うように静かに尋ねた。
その瞳は、私の心の奥底を見透かそうとしているようだ。
私は震える拳を握りしめ、深呼吸をしてから答えた。
「即位の儀は後回しよ。まずは民を救うことが最優先。王宮を開放して避難所とし、直ちに瓦礫の撤去と遺体の埋葬を行うわ。死者を弔い、生者を救うのよ」
「……素晴らしいご判断です。もし先に即位をすると仰っていたら、ゾルト殿に頼んでデコピンをしていただくところでした」
「頭に穴が空きそうね……」
スカーレットの冗談に、少しだけ肩の力が抜けた。
私は間違っていなかった。
王としてあるべき姿を、彼女は示唆してくれたのだ。
私たちは直ちに復興支援を開始した。
まずは衛生環境の悪化を防ぐため、遺体の埋葬を急ぐ。
ゾルトが先頭に立ち、瓦礫をどけ、固い地面を掘り返していく。
その背中には、亡き同胞への鎮魂の祈りが込められているようだった。
ゾルトが声を張り上げ、汗だくになって働く姿に心を打たれたのか、呆然としていた住民たちも一人、また一人と立ち上がり、作業を手伝い始めた。
四天王の帰還が、絶望の淵にいた人々に、生きる希望の灯をともしたのだ。
一方、私は王宮の大広間を開放し、炊き出しを行った。
マジェスティアから運んできた食料と、叔父上の馬車にあった物資を惜しみなく放出する。
温かいスープを受け取り、涙を流して感謝する人々の姿に、私の胸も熱くなった。
だが、食料は無限ではない。計算では半月もてば良い方だろう。
「初日はとても順調でしたね。住民からも感謝の声が多く聞かれます。明日もこの調子で進めましょう」
一日の作業を終えた夜、スカーレットが私に微笑みかけた。
それは、氷が解けるような、柔らかく美しい笑顔だった。
いつも無表情な彼女が、こんなに優しい顔をするなんて……。
その笑顔を見られただけで、今日の疲れが吹き飛ぶような気がした。
「ええ。でも、課題も多いわね」
「はい。ゾルト殿が担当している埋葬作業ですが、人手が圧倒的に足りません。衛生面を考えると、一刻も早く完了させる必要があります」
「兵士に限らず、家臣を増やしたいところだけど……先立つものがないわね。当面はボランティアに頼りつつ、有能な人材は身分を問わずに登用しましょう」
私の直属の家臣は、今のところスカーレットとゾルトだけだ。
国を立て直すには、あまりにも少なすぎる。
だが、人を雇うには金がいる。
叔父上の軍資金があるとはいえ、継続的な給与を支払う財源の確保は喫緊の課題だ。
「殿下、即位の件ですが、埋葬が一段落した頃に行うのが良いかと存じます。住民の殿下への信頼も高まっており、反対する者は少ないでしょう。鉄は熱いうちに打て、です」
「拙者も同意見です。カイリシャの件など不安要素はありますが、先送りして解決する問題でもありません。対立候補がいない今こそ、即位の好機かと」
ゾルトも力強く頷いた。
「分かったわ。2人の意見を採用し、埋葬が一段落した後に即位することにしましょう。具体的な日取りはスカーレットに任せるわ」
魔王……。
その響きには、まだ重圧を感じる。
だが、逃げるわけにはいかない。
セリアナのような悲劇を二度と繰り返さないために、私がこの国を変えるのだ。
私は心に固く誓った。
しかし、運命は私に息つく暇を与えてはくれなかった。
数々の困難を乗り越えてきた私に、更なる試練が襲いかかる。
伝令が、顔色を変えて飛び込んできたのだ。
その報告は、私たちの希望を打ち砕く、絶望的なものだった。
勇者一行が、再び魔界への侵攻を開始したというのだ。




