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ハズレ勇者のリトルブレイブ  作者: ま行


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ガストンとの戦い その1

 言葉を交わす事を止めてすぐ、優真達は対峙している怪物の脅威を再認識した。


 それはとても単純な動作、ガストンは戦斧を振りかぶり力任せに振り回しただけ、技も工夫もない、ただ圧倒的な膂力によって振り回しただけ。


 それだけで今まで戦いで感じてきた最大級の脅威を全員が感じ取った。背筋が凍ってしまうような怖気、緊張で固まる体に鞭打ち反射で姿勢を低くした。


 全員確証はなかった。姿勢を下げる事が正しいと判断出来たのは、常日頃からの鍛錬や経験の積み重ねによるもの、しかしそれが正解だった。


 空を切る戦斧が頭上を通る、刃が届いたのではない、風が届いたのだ。姿勢を低くし耐えなければ優真達は吹き飛ばされていた。


 怒り狂うミノタウロスの激烈なる憤怒の一撃、その一撃が頭から爪先までかけて全身に死を刻みつけた。これが戦いの始まりだった。


「ユオルッ!!」

「ああ!」


 優真の司令を聞いてユオルは懐から取り出した煙玉を地面に叩きつけた。巻き上がる煙は視界を制限する、しかしガストンはそれを気にもとめずにまた戦斧を一振りした。


 煙はその一振りによって吹き飛ばされる、視界を遮る事が出来たのはほんの一瞬だった。しかしその間に優真達は行動を開始していた。


“清浄なる光 我らを包み屈強で堅守なる加護を与えたまえ”


「オオッ!!」


 エレリが自身と優真に補助魔法を発動しながらガストンに突っ込む。優真は失牙撃をガストンに叩きつけるよう繰り出した。


 それを戦斧で受け止めるガストン、受け止めさせる事で失牙撃の弱体化の効果が入るのだが、ガストンはそれでも無理やり筋力によって押し戻した。弾き飛ばされた優真は地面に投げ出されるも、受け身を取って素早く立ち上がった。


 優真とエレリはそれぞれ前に出て交互に攻撃を繰り返す。ダメージは微々たるもので、弱体化の効果も期待出来ない。しかし攻撃の手を緩めれば全力の一撃を許す事となる、前衛として下がる事が出来ないと理解していた。


 しかしガストンと打ち合う事が出来ない事も同時に理解していた。まともに受ければ間違いなく大怪我を負う、薄氷を踏む攻防が続く。


 ユオルは二人の攻撃の間を縫って矢を撃ち込んでいた。しかしこれもまた効果はあまりなかった。ガストンの肉体は頑強で矢が深くまで刺さらない、それどころか何本かは表皮に弾かれた。


「当たり前の事だがやはり化け物か」


 そうユオルは毒づくも、射線が通るタイミングでは必ず矢を撃ち込んだ。手を止める気は万に一つもない。それに矢にはある仕込みがあった。


「毒か」


 ガストンは口には出さないもののそれを感じ取っていた。刺さった箇所に微々たるものではあったが違和感を感じる、しかしそれもまったく問題がなかった。


「小賢しいな、鍛え抜かれた我の体に毒なぞ効かぬ」


 事実ガストンの肉体に大抵の毒は効かない。本当は鍛えられた事だけが関係している訳ではなく、魔王による実験と改造の副産物ではあるのだが、その事実をガストンは知らない。ただ毒が効かないという事実は確かなものであった。


「ご丁寧に教えてくれてありがとうよ」


 それでもユオルは毒矢を撃ち込む事を止めなかった。無駄な事をと馬鹿にするガストンだったが、ちくちくと突き刺さる矢は、耳元で飛び回る羽虫の如く鬱陶しい。


「フンッ!!」


 ガストンが全身に力を込めると、筋肉がもりっと隆起する。浅く突き刺さっていた矢はすべて抜け落ちてしまった。


「ブハハハハ!!好調!!好調なり!!勇者に巫女、忌まわしき血筋も恐るに足らず!!」


 高笑いをしながら戦斧を振り回すガストン、言葉通り優真もエレリも、何とか攻撃を凌ぐことに精一杯で、ダメージらしいダメージを与える事が出来ない。ユオル矢も、比較的柔らかい箇所を狙って撃ち込まなければ弾かれてしまう。


 近接攻撃は手詰まりであった。しかしまだ攻撃魔法が残っている。


“揺らめけ炎の矢 敵を疾く撃ち貫け”


 詠唱を終えたリヴィアの炎の矢が宙に浮かぶ、エステルの魔法陣による強化がなされていて、その数は二十本にも及んだ。


 炎の矢はリヴィアが杖を一振りすると、ガストン目掛けて一斉に放たれた。全弾命中しガストンは灼熱の炎に包まれる。だがガストンは、身を焼かれながらも笑い声を上げた。


「温いっ!!温いわ小童共がっ!!ブハハハハハッ!!」


 多少その身を焦がしはしたものの、リヴィアの攻撃魔法もガストンは耐え抜いた。だが炎に巻かれて優真の姿を見失っていた。


「勇者の合一戦技、烈火空波ッ!!」


 背後に回った優真は烈火空波の三連撃を放った。炎の熱に更に燦集烙の極熱が加わる。合わされば火力は跳ね上がった。


「ぐおっ!!ぐぅぅ!!」


 戦いが始まってようやく優真達はまともなダメージを与える事に成功した。しかしここまででもう何手も使ってしまっている、体力はまだまだ十分余裕はあるが、それでも消耗は激しかった。


 ガストンは戦斧の一撃で炎を振り払った。背に刻まれた斬撃と火傷は、シュウシュウと音を立ててゆっくりと消えていく。


「今のは効いたぞ勇者、これを狙っていたとはな」

「そりゃどうも。労力の割に効いてないみたいだけどな」

「案ずるな、我の傷の回復は謂わば生命力の前借りに過ぎぬ。ヴァンパイアの毒婦のそれとは訳が違う」


 優真はガストンの口からヴァンパイアという単語が出てきた事に引っかかった。


「それはディリラの事か?」

「そうだ。あの毒婦を知っているのか?」

「シンラの人たちと協力して倒した」


 今度はガストンが優真の言葉に驚いたような反応を示した。


「あの不死を倒したと?」

「塵一つ残さず消滅させた。もう二度と復活出来ない」

「成る程、それはいい。実にいい。勇者、お前にはそれが出来るだけの力があるという事か。滾る、滾ってきたぞ。ブハハハハッッ!!」


 優真が会話を引き伸ばしたのは、皆に息を整える時間が必要だと思ったからだった。会話に乗ってくるかは賭けだったが、御託の多いガストンの性格ならば乗ってくるだろうという考えがあった。


 それは正しかった。多少は時間を稼ぐ事が出来た。しかしこの会話が逆にガストンの燃えたぎった闘争心に薪を焚べる事になるとは予想出来なかった。


 ほんの一瞬の事だった。ガストンは自らの武器を捨てて優真に飛びかかった。やったことはとても単純だ、巨大な手のひらで優真を力任せに叩いただけだ。


 しかしそれはあまりにも速すぎた。誰も止める事も妨害する事も出来ないまま、優真は叩き飛ばされた。


 咄嗟に身を守ったものの、優真は体から聞いたことのない音が鳴ったのを聞いた。骨が折れたのか砕けたのか、兎に角確実に大きなダメージを負った事だけは分かった。


 そして自分がこのままでは壁に衝突してしまい、待っているのは死だという事も分かっていた。体中熱くて痛い筈なのに頭の中は冷静だった。


 このままでは壁のシミになるだけだと判断した優真は、出来るだけ体を丸めて衝突する範囲を狭めた。頭を守って背中でぶつかるしかない、そして衝撃は護硬によって和らげる。


 その瞬時の判断が優真の命を繋いだ。壁に叩きつけられる瞬間に護硬が発動し、衝撃を完全には和らげる事が出来なかったものの、壁に全身を強く叩きつけられる事態は避ける事が出来た。だが、その勢いは凄まじくて、優真が激突した壁はクレーターのような跡を残しガラガラと崩れた。


 力なく気を失った優真はべしゃっと地面に倒れた。死を免れたものの、全身挫滅に粉砕骨折、大怪我の数々。生きているのがやっとの虫の息であった。


「優真様ッ!!」「優真ッ!!」


 巫女二人の悲痛な叫び声がこだまする。それをあざ笑うかのようにガストンは言った。


「これが力のすべてよ。圧倒的な暴力の前に正義など無力。勇者の亡骸を抱え国へ帰るがいい巫女共よ。人々は死に、魔物が世界を統べる時が来るのを震えて待つがよい」


 ブハハハハとガストンは笑い声を上げた。勇者の詭弁を命ごと葬る事が出来たと、上機嫌の笑い声だった。

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