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ハズレ勇者のリトルブレイブ  作者: ま行


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醜悪な欲望 その2

 暗闇の中で考える。他の皆の位置は頭に入っているけれど、この暗さでは意味がない。寧ろ同士討ちをしないように近づくのは慎重でなければならない。


 皆の実力は大丈夫、不安があるとすればエステルだが、近くにリヴィアがいたから心配ない。


 エレリとユオルについてはまったく問題ないだろう。ユオルはすでに何か手を考えている筈だし、エレリは実力で劣るとは思わない。暗闇という不利を覆して尚身を守ると信じている。


 まず俺が考えるべきは自分の安全の確保だ。この中で一番俺が危険だ、今は頭に血が上っているし冷静にならなければ。


 相手がこの暗がりの状況を作り出したという事は、ローグ達には暗闇でも見通す手段か、戦える方法があるという事だと考える。懐に飛び込まれたとしてどうする、護硬で固められる範囲は限られている。


 いや、考え方を変えろ。完全に防御して無効化する必要はない、満遍なく致命傷を受けない程度に護硬で身を包むんだ。護硬で強化する範囲を広げればきっと効果は薄くなるが、攻撃の際は敵が確実にこちらに近づくという事だ。


 風を切る音が聞こえた。何者かが確実に近づいてきた。体のどこを狙われるのか分からない。痛みに備えて気合いを入れろ。


 ズグリと脇腹に鈍い衝撃を感じた。刃が突き刺さったのだと分かった。痛みはまだない、それに傷は深くはない。護硬の防御が間に合ったんだ、想定通りだ。


「どうした?もっと深く刺してみろよ」


 俺はナイフを持つ誰かの腕をがっと掴んだ。刺さった刃がもっと深く入っても構わない、思い切り力を込めて引きずり込む。相手の怯む声が聞こえてきて、俺は思い切り頭を振りかぶった。


 どこでもいい、当たればいい、腕を掴んだまま頭突きを食らわせる。避ける事など許さない、ぱきゃりと音がして痛みに呻く声が聞こえてきた。


 痛みを即座に柔和調で癒やす。守っていた分傷は深くないけれど、血は流れ続けている。止血だけでもしなければ。


「ぐうっ!!」


 鎖骨付近に激痛と衝撃が走る、何かが突き刺さったんだ。一人を無力化して油断した。触って確認すると矢が刺さっていた。


 この暗闇でも撃てるのか、どんなからくりがあるのか分からないが、敵が接近してきた事に気を取られて間接攻撃を失念してしまった。


「優真っ!!」

「大丈夫だっ!!」


 俺の上げた声に反応したのかエレリの声が聞こえてきた。強がりでも今は大丈夫と言っておかなければ。


「ヒャハハハ!!本当に大丈夫なのかなあ?大事な勇者サマはボロボロだぜ?俺たち程度に遅れを取るなんて勇者サマも大した事ねえなあ!!」


 ローグの下卑た笑い声が響く、実際その通りだから言い返せないが俺が怪我をしたと伝わるのはまずい。


「貴様っ!!」

「お前たちはこの暗闇で何も見えず、今何処にいるのかさえ分かるまい。俺たちと違ってなあ!!ヒャハハハハ!!」


 このままではジリジリと追い詰められていくのは明白だ。飛び道具が使えるのならもう近づいてはこないだろう。今のエレリの反応を聞いて、恐らくローグは俺に狙いを定めた筈、いや最初からそのつもりだったのかもしれない。真っ先に狙われたのが俺だから。


 あれだけの啖呵を切っておいて万事休すか、俺が何か手がないかと考えていると、頭の中に直接声が響いた。


「皆、目を閉じて床に伏せて」


 俺はすかさずリヴィアの魔法による念話に従った。




 何が起こったのかは分からない。目を閉じていたので当たり前なのだが、閉じていても分かる程外が一瞬白んだのは分かった。


「もう大丈夫ですよ」


 リヴィアの声が聞こえたので俺は目を開けて立ち上がった。周りにはローグ含めその仲間達が全員倒れていた。目を押さえて苦しんでいる。安らかに気絶しているのは俺が頭突きをした奴だけだった。


「エレリッ!早く優真を!」

「そうだ!早く傷を見せて!」


 ユオルがそう言うとエレリとエステルが駆け寄ってきた。暗くて俺にもよく見えていなかったが体中が血まみれだった。ゆっくりと横に寝かされると、エステルが手早く魔法陣を描き始めて、エレリが俺の胸に手を当てた。


「よかった。傷はそんなに深くない」

「エレリさん、活性化の魔法陣を描きました。治癒をお願いします」

「分かった。陣を発動して」


 エステルが魔法陣を杖で叩くと、暖かい光が体を包み込んだ。ぽわぽわとして、ちょうどいいお湯に浸かっているような気分だ。エレリが回復魔法を使うと、更に体の痛みと疲労、そして外傷がみるみるうちに治癒されていく。


「ふう、助かったよ二人共ありがとう」

「いいの。でも傷は塞がったけれど、失った血が戻る訳じゃないから無理しないで」

「暫く魔法陣の中にいた方がいいと思います。私が魔力を流し続けますから」

「ごめんエステル、お願いしてもいい?」


 頷くエステルの言葉に甘えて俺は体を起こした。座った姿勢でローグ達の方を見る。


 俺が頭突きした男以外の近くには、何やら眼鏡のような物が落ちていた。ユオルが全員を縛って地面に転がしている。拾い上げてユオルが観察して俺にそれが何かを教えてくれた。


「これを使って暗闇の中でも視界を確保していたんだろう。見たことない魔道具だからこの迷宮で手に入れた物かもしれないな」

「ユオル様、ワテクシにもお見せください」


 そう言えばマグメはユオルに渡したままだった。マグメは画面からにゅるりと出てくるとその体で魔道具を包み込んだ。何かもぞもぞと動いていると思ったら、ぺっと吐き出すようにユオルの手に魔道具を投げ出した。


「アステルでも見たことのない機構ですね、ユオル様のお見立て通りかと。もう一つ分かった事があります。ローグと名乗っていた男の持ち物を確認してみてください」


 マグメに言われた通りにユオルが動くと、何やら手のひらくらいの大きさの黒い球体が出てきた。目のような模様がついていておもちゃの目玉のようにも見える。


「恐らくその道具の対となっていると思われます。どう考えてもあの暗闇は不自然です。迷宮の明かりが消えただけではあれほどの暗闇にはなりませんから」

「あの時ローグが弄っていたのはこれだったのか」


 ユオルがその黒い目玉のまぶたを下ろして目を閉じさせる、すると部屋があの時とまったく同じ様に真っ暗闇になる。次の瞬間には部屋はまた元通りの明るさを取り戻す。


「これで暗闇で相手は孤立するが、自分たちはこの魔道具で好きに動き回れるって訳だ。今確認したが、これを装着していれば暗闇はないも同然だったよ」


 やはりローグ達にはこちらの動きは丸見えだったんだ。最初は近づいてきたのに、遠距離での攻撃に切り替えたのは、俺が捨て身で一人倒したからだろう。


 危なかった。あのまま暗闇が続いていたらと思うとゾッとする。だからこそ、何が起きたのかが知りたかった。


「リヴィアは一体何をしたんだ?」

「抗魔法が間に合いませんでしたから、他に手がないか考えたんです。周りの状況や相手が仕掛けてきた事を思うと、奴らには動ける手段があった。何かまでは分かりませんでしたが、ローグが致命的なミスを犯したんです」

「ミス?」

「私達が何も見えないと言った後、自分たちとは違ってと言いました。だから私は咄嗟に強烈な光を放つ魔法を唱えました。攻撃魔法とかではなくただ強く杖の先が光るだけですが、直視すると危険だし、皆の体が影になってしまわないように目を閉じて伏せてもらったんです」


 成る程と思った。目を開けてローグ達が地面に転がっていたのは、強い光を直接見たからだったという事か、しかも暗がりでも相手がハッキリと見える魔道具越しに光を直視した。


 確かにこれは自分たちは見えると言ったローグのミスだ。機転を利かせてくれたリヴィアのお陰で、全員を殺すことなく無力化する事が出来た。


「優真、こいつらをどうするつもりだ?担いで迷宮を出ようってんじゃないよな?それは断言するが無理だからな、誰か死ぬぞ」

「大丈夫だよ、使えそうな情報がある。確認したいんだけど、強制的に転送されるのって何か悪影響ってある?」

「いや何も。ただ本当に迷宮外へ転送されるだけだ」

「じゃあ簡単だ。皆集まってくれ捕縛したローグ一味もまとめてな」


 フレデリック王は言っていた。迷宮で徒党を組めるのは五人まで、そしてもう一つ、迷宮内で合流してもその制限は破れない。


 ルールを厳格に定めたのなら、定めた側もそれに従わなくてはならない。俺たちはこれで合計十人、きっちりルール違反だ。


 ペナルティによって迷宮外へ強制転移させられる。全員まとめて安全に外に出る事が出来た。後は捕まえたローグ一味を兵士に引き渡すだけだ、安心したからか俺は大きく息を吐き出した。

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