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ハズレ勇者のリトルブレイブ  作者: ま行


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魔王城 その2

 私は魔王様のおられる研究室の扉をノックした。本来研究室ではなかったのだが、魔王理人様がご自分で改造なされたのだ。


 短く返事がしたので扉を開けて入室する。


「失礼します魔王様」

「セラ、頼んでいた資料は持ってきたか?」

「お持ちいたしました」

「よしそこに置いておいてくれ、もう下がっていいぞ」


 私は資料を指定された場所に置いたが、下がるという指示は聞かなかった。始末される事を覚悟の上で魔王様に申し上げたい事があった。


「魔王様」

「下がれという単純な命令さえ聞けないか?お前は他のクズよりも使えるから置いておいたが、考えを改める必要がありそうだな」

「それはどうぞお好きになさってください。魔王様のお心のままに、私はその為に存在していますから」


 私の言葉で魔王様は大きくため息をついた。机に向かっていた姿勢をこちらに向けた。


「くだらない話なら聞かないからな」

「ディリラ様、ネーロ様、両名の死亡が確認されました。討伐したのは勇者です」

「死んだか、使えん奴らだ。もういいか?心底興味がない」


 魔王様の表情はピクリとも変化しなかった。心の奥底からどうでもいいという気持ちが態度からも見て取れた。


 幹部として手を加えた魔物であっても、魔王様からしてみればどうでもいい存在らしい。しかし魔物の同胞である私は死した二名の評価を聞いておきたかった。


 魔王様は無駄だと断ずるだろう、だけどその生には意味があったと私だけでもいいから記憶しておいてあげたかった。


「ディリラ様もネーロ様も、多くを殺しそこに生きる人間を追い詰めました。かの者たちの作戦は上手くいっていた。どうして負けてしまったのか、魔王様ならお分かりになりますか?」

「…それが聞きたい事か?」

「そうです」

「…作戦の詳細、経過、そして結果をまとめて持って来い。俺はその馬鹿二匹が何をしていたのか知らん。そうしたら考えを聞かせてやる」

「そう言われると思いすでにまとめておきました。御覧ください」


 私は予め用意しておいた報告書を魔王様に渡した。シンラとマルトアでの出来事を、出来る限りの情報を集めてまとめたものだ。魔王様はそれを受け取ると、うず高く積まれた本の山に身を投げ出し読み始めた。




 報告書を読み耽る魔王様を見る、積まれた本の山はもうすでに読み終えており、内容もすべて頭の中に入っているそうだ。片付けますと言ったが、本に囲まれている方が落ち着くからと断られてしまった。


 魔王様はご就寝なさる時にも適当な場所で眠る。本の上であったり、椅子の上で腕組みをしていたり、用意した資料を床に撒いてそこで眠られていた事もあった。


 ベッドをご用意すると申し上げたのに、この方が休息になると言って聞かなかった。魔王城に一室貰っている私の方が豪華な暮らしをさせてもらっているかもしれない。


 魔王様は常に研究と開発に注力なされている。魔物を使って実験し、種族の能力を高めようとしている。その内容は他の魔物が聞いたら、きっと魔王様に大いに反感を持つであろう実験だ、だから実験に使った魔物は必ず処理される、例外は今まで一度もない。


 魔王様には大いなる力がある、今までの人間との争いの中で、一度たりとも忌々しい神獣と呼ばれるあの獣を傷つける事は出来なかった。魔物はいつもあの獣が連れてくるよそ者に負け、この深い地の底に追いやられてきた。


 しかし理人様は今までの魔王様と何かが違うらしい、どんな能力なのかは知らないが、あの獣に深手を負わせた。世界を渡る奴の力を大きく削ぎ、今もエタナラニアに直接干渉出来ない程弱体化させている。


 城に残された戦いの歴史の中で理人様より力を持った魔王の出現は一度もなかった。彼は私達魔物の希望、魔族の悲願を達せられる唯一の存在なのだと私は確信している。


 長い時を経て行使する事が出来る「魔王召喚の儀」は、我々魔物に力をもたらしてきた。しかしいつも獣が連れてくる勇者に負けて、魔王は殺されてきた。魔物はその度弱体化し、僻地へと追いやられた。


 圧倒的に力で勝っているのは我らの筈なのに、どうして魔物の歴史は負け続けているのだろうか、それが私には不思議で仕方がなかった。


「おい」


 ぱさりと紙束で頭を叩かれた。いつの間にか魔王様が目の前にいた。


「も、申し訳ありません!考え事をしておりました!」

「お前が見ろと言っておきながら呆けるとはいい度胸だな。まあいい、そんなことよりもお前が聞きたかった事を話してやる」


 魔王様は何処からか椅子を二脚引っ張り出すと座れと指示された。私はその椅子を受け取り、魔王様と向かい合って座った。




「前提として言っておくが、勇者に負けて死んだ時点で俺はこいつらに価値はないと判断する。それはいいな?」

「…はい」

「勇者を殺せば魔物側は一気に優勢となる。新たな勇者を呼ばれる可能性はあるが、殺せるなら殺した方が有益だ。だから負けて死ぬのは論外だ」


 私は黙って頷いた。それは魔王様の言う通りだったからだ。


「しかしこいつらがやってきた事を評価しない訳ではない。寧ろ俺はどちらも命令に忠実な事に驚いている。勇者が現れるまではちゃんと多くの人間を殺し、環境に多大な損害を与えている。能無し共と思っていたが存外やるじゃないか」


 魔王様はディリラ様の報告書を抜き出して私に差し出した。私がそれを受け取ると話し始める。


「ディリラの失敗は因縁のあるシンラに固執した事だな。内容そのものは悪くない、命を多く奪い去り土地を汚染した。シンラに残された爪痕は大きい。俺の見ている大局にはまるで役立たないが、命令はちゃんと遂行した」

「シンラという場所が悪かったという事ですか?」

「情報が多く残っている、エルフは長寿でその時の恨みを抱えた者もいるだろう。傲慢なディリラはそいつらを屈服させる事で自尊心を満たそうとしたようだが、情報は武器だ、お前は武器を揃えて待ち構えている所に突っ込んでいくか?」


 ディリラ様はシンラを落とすと決めてから入念な準備をしていた。それは作戦の成功率を上げる為ではなくて、元々待ち構えている相手に対しての備えであったということか。


 確かにディリラ様の事をまったく知らない場所で同じ事をやったのなら、被害はもっと大きく出来た筈だ。それにあの剣士を呼び寄せる事もなかったかもしれない。あの剣士はディリラ様にとって大きな敗因だ。


「死んだから無価値だが、その分殺した事は評価してやる。まあ記憶に留めておく価値はないがな。では次」


 ネーロ様の報告書を渡される、魔王様は少し苦々しい表情をしていた。


「こいつは目の付け所や殺した数には目を見張るものがあるが、くれてやった能力の割に結果がお粗末過ぎる。もっと多く殺せた筈だ、正直あまり褒める所が見当たらない」

「そうでしょうか?追い詰めた度合いとしてはネーロ様の方が高いと思われますが」

「少々人間の欲望を食い荒らしすぎたな、作戦そのものは悪いとは言わない。マルトアに目をつけたのはいい、そこを潰せたら確かに多く人を殺せる。だが、失敗したとなれば話は別だ。今後ここに手出しするのは難しくなる。それが悩ましいんだよ」


 魔王様はますます苦虫を噛み潰したような顔で頭を抱えた。この感じの魔王様は初めて見た。


「恐らくだがネーロは人間の欲望に当てられたな、自分が状況をコントロール出来ている事に味をしめて、もっと食える、もっと荒らせると、当初の想定よりも作戦の規模を拡大させたのだろう。静かにじわじわと締め付けていれば、結果はもっと違っていた筈だ」

「目論見通り、分断と掌握は出来たと?」

「欲望を守る者にとって共通の敵というのは叩きやすくて仕方がない相手だ。マルトアの認識を一枚岩にされた事は痛手だ。襲撃はもう成功しないな、ここ専用の魔物を作っていたが破棄するしかないな」


 成る程、ご自分の研究成果が無駄になられる事を憤慨なされていたのか。ネーロ様の作戦や行動は、かえって魔王様の不利益となった。そういうことだろう。


「だが多く人を殺したという一点においてネーロはよくやった。それだけは評価してやる。後はゴミ以下だ」

「分かりました。お時間取らせてしまい申し訳ありません。ありがとうございました魔王様」

「こんな事聞いてどうしたかったんだ?この魔物共を評価してもらいたかったのか?最初に言ったがこいつらが負けて死んだ時点で無価値なんだぞ」


 困惑する魔王様に私は言った。


「ディリラ様もネーロ様も、無価値でも生きていたと私が記憶しておきたいのです。出来れば魔王様にも」

「無理だな、無駄だから」

「分かっております。では失礼致します」


 私は魔王様に一礼するとその場を立ち去った。私はお二方の事を好ましく思っていなかった。礼儀はないし、好き勝手言うし、粗暴で品性もない。だけど魔物の為に戦ったという事実を名誉として記憶に刻み込んでおきたかった。

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