優真の戦技
勇者の遺した戦技の一つ一つ詳細をイヴに教える。理論的に自分では分からない部分はマグメが代わりに説明してくれた。使えると言っても理解している訳ではないので助かった。
「ふうむ…」
「何か分かった?」
「ふん、ふん、ふむ…」
これはまた自分だけの世界に入っているな、俺は暫しイヴが帰ってくるのを待つことにした。
素振りに走り込み、結構長い時間を潰していると、イヴが成る程と一言呟いた。何か分かったんだろうなと汗を拭きイヴの所へ戻る。
「優真君、組み合わせについて大体理解出来たよ。導き出された組み合わせは五つだ」
「一つ余るって事?」
「十の戦技柔和調だけは恐らくどの戦技とも相性が悪い、というよりもこの戦技だけ独立しているというか、単体で十分完成されていると言った方が正しいね」
柔和調か、確かにこの戦技だけは他と毛色が違っている。回復する為の手段だし集中力を要するから、同時に使うのは難しいと思う。
「じゃあ五つの内訳を教えてくれ」
「まずは先のネーロ戦で見せてくれた獣駆け、芽吹、乱れ咲きの組み合わせだね。そもそも獣駆けは非常に使い勝手がいい、どんな戦技の基礎となりえるものだ」
「機動力は生命線だもんな」
「対して芽吹と乱れ咲き、こちらは随分使い勝手が悪い。芽吹を発動してから何度も攻撃を当てる必要があるし、そのまま乱れ咲きに移行する必要がある。発動出来れば高威力の戦技だが、手間を考えると見合わないね」
戦技芽吹自体には大した攻撃力はない、魔力が込められた斬撃ではあるが、言ってしまえばそれだけとも言える。
「だからこそ獣駆けが活きると優真君は考えた訳だ」
「うん。何度も斬る必要があるけど、敵も黙ってただ斬られる訳じゃない。なら高速で移動して、かすり当てでも構わないから兎に角斬撃を蓄積させる方向で考えてみたんだ」
「それが見事バッチリ相性が良かったという事だね。名前はあるのかい?」
「名前?」
「これはいうなれば優真君の戦技だ、新しい技術には新しい名前が必要だと思うよ」
名前、そんな事考えもしなかった。
「そもそも元になる戦技あってこそなのに、俺が勝手に名付けていいのかな?」
「勿論だとも。そもそもこの戦技は勇者の為に遺されたもの、君が創意工夫をして新しい活用法を見出すのも、この戦技を継承する事に繋がると僕は思うよ」
「…よし、なら今からこの戦技は千刃天花としよう。何となくパッと思いついた名前だけど、しっくりくるし」
新しい勇者の戦技、俺が編み出した俺の戦技、名前をつけただけなのに、何だか少し誇らしくなった。
「では次、ディリラという魔物相手にとどめを刺したのは、四式重戮を発動しながらの、倶利伽羅による連撃だったね?」
「そうそう。ただあれは確かに高威力で決定打になるんだけど、相性で言ったらどうなんだろう。あまりにも消耗が激しいからなあ」
「いいや、僕はそうは思わない。この組み合わせは君のとって一番相性がいいとさえ思う」
「本当か?使う度にぶっ倒れる戦技だけど」
「その問題点を無視できるくらいに、この戦技が必殺の技だってことさ。決める事が出来れば不死すらも消滅せしめる事は君が実証したじゃないか」
言われてみると確かにそうかもしれない、ディリラを撃退でも封印でも戦闘不能にさせる訳でもなく、完全消滅させる事が出来たのはあの時の戦技あってこそだ。
後の世の禍根を断ち切った戦技の組み合わせだと考えると、問題点はあってもそう悪い事ばかりじゃないのかもしれない。
「名付けるならそうだな、彩虹赫力というのはどうかな?地水火風の力を束ねて空を斬り裂く消滅の九連撃」
「ああいいねそれ。よし、決まり」
四式重戮と倶利伽羅、共に高威力の戦技の合わせは勝敗を決する切り札として最適だ。使い所は限られているが、上手く運用できればこれ以上頼もしい戦技はない。
俺たちがそんな話し合いをしている最中、リヴィアとエレリがハンターギルドから戻ってきた。まさかの人物を連れて。
「ソテツ!来てたのか!?」
「どうもどうも優真殿、ご活躍聞き及んでおりますよ」
どうしてマルトアにと聞く前に、リヴィアとエレリがその理由を説明してくれた。
「ソテツ様はシンラよりある武器をお運びになられたのです」
「もしかして、そのエレリが背負っているそれ?」
「そう、神斧槍エルシュリオン。かつての巫女が使った武器よ。シュヴィクさんがソテツに頼んで持ってきてくれたの。私の新しい力」
エレリがエルシュリオンを手にとって見せてくれた。見るだけでも圧倒されるような凄い武器だというのが俺にも分かる。かつての巫女が振るった武器、俺が持つ神獣の剣と同じようなものだろうか。
「イヴ殿、お久しぶりにござる」
「いやあとても丁度いい所に来てくれたソテツ君、君以上に適任な者はいないよ。ささっ、こっちに来てくれ。ほら、優真君達も早く」
ソテツとイヴは挨拶もそこそこにして、イヴが強引にソテツを引っ張って行ってしまった。まだ新しい戦技の話の途中だったのに、俺たち三人は顔を見合わせて肩をすくめると、その後を追った。
俺は街の外の開けた場所でソテツと対峙していた。互いに剣を構えて立ち会う。
「成る程、新しい戦技の実戦がしたかったと」
「威力が未知数だからね、ソテツ君並の実力者じゃないと本質の見極めが難しい」
「拙者の得意分野でござる。さあ優真殿、いつでもどうぞ」
ソテツの構えは型に嵌らない、体の力を抜いていついかなる状況からでも即座に動けるようになっている。いつ見ても実力が底知れなくて恐怖すら覚える。
「じゃあ優真君、先程解説した組み合わせを試してみてくれ。まずは烈火空波から」
燦集烙を発動し低く構える、剣を振り抜くと共に斬空を発動し斬撃を飛ばす。超高温の炎をまとった見えない斬撃が相手を襲う戦技だ。
「どわっ!アチチチッ!」
ソテツは烈火空波を光速の抜刀術で叩き斬った。それでも熱までは斬る事は出来ず、火傷を負わないように距離を取った。
「燦集烙はシンプルかつ強力だ、攻めにも守りにも使えるが剣に纏うという性質状、敵に肉薄しなければならない。しかし斬空と組み合わせればその間合いの問題も解消される。今のように避けても防いだとしても確実にダメージを与える事が出来る」
「おおすごい、ソテツに一撃入れたのは初めてだ」
叩き落されたとはいえ、ソテツにダメージを負わせた事は一度もなかった。それだけで烈火空波がどれだけいい組み合わせなのか体感できた。
「ソテツ君、大丈夫かい?」
「なんのこれしき、次をどうぞ」
「優真君、次は鋭刃毒牙だ」
剣を構えて死蜂突きを繰り出す。しかしただ死蜂突きを使う訳ではない、この戦技には失牙撃も加えられている。
ソテツは以前のように死蜂突きを躱すが、戦技の完成度が高まったからか、剣に纏われた風に引っ張られ、躱しきれずに防御した。攻撃を防いではいけないとソテツも分かっていただろうが、それでも防ぐしかなかったのだ。
「ぐおっ!こ、これは…」
鋭刃毒牙を防いだ刀を、ソテツは持っていられずに手放した。
「死蜂突きは回避と防御がとても困難な戦技、そこに弱体化をさせる失牙撃が加われば、とても厄介な戦技になる。確実に相手の能力を削ぐ、そういう目的の戦技だ」
「これは効果的にござるな、優真殿がもっと戦技を使いこなせるようになり、精度が増せば増す程、鋭刃毒牙だけでも相手を圧倒出来るようになるかもしれません」
想像以上の効果を目の当たりにして、俺自身が驚いていた。戦技の組み合わせだけでここまで色々出来るようになるとは、俺も少しは成長しているのだろうか。
「最後の戦技はソテツ君にではなく、あの大岩目掛けて放ってみようか。瞬間で発揮される威力が一番高い戦技だろうからね、安全の為にも」
「分かった。じゃあ皆ちょっと離れてて」
俺は全員が下がったのを確認すると、拳に力を込めて更に護硬によって包み込んだ、発破掌の威力を護硬で包み込み、打撃の衝突直前に開放する。
轟音を響かせ目の前の大岩が粉々に砕け散った。その威力は凄まじく、打撃地点から大地すら抉る取って広がっていた。
「轟砲砕破、発破掌の爆発の威力を護硬で抑え溜め込む、そして任意のタイミングで爆発の威力を開放する事で、発破掌の威力を集中させ向きをコントロールする事も出来る。発破掌より発動が遅いが、威力は桁違いだ」
「これが…俺の新しい戦技…」
「勇者の遺した力が新たな勇者に力を与える、今優真君は、確かに過去の勇者から思いを受け継いだのだと僕は思うよ」
勇者の十二の戦技から、新しく五つの戦技が生まれた。俺が戦いの中で掴んできた感覚がこの戦技まで導いてくれたんだ、新たな力を握りしめるように、俺は強く拳を握った。




