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ハズレ勇者のリトルブレイブ  作者: ま行


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相談の夜

 食事の後、俺はリヴィアとエレリにソテツの事を話していた。


「滅茶苦茶怪しい」


 エレリはジトっとした視線で俺にそう訴えかける。


「優真様ごめんなさい、私正直申し上げましてあの方苦手です」


 リヴィアの言い分はまあ分からなくもない、特に馬が合わない性格だと俺も思う。


「でも優真が勇者だって気が付いたのは何でだろ?神獣様の紋章を見たのかな?」

「どうかしら、神獣様の紋章だと気が付ける人はそう多くないと思うわ。特にここはもうエラフ王国から離れているから、信仰がなければ尚更知らないと思うけれど」

「馬車に乗せてくれた商人さんから聞いたとか?」

「いやそれが、俺もそう思って聞いてみたんだけど、ソテツには何も話していないんだってさ。どうも必要のない事は話さないって人らしくて」


 商人は何処までもビジネスライクな人という感じだった。この馬車に乗る事が出来たのも、懇意にしていたバンガンさんの口添えあっての事だった。


「じゃあますます怪しい!」

「それもそうだけどさ、ただ悪い人って感じはしないんだよな。変な人ではあるけど」

「それは…、確かに私もそう思うけど…」


 俺の言う事に同調したのか、エレリの語気は弱まっていった。バレたら困る訳でもないが、不思議な事に変わりはない。だから俺は思い切って直接聞いてみる事にした。


「今晩の見張りの担当時間、俺とソテツを一緒にしてもらうよ。そこで色々聞いてみる」

「…大丈夫ですか?」


 リヴィアは心配そうに聞いてきたが、俺は笑って答えた。


「大丈夫だって。それに近くに二人もいるし、何かあってもそれだけで俺は安心できるから」

「優真様…」

「まあ優真の好きにしてみていいと思う、その為に私達がついてるんだし」

「ありがとう、何か分かったら二人にも教えるから」


 俺は二人に感謝を言うと、早速商人の元へ行き見張りの時間について相談をしに行った。




 夜は暗くて焚き火の火を絶やさないようにしないといけない。それに魔物の警戒も怠る訳にはいかないし、案外やることが多い。


 それでも体を休めなければ十分な働きが出来ないし、体調を崩す。自分の体の状態を把握して健康管理を行うのは旅の基本だ。


 まあ火を絶やさない以外に今回はやることがあるのだが。


「なあソテツ、何で俺が勇者だって分かったんだ?」

「おや降参ですかな?」

「まあそうだな、うん降参だ」

「潔さもまたよし、ではお教えしましょう」


 ソテツは焚き火に薪を追加して答えた。


「拙者、魔物狩りを生業にしていると申しましたな」

「ああ、ハンターって奴なんだろ?」

「然り、魔物と相対するが拙者の勤め、切った張ったが日々の常、さすれば魔物の変化に敏感にござります」


 妙に芝居がかっているが言っている事は分かる。朗々とした語り口は中々に心地いい。


「近頃の魔物、斬った手応えは変わりませんが明らかに何処かが違います。何処と申されても困りますれば、戦いを生業にしている拙者の勘、そう馬鹿には出来ないもので御座候」

「つまりどういう事?」

「思うに魔物の大将に変化があったと考えます。さすれば自ずと答えは見えてくる。伝説の魔王とやらが復活したと考えるが自然にございます」


 そんな事を戦闘での肌感だけで感じ取ったのか、強さも只者ではないと思ったが、洞察力も並外れたものがある。


「拙者それほど伝承に詳しくはござらんが、魔王が現れれば勇者も現れる。それは間違いございませんな?」

「そうらしいな」

「勇者には巫女が付き従うと聞きました。彼女達がそうなのでは?」


 リヴィアとエレリの事だ、流石にそこまで分かるのはおかしい気がして俺は聞く。


「そんな事どうして分かる?」

「ふふっそう警戒されるな、別に難しい事ではござらん。こういう稼業をやっていると分かりますが、皆段々と世の風に荒んでいきます。殺し殺されが我らの日常、自然と物腰も変わってくる。お二人は高貴な雰囲気を隠せておりません故分かりやすい」

「でも旅慣れしてるって言っただろ?」

「ええ、まるで誰かから一から十まで手取り足取り教わったかのような、手順をきっちり守った野営の準備でした。察するにあれは騎士団仕込みと言った所か」


 野営の準備だけでここまでの情報を悟ったというのか、警戒を解いていたがもしかしたらまずいかもしれない、体に力が入って強張っていくのを感じる。


「おっと申し訳ない、脅かすつもりはござらんかった。ちょいと悪い癖でして、こうして観察癖があるのでござる。種明かしをすると、拙者が見抜いたのは巫女のお二人で、優真殿ではござらん」

「リヴィアとエレリの方が巫女だって分かったって事?」

「お二人の才覚見事なもの、魔法使いとしても戦士としても、相当高度な訓練を受けてこられた筈。エラフ人である事からも、王国肝いりの巫女に違いない、そう思ったのでござる」


 そうか、エラフ王国だけが代々神獣の選んだ勇者を招き、そして巫女を従者とし世に送り出してきた。消去法と状況証拠を合わせ、ソテツは俺を勇者だと判断したのか。


「成る程ね、取り敢えずソテツがどうしてそう思ったのかは分かったよ」

「いやあそこまで脅かすつもりはなかったのですが、ついつい反応が面白くておふざけが過ぎました。申し訳ない」


 ソテツは地に額をつけんばかりに手をついて頭を下げるので、俺は慌ててそれを止めて言った。


「いや、最後の方は勝手に警戒しちゃっただけだから。何もそこまで謝らなくていいよ」

「これはかたじけない、悪癖だと自分でも分かっているのですが、どうも口が回り始めると余計な事まで言ってしまう。粗忽者だと勘弁願いたい」

「…お喋りなのは元から?」

「ええそれはもう!拙者母から、口から生まれてきたのではないかと言われたくらいでしてな。自分で腹を痛めて産んだのでしょうと聞いた時には、あの時はつわりが酷かったと返されましてな」


 思わずぷっと吹き出してしまった。どうやらソテツが愉快な人なのは親譲りらしい、それからも一打てば十響き返してくるソテツに付き合って色々な話を聞いて過ごした。




「いやあ拙者の話にここまで付き合ってくれたのは優真殿が初めてにござる」

「そうなの?こんなに面白いのに」

「大抵はうるさい吐き捨てられ、やかましいと邪険にされ、鬱陶しいと煙たがられるものです」


 それは実に勿体ないなと思った。確かに調子良く色々と喋るし、芝居がかって珍妙な語り口ではあるが、間違っていたり破綻した事は言っていない。


「他の人もちゃんとソテツの話を聞けばいいのに」

「いやあ、それはどうでしょう」

「え、どうして?」

「そりゃ拙者は聞いてくれると嬉しいですが、無理強いは出来ません。それに傾ける耳を持たなければ言葉とは、サラサラとした砂のように吹き飛んでしまうもの。皆段々と心に余裕がなくなりつつあるようですな」


 魔王復活によって魔物の活性化が引き起こされている、こうして救済の旅に出ているとはいえ、救える命に限りはあるし勇者おれは一人しかいない。魔王討伐がすぐに果たせればいいのだが、力なき今それも叶わない。


「…悩み事があるのなら聞きましょうか?」

「えっ?」

「優真殿は拙者の話を聞いてくれた。今度は拙者が優真殿の話を聞く番です。話してみれば、案外心も晴れるやもしれませんぞ」


 ソテツの心遣いはありがたいが、それでは弱音を吐いてしまう事になる。俺はなるべく弱音を口に出したくなかった。だけど、話しておける内に話しておくのも大切かもしれない、そう思って口を開いた。


「俺はさ、そもそも勇者って器じゃないんだよ。そりゃちょっとは魔物と戦えるようになった。助けを求める人がいるのなら手を差し伸べる事に躊躇はないけど、人でも魔物でも血が流ればいつも吐きそうになる。甘っちょろいよな」

「ふぅむ」

「やれと言われた事がやりたい事で、それに文句はないけど、それが正しいのかどうか…ちょっと分からない」


 結局争うしかないのかと思うと、何処かやるせない気持ちになる。こんな考えがちらちらと頭に浮かんでしまう。


 暫く沈黙が続いた。マグメよりうるさいソテツが黙ると、その沈黙は小さな針のように突き刺さって痛い。


「拙者は優真殿ではないので、優真殿の気持ちは分かりませぬ。しかしどうでしょう、思い返してみてください、あなたが剣を取り戦った事で取り戻せた笑顔や希望が確かにあったのではないですか?」

「それは…」

「拙者も時たま思います。命の奪い合いに意味はあるのかと。でも拙者が斬らねば守れなかった命も確かにあるのでござる、だから拙者は助ける事の出来た人達の顔を思い浮かべます。そうすると、心に支えが出来ます。またもう一歩進める、そう思えるのです」


 悩みが消えたり軽くなったりした訳ではない、だけどソテツの言う通り心は少し軽くなった気がした。言葉にして初めて自分の気持ちに気がつく事もあるんだと思った。


「ソテツ」

「はい」

「ありがとう」

「これくらい訳ありません」


 俺は焚き火に薪を足すと、立ち上る煙を見上げた。夜空には星が浮かび、それを美しいと感じた。

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