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魔王理人との戦い その1

 セラから予め聞いておいた魔王城への侵入方法で俺達は地底へと下りていく。あの何とも言えない重苦しい空気がどんどん濃くなっていく、城内へと入るが、誰もいないし何もなかった。


「酷い空気です。まるで死者の国のよう」


 リヴィアがそう呟き、俺も同意した。ここは凡そ生ある者の居場所ではない。死が重苦しく背中にへばりついてきている。何かに足を引っ張られているかのように足取りが重い。


「でも進もう。幸い私達の他に誰もいないみたいだよ」

「エレリの言う通りだ、この先には魔王しかいない。行こうか」


 俺の言葉に頷き二人は後をついてくる。それからはただ言葉もなく、俺が前を進み、二人は後ろを歩いた。目指す先は何となくだけど分かる、迷いない歩みで俺は扉を開いた。


 そこは玉座の間、そしてその玉座に魔王は座って待っていた。


「来るとは思っていたがね、まさかそう来るとは思ってもみなかった」


 その声には微かだが確かに苛立ちを感じ取る事が出来た。俺は無表情のまま魔王に聞き返す。


「何のことを言ってるのか分からない」

「やられたよ。いくらそっちにセラがいると言っても、真相に辿りつくとは思ってもみなかった。哀れな馬鹿共に魔物を受け入れるような度量があるとは思えんからな」

「そりゃ生憎だったな。お前が思うより皆賢いし、強いんだ」


 俺のその言葉に魔王は鼻で笑った。


「この程度で賢いとは笑わせる。しかし、魔物を使って満たした死も、世界に漂う閉塞感も薄れたのは事実。ヒントはくれてやったがここまでの事が出来るとは思っていなかった。これは本当だ」

「そうかい、その割に余裕そうなのがムカつくけどな」


 剣を鞘から抜き放ち構える。二人もそれぞれに戦闘態勢を取って魔王に対峙した。しかしそれでも魔王の態度は揺らぐことがない、高々とした態度でこちらを見下したままだ。


「余裕そうじゃあない。余裕なんだ。お前も、巫女も、取るに足らない容易い相手だ。そして俺は無駄が嫌いだ、手っ取り早くて分かりやすくしてやろう」


 魔王が指をパチンと鳴らすと、今までいた玉座の間から一瞬で魔王城の何処かへと移動させらえた。そして俺は、立ち込める黒い霧のようなもので分断されてしまった。


「リヴィアッ!エレリッ!」

「無駄だ、声は届かない。そして俺がお前を殺せばここで世界は終わる。単純明快だろ?」


 そう言うと魔王は空中の裂け目から剣を取り出した。色合いが違うが、あれは神獣の剣そっくりだ。模造品か何かだろうか、その疑問は次の瞬間暴かれる。


「これは神獣を仕留め残った時に集めた血を使って作った武器だ。偽神獣の剣といった所かな、お前の得意なこれで相手してやろう」


 魔王の構えはまったく俺と一緒だった。どこまでもこちらを馬鹿にして逆なでしてくるのが上手い奴だ。交わす言葉はもうない、俺はただまっすぐに突貫した。




 優真の一撃目は獣駆けの勢いを乗せた失牙撃だった。まともに受ければ弱体化は免れないというのに魔王理人はこれを受け止めた。手の内を知っている筈だと考えていた優真は、その行動に一瞬面食らった。


 その隙をついて理人は受け止めた剣を跳ね上げると、隙だらけになった懐めがけて鋭い蹴りを放った。護硬による防御が間に合うも、優真の体は遠く吹き飛ばされる。


 理人と優真の体格にそれほど差はない、だというのにその衝撃の重さと吹き飛ばされた事に優真は驚きを隠せなかった。その様子を見て理人は嘲笑った。


「ははっ、威勢がいいのは口だけか」


 優真は理人の軽口を無視した。空いた距離を詰める為に烈火空波を放つ、灼熱の斬撃が理人に襲い来るも、事もなげに理人はそれを躱した。


 その躱した時に出来た死角に優真はすでに回っていた。死蜂突きを放つ、死角からの一撃で、体勢もタイミングも完璧だった。避ける事は絶対に出来ない。


 しかし理人はそれを避けた。そして優真の剣めがけて思い切り自らの剣を叩きつける、攻撃の体勢であった優真は避ける事も防ぐ事も出来ずにそれをただ食らってしまった。


 当たると確信した一撃が当たらなかった。その事実が優真を焦らせるが、もう一つ心をかき乱す事実があった。剣を持つ腕が痺れている、そして体に上手く力が入らない。この作用を優真はよく知っていた。


「失牙撃って言ったか?何とも猪口才な手を考えつくものだ」


 理人が放った一撃は間違いなく、勇者の戦技である失牙撃だった。何故理人がそれを使えるのか、優真は混乱しながらも柔和調で体を回復させる。


「何故俺がこいつを使えるのか分からないって顔だな。お前は本当に表情に出やすい、嘘がつけないな」

「…うるさい」

「ふっ、まあいいさ。答えは簡単だよ、一度見たからもう覚えた。それだけの事だ!」


 優真は理人の剣の輝きを見て咄嗟に自分も同じ戦技を発動させた。獣駆けで飛びかかってくる理人の剣に合わせて優真もそれを受け止める。


 四式重勠がぶつかり合う。衝撃波が走り、轟音が響き渡った。その力の中心にいた二人の体は、どちらも大きく吹き飛ばされた。優真は受け身を取って立ち上がるが、理人はまるで宙から舞い降りる羽根のようにふわりと着地した。


 攻撃の手が休まる事はない、理人が剣を振るうと優真の頬が斬れて血が飛び散った。斬空を連続で放つ理人に合わせ、優真も斬空を放つ。斬撃がギィンと音を立てて空中でぶつかり合っていた。


 互いに斬空で牽制しながら接近する。次の打ち合いは燦集烙のぶつかり合いだった。熱波が広がり辺りを火の海にする。燃え盛る鍔迫り合いが続いた。


 超高温にも耐えられる理人、しかし優真にそれを耐えきる事は出来なかった。距離を離す為に鍔迫り合いをいなすと、地面に発破掌を叩き込んで爆発の勢いに乗り後ろへ跳んだ。


 激しい攻防の中で、優真は度々柔和調で回復を挟むにも関わらず。理人は汗一つかかず涼しい顔をしていた。ダメージも無ければ呼吸の乱れもない、一方的に消耗しているのは優真の方だった。


「お前は今こう思っているな。いくら何でもおかしいと」


 理人に図星をつかれ優真はギュッと唇を噛んだ。動揺を悟らせない為の行動だったが理人には無駄な事だった。


「健気なものだな。防戦一方だと言うのに心の隙を見せまいと必死になって」


 語る理人に対して優真は語らない。轟砲砕破を目眩ましに利用して紛れ込むと、千刃天花を狙って斬りかかる。狙う位置も仕掛けるタイミングも絶好だと言うのに、理人はそれを防ぎ反撃に転じる。


 どうしても攻めきる事が出来ない優真は焦り始めていた。成長を遂げた優真の攻撃は、一撃一撃が必殺となりうる威力となっていた。しかしそのどれもが通用しない、その事実は心をざわつかせるのに十分過ぎる理由だった。


「このままお前とじゃれ合うのも悪くないが、どうせすぐに飽きるから教えてやろう」


 理人は優真と剣を合わせながら話を続けた。


「確かにお前達の策は上手くいった。驚かされたよ実際な。しかし、俺は今まで他世界の魔王の召喚に成功していないと一言でも言ったか?」

「は?」

「完璧なものではないが召喚の儀を捻じ曲げた術自体は機能する。実際に取り込めた魔王の数は49体、力だけを抽出して貯蔵しているのが666体だ。この意味お前に分かるか?」


 こいつは何を言っている、そう優真は思った。すでに取り込んだ魔王が49体、方法は分からないが力を抽出した魔王が666体、想定していた数よりも桁が違い過ぎる。剣を握る優真の手に汗が滲んだ。


「面白いものを見せてやるよ」


 理人はそう言うと自分の首に剣の刃をあてがった。そして自ら首を斬り落とした。ごちゃりと音を立てて首が地面に落ちる。呆気にとられている優真の足元に首が転がった。


「死んだかと思ったか?」


 優真の足元に転がった理人の首がにやりと笑いながら話しかけてきた。恐怖と驚きで優真は思わず飛び退いた。首だけとなった理人はそんな優真を笑い、首のない体は理人の首を拾い上げ元の場所へ戻した。


 まるでネジを締めるかの如く数回ぐりぐりと動かすと、首は元通りになり傷もすっかりなくなっていた。大量の血の跡だけが生々しく残されている。


「とある世界のとある魔王の力だ。不死とまではいかないが、魔力が尽きない限り体を再生させる能力を持っていた。そして俺の魔力は貯蔵している666体の魔王分ある。何もこの魔王の力だけじゃないぞ、なにせ取り込めた魔王は後48体ある。さあどの魔王の力でどうなぶり殺してやろうかな」


 魔物の死を食い止め、世界の気運を変え、やっと魔王の計画を止めて知らされた事実は絶望的なものだった。優真の心に陰りが見え、その絶望に膝を付きそうになる。


 しかし優真は歯を食いしばってそれを耐えた。今ここで膝をついたらそれこそ負けを認めたようなものだ、何があろうとも戦う意志だけは挫けさせてはならない、優真はその意地を支えに立ち上がってきた。


「勇者の児戯にも飽きてきた。さあ、戦いを再開しようか」


 理人は剣をゴミのように捨てた。落ちた剣は塵となって無に還る。そして理人の体からは漆黒の魔力が立ち上った。迫力も威圧感も、先程とは比べようもないものに変わっていた。


 優真は剣を構えて攻撃に備える、相手にどんな力があろうとも戦いはまだ終わっていない。ただ立ち向かうまでだと自らを奮い立たせた。

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